Lv100第十九話
「朱の盆 -あやめと瑞希とぱとりしあ号-」
登場古生物解説(別窓)
 通っている馬術クラブに来るだけ来てはみたものの、どうにも仲間や馬の前に顔を出しづらかった。
 小学生の頃からずっと練習を重ねてきて、高校生のメンバーの中では一番というくらいまで上達して、満を持して大会に出場する目前だったというのに。
 私の右足首には包帯が巻かれている。松葉杖まではいらないが、あぶみを踏んで馬を激しく操ることなんてできない。
 気負って焦るから落馬なんかしたのだ。
 それが抑えられない程度の実力だったら、元々大会に出たところで……。門から奥まで進んで、あんなに期待してくれていたみんなに顔を会わせる気になれなかった。
 かといって馬術に打ち込み続けてきた私には、他に休日を過ごす場所の当てもない。花が散ってすっかり葉桜になった並木を反れ、普段行かない、右のほうの道に足を向けてみた。
 植え込みや厩舎などで区切られた先にはもう一つ運動場がある。
 そこは確か、乗り方が開発されている途中の恐竜に当てられた場所だったはずだ。馬一筋でやってきたのでほとんど様子が分からないが。
 丁度、何か大きな四足の動物が人を乗せて歩いているところだった。
 馬くらいのものに小さな子供が乗っているように見えたがそうではなく、乗っているのは私とそれほど変わらない女の子で、恐竜のほうの高さが二メートル近くあるようだった。
 首に薄いピンク色をした、扉のように大きく四角い襟飾りがついているのがとても目立つ。丸い体は馬でいう鹿毛のような茶色で、尾には黒い縞がある。四肢はそれなりに長さがあるように見える。
 たまに運動場の外を移動しているのを見たことがあった。
 何という種類だったか。ガリミムス……は鳥みたいなほうだ。あの牛みたいのは……、カスモサウルス。
 女の子を乗せたまま、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。しかしカスモサウルスの足取りはゆっくりで、少しも速足になる気配はなかった。
 緊張感はなく、何か競技を練習しているようには見えなかった。ただ適当に場内を歩いているだけだろう。
 場内には低いついたてや太い丸太がある。カスモサウルスはついたてを跳び越えるのではなくただまたいで通り、丸太に近付くたびにいちいち頭を押し付けた。
 なぜかカスモサウルスの行く先にバケツが何個も放置されている。と思ったら、カスモサウルスは信じられないことを始めた。
 バケツの中には餌が盛られていて、カスモサウルスは騎手を乗せたままだというのに餌を食べ始めてしまったのだ。
 乗りこなせているのかどうか、極めて怪しい。
 だらだらと好き勝手動いているようで、人馬一体の洗練された身のこなしには程遠い。
 騎手は手綱を引かずになぜか腕を左右に振っている。その動きではカスモサウルスの行動を制止できるように見えない。
 恐竜に乗れるといったってこんなものか。派手で人目を引くものだろうが、中身が伴っていない。ピンクの襟飾りが滑稽に見える。
 浮ついていたばかりに怪我をした今の私にはふさわしいのかもしれない。私は自嘲して笑みを漏らした。
 カスモサウルスが運動場の端に止まり、どこかにいたもう一人の女の子が駆け寄った。
 騎手も降りて何か話している。別にそっちまで行ってみなくてもいいかと思ったときだった。
 再び騎手がカスモサウルスの背に躍り上がり、振り返って歩き出した。
 真っ直ぐこちらに向かってくる。
 襟飾りの下にある顔は尖っていて、額からクチバシにかけて黒っぽい色をしているのがはっきり見えた。目と鼻の上には長くはないが太くて鋭い角が三本生えているのだ。
 ピンクの巨大な襟飾りとの対比で黒い角やクチバシが目立つようになっている。威嚇のためだろう、現に私が身をすくめている。
 襟飾りに隠れて見えない騎手が、この恐竜を御しきれていないとしたら……。
 恐ろしい凶器を突き付けたまま、カスモサウルスは私と柵を隔てて立ち止まった。
 それから、騎手が降りて襟飾りの裏から姿を現した。
 私より少し年下の、中学生くらいの女の子だ。ヘルメットの下からふわふわした髪が出ている。手首と足首にはカスモサウルスの襟飾りと同じピンク色のリストバンドが巻かれている。
 ここで止まって降りたということは、カスモサウルスを操れているのだろうか?
