Lv100 登場古生物一覧
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第一話
[ケラトサウルス・ナシコルニス Ceratosaurus nasicornis]
学名の意味:鼻に角のある爬虫類
時代と地域:ジュラ紀後期(約1億5千万年前)の北米
成体の全長:5〜7m
分類:竜盤目 獣脚類 ケラトサウリア ケラトサウルス科
 四本指の前肢を持つ原始的な獣脚類(肉食恐竜)。吻部先端と眼窩の前にあるトサカ状の角、鋲のような鱗の並ぶ背筋(棘突起)の盛り上がった背中が特徴。
 角は単なる三角の板で強度や殺傷力はなかった。外敵やライバルに対する威嚇、異性や仲間に対するアピール、個体識別に用いたとされる。
 歯は肉食恐竜の中でも特に長く、厚みがなくて縁が鋭い。自身の体格の割に大きな獲物にも深い裂傷を負わせることができた反面、硬い骨を噛み砕くことはできなかったと考えられる。
 同時代・同地域のアロサウルスと比べ小型で珍しいことから、森林で単独生活を送っていたと言われる。

第二話
[オパビニア・レガリス Opabinia regalis]
 いわゆるカンブリアンモンスターの一つ。全長5cm前後。5つの複眼と1本の柔軟な触手を持った頭部が特徴。胴体両脇に並ぶ鰭と鰓や3対の尾鰭などからアノマロカリス類に分類されるものの、そのアノマロカリス類自体、他の生物との類縁関係が不明である。化石のレプリカは2000円程度。
[ピカイア・グラキレンス Pikaia gracilens]
 同じくカンブリアンモンスター。全長4cm前後。柳の葉に似たごく原始的な脊索動物(脊椎動物全体に加えホヤなどを含む)。脊索(脊椎の原型)や魚類的な鰓列、筋肉が認められる。現代にもナメクジウオというよく似たものが生き残っている。化石のレプリカは2000円程度。
[ドウビレイセラス・マミラートゥム Douvilleiceras mammillatum]
白亜紀の、主にヨーロッパ近海に生息したアンモナイト。殻の直径は10cm前後。殻の表面に放射状のうねと、その上