 その子は私に話しかけてきた。
「おおっ、木下あやめさんじゃ〜ん、有名人の。どしたの、こんなとこで」
「有名人?」
 彼女は私の右足首をちらりと見て、それから歯を見せて笑った。
「馬術班で一番上手いっつって。お休みだから来てくれたんだ。いやー、嬉しいねえ。馬の人でこっち見てくれる人全然いなくて。みんな真面目でねえ」
 お休み、か。恐竜班である彼女はこちらの事情をどのくらい知っているのだろうか。
「私は相川瑞希。こっちはカスモサウルスのぱとりしあだよ。でもぱとりしあって呼んでもこの子には聞き取れないから、ぱてぃって呼んでね」
「ぱとりしあ……」
 なぜ本人に聞き取れないほど立派な名前を。
 年下ならちょうどいい。騎手に対面したら聞いてやろうと思っていたことを聞いてみた。
「適当に歩かせてるだけみたいだったけど、何だったの?つまみ食いまでしてたけど……」
 すると相川さんの目が一気につり上がった。
「何だとー!私は完璧に乗りこなしてたってのにー」
「え?あれ、思いどおりの動きだったの」
「そうだよー!まったく、馬ばっかりでカスモの競技には目もくれないってわけ?」
 相川さんはすっかり機嫌を損ねてしまった。ああ見えて競技の練習だったというのか。
「でも、全然急いでなかったよね?」
「走ったら失格」
「は!?はしったらしっかく!?」
 競技なのに!?
 つい大声を出してしまい、ぱとりしあが巨大な頭を揺らした。相川さんが手を添えるとぱとりしあはすぐに落ち着いた。
「驚きすぎっしょ」
「ご、ごめん。でも、タイムとか競わないのかなって思って」
「測ることは測るんだけど、満点があんだよね。普通にポイントからポイントに真っ直ぐ歩いたらもうクリアっていうゆるいのが」
 運動場に置いてあるついたてをまたいだり、丸太をいじったりしていたのは、通過するべきポイントを辿っていたようだ。
「ああ、ジムカーナみたいなやつか」
 ジムカーナとは、あまりハードでない障害物を越えながらコースを進む馬術競技である。
 馬の場合ジムカーナは初心者向けの競技とされる。相川さんもおそらく、
「今あやめさんはこう考えている……、「なんだ、こいつ初心者か」と……」
 なぜか斜にかまえて顔を手で半分隠した相川さんに先に言われた。徐々に奇妙な感じに。
「あ、いや、まあ」
「カスモはこの競技がメインなんだよ。っていうかカスモの全力疾走の競争っていうのはないよ」
「どうして?」
 私がそう聞くと相川さんは柵の中に手招きしてきた。足首怪我してるんだけど。
 仕方なく少し回り込んで、ちゃんと入り口から入った。
「うわ、大きい」
「でしょ」
 真横から見ると、ぱとりしあの背中は少し見上げるほど高い。鞍ではなくカーペット生地の布がかかっている。脚は馬よりはるかにたくましく、特に太ももの筋肉は大木のようだ。
 石垣のような鱗で覆われた兜の、側面に開いた丸いくぼみから、丸く小さな眼で一瞥された。かすかにインコみたいな匂いがする。
「カスモサウルスは一応乗るのに適してる恐竜って言われてるわけ。角竜は背中は出っ張ってないし、なんでも食べるし、馬車も曳けるし、こう見えてカスモは角竜の中では体も角も小さいし」
「これで小さいんだ」
「サファリパークにいるようなのよりはね。一度見たことあるけど、ありゃ流石に乗れないわ。でもぱてぃも二トンあるから」
 馬の三倍、家畜の大きさではない。
「群れる習性があるからしつけはできるけど、頭がいいかっていうと、まあ……お察し」
 それはきっとそうだろうな。馬と比べるのは酷だが。
「暴走したら大変でしょうね」
「怒ってもその場で暴れるだけなんだけど、走ったら危ないのには変わりないね。だから小さい頃から人間にべったりで育てるし、」
「速さよりも完璧な制御ってこと?」
「そゆこっちゃ」
 相川さんはもうすでに笑顔に戻っていた。
 そしてぱとりしあの脇腹に近付き、ぱとりしあが装具の一つとして身に付けている縄ばしごに手をかけた。
「ね、ここまで来たら乗ってみようよ。牧場だったら五百円取られちゃうやつだよ」
「えっ、大丈夫かな」
 馬とどう違うか興味がなくはないが、カスモサウルスは二人乗りしても落ち着きを失わないだろうか。足首にも響きそうだ。しかしそういう間にも相川さんは軽やかにぱとりしあの背中に登り、こちらに両手を差し出した。
「引っ張るから。乗ったら足は楽にしてたらいいし」
「あ、じゃあ」
 私は右足首をかばいながら縄ばしごを登った。
 抱き上げられるようにして背中に乗ってみると、馬よりずっと幅広く、またどっしりと重々しく安定していた。
 相川さんの肩越しにぱとりしあの襟飾りの裏側が見えた。そして、ぱとりしあのすぐ前に何があるかは襟飾りに隠れて見えない。
「前が見えない。これは、きついね」
「あっ、分かる?へへっ、だから馬の人乗せてみたかったんだよねー。じゃ、動くよ」
 相川さんが両腕を下に垂らし、それから右腕を横に振り上げると、ぱとりしあが動き出した。ゆったりとした動きで右に向きを変える。
「こっちが見えてるの?」
「腕と脚はね。手振り超重要」
 相川さんが左腕を軽く振ってから両腕を前に上げると、ぱとりしあは前進し始めた。思いどおりに動けていたというのは本当なのだろうか。
 歩いていくぱとりしあの背中の揺れ方は、大きなフェリー船のように緩やかだった。
 運動場の中心から離れたところでぱとりしあは再び立ち止まった。障害物はもっと内側にだけ置いてあり、そこが競技のスタート地点なのが分かった。
「あやめさん、ツイてるねー。カスモの競技をカスモの背中から見れちゃうよ。砂かぶりってレベルじゃないよ」
「い、今からこのまま始めるの?本当に大丈夫?」
「だいじょぶだいじょぶ〜。ぱてぃを信じて〜」
 呑気に呑気に……って言ったって、二人乗りで正確な騎乗ができるものだろうか。何しろ前が見えない分余計に正確さが求められるのだ。
 最初の障害物は高さ十センチほどの角材だった。ぱとりしあのつま先が触れれば軽く動くだろう。ごく低いとはいえ、すぐ前にあると見えなくなる以上、距離を間違い無く読む必要がある。
 相川さんが少し手綱を引くと、ぱとりしあの足取りが変わった。歩幅を狭くしたようだ。
 そして肘を軽く曲げて拳を前に出すと、ぱとりしあは立ち止まることなく角材をまたいで進んだ。特別揺れは感じなかった。
 続く二十センチや四十センチのハードルも、ぱとりしあは真っ直ぐ歩き続けたままスムーズに越えていった。相川さんは間合いを正確に読み取り、ぱとりしあはそれに忠実に応えた。
 右や左にカーブした先にあるハードルも、ぱとりしあはずれることなく中心をまたいで進んだ。
「ハードルはこんなもんだね。次からはもっと実践的なやつだよ」
 前方には丸太が三本、左右互い違いに立っていた。
「実践的?」
「まあ見てなさい……、そっからじゃ見づらいけど」
 ぱとりしあは一番手前の丸太が顔の左に来る位置に立ち止まり、それから首を大きく左にかしげた。
 襟飾りも傾いて、鼻の上の角と目の上の角で丸太を挟むのがちらりと見えた。そしてぱとりしあは首を上下に動かし、角を丸太に強くこすりつけた。
「美人に欠かせない角研ぎの種目ー」
 なるほど実践的だ。
「指示がないと角を研がないの?」
「っていうか、指定の丸太以外で角を研がないように覚えさせるやつだね。これ覚えなかったらその辺のものも本人もボロボロんなるよ」
 そう言う間にも二本目の丸太に移り、角度を変えて角を研いでいた。
 三本目の丸太では鼻の角の正面を磨き、続く鉄柱の列には角も襟飾りも当てることなく間を蛇行してすり抜けていった。
「そっか、硬い鉄で角を研いだら」
「いやー、痛そう!」
 相川さんは大げさに首を振った。が、ぱとりしあに動揺は伝わらなかった。
「ホントに落ち着いてるのね、カスモサウルスって」
「鈍感とも言う……」
 あ、そっちか。
 角で横向きの丸太を押すポイントや、水たまりを避けて淵をカーブするポイントを越え、最後に来たのが例の飼料バケツだった。
 バケツが点々と五つ並んで、中にはボロキューブと呼ばれる乾草を小さく固めたものが入っている。
 ぱとりしあは一つ目のバケツに取り付き、ボロキューブにクチバシで食い付き始めた。三口ほどで相川さんが右手を大きく開いてみせて制止する。。
 次のバケツでは、相川さんは最初から手を開いていた。ぱとりしあは手をつけず次のバケツに進んだ。
「つまみ食いを止められるかどうかの種目」
「ああ、私が思ったのと逆だったのね!」
 基本的なしつけが競技に組み込まれている。馬術競技とは全く意味合いの異なるものだったのだ。
 一つ置きにバケツの中身をついばみ、ゴールラインを通過して、競技のコースが終了した。
「どーよ、完璧だったでしょ」
「うん。確かに」
 勝手な印象を払拭するには充分だった。
 そこに、さっき姿が見えていた、相川さんより少し小柄な子が近付いてきた。右手にはちゃんとしたビデオカメラを構えている。
「いつもどおり完璧だったよ〜」
「へっへー、今度のサク動杯ももらったねこれは」
 相川さんは自慢げに笑っている。
「今の、撮ってたの?」
「あ、ごめーん。撮るのも競技のうちだからって言うの忘れてたよ」
「別にいいけど……さくどうはいって、大会の名前?」
 そう聞くと、相川さんは心なしか肩を落とした。
「実は、カスモサウルスは競技はあっても一か所に集まって大会が開けないのだ……」
「え?何それ」
「デカすぎて他の牧場に運ぶだけでも一大プロジェクトだし……、仲間同士じゃないカスモが何頭も視界に入ったらもう、芋で芋を洗う大乱闘よ」
 言葉の意味は分からないがすごく恐ろしそうだ。
「じゃあ、バラバラに採点した結果を比べるしかないじゃない」
「その採点結果の証拠になるのがこれですよ〜」
 カメラの子が答えた。
「全国のカスモクラブがユースクリーンとかサクサク動画に動画をアップしてるんだよ」
「瑞希ちゃんとぱてぃは成績も人気も一二を争うレベルなんですよ!」
 そう言われて相川さんは再び胸を張り笑う。
 新しい試みといえばそうなのだろう。私は馬術大会の臨場感に愛着があるから、馴染めないものを感じるが……。
 間近で見ていたから、相川さんとぱとりしあが最初に思っていたのと違って息のあったコンビだというのも理解できた。
 ふと、相棒の馬、さつきが恋しくなった。
「私、もう、馬のところに行かなきゃ。ありがとうね」
「え!?もしかしてあやめさん、今日自分の馬に会ってなかった!?」
 相川さんは大きな声を出し、ぱとりしあにも動揺が伝わったようだ。
 気まずがっている場合ではなかったのだ。相川さんがそんな風に焦るのも無理はない。
 しかし私が縄ばしごから降りようとすると、相川さんは私の肩に手を当てて止めた。
 むやみに良い顔を作って振り返っている。
「乗ってきなよ。こんなとこでカスモ臭くなってる場合じゃなかったよ」
 そしてカメラの子と何か頷きあうと、カメラの子は運動場の柵にある門を横に引っ張って開けた。
 相川さんが正面を向いて姿勢を正すと、ぱとりしあは先程までより速い足取りで門に向かった。
「ね、ねえ!ぱてぃに乗ったまま行く気!?」
「その足で行くよりいいっしょ」
「外出ちゃっていいの?」
「しょっちゅう出てるよ」
「馬が驚く」
「驚かない……けど、じゃあ手前で降ろすから」
 そうこう言っている間に門を過ぎた直後。
 相川さんはあぶみを踏み込んだ。
 フッ、と強く息を吐くと、ぱとりしあの歩法はトロットに変わった。
 速度にしたら自転車で軽く走る程度だろう。しかし、二トンの巨体が突き進むと重い震動が起こる。私は相川さんの肩にしがみつかずにいられなかった。
 襟飾りで前がよく見えないのは当然変わらない。細かい地形はぱとりしあが判断しているはずだ。
 相川さんはぱとりしあを信頼し、落ち着いて手綱を握っていた。
 走ったら危ないと言っていたが、トロットに移るのに躊躇はなかった。
 ぱとりしあがもっと速く走れるのを的確に抑えているのだ。
 脇道から場内中央の大通りへ、右カーブに差しかかった。
 ぱとりしあは体をわずかに傾け、上半身を前脚で引っ張るように曲がる。そこに余分な揺れはない。
 こんなに一体になれる騎手と動物がすぐ近くにいたというのに、私は気が付かなかった。
 私は、自分の足元が見えていなかったのだ。
「ねえ、さっきは適当に歩いてるだけなんて言って、ごめんなさい」
「うん。ん?」
 もうどうでもよかったようだ。
 怪我が治るまで空いた時間をできる限るさつきと一緒に過ごさなくては。次の大会にはそれから出るのだ。
 二メートルの背中に揺さぶられて、葉桜の梢が目の前を流れていく。
 目指す厩舎はすぐそこにあった。

 それから二週間後。
 相川さんからメールが届き、相川さんとぱとりしあの動画を見てみることになった。
 「ぱとりしあ(カスモサウルス)」というタグでサクサク動画を検索すると何十件かの動画がヒットし、大体どれも何万回か再生されていた。基準が分からないが人気のありそうな感じがする。
 しかし最新の動画のタイトルは見逃すべからざるものに違いなかった。
 「カスモサウルスに馬の人乗せてみた」である。
 相川さんがサク動の大会で優勝できそうだからとサク動にしたけれど、ユースクリーンより印象は悪い。
 恐る恐る動画を開いてみると、案の定、私が相川さんに引っ張り上げられてぱとりしあに乗るところから始まった。
 画面上にコメントが流れてくる。
 「ぱてぃいいい」「ぱてぃ俺だ!結婚してくれ!」「今回も見とれるほどフリルの色が鮮やかだな」「ぱてぃの後ろに乗るのは俺だあああ」……、とにかくぱとりしあがアイドル扱いなのは伝わった。
 ぱとりしあに乗れる私を羨むコメントはあるが、心配していたほど口汚く罵ってくるコメントはなかった。
 ぱとりしあがコースを進みポイントをクリアすれば、「流石」「参考になる」「今補正した」など、真剣に競技を見つめるコメントが多くなった。
 カスモサウルスによる新しい競技の形が出来上がっていることが読み取れるものだ。
 それにしても、慣れないカスモサウルスに乗せられた私の不安げなことといったら。
 「馬の騎手とはいっても素人だな」「オロオロしてる」「ぱてぃは人を振り落とすような子じゃないから安心しろよ」う、うるさい。
 最後の場面はゴールインしてカメラがぱとりしあに近付くところだった。コメントは途切れず流れ続けている。
 その中の一つ。
 「ダブル美少女オン美少女」……。
 少し迷ったが私はその動画をブックマークした。
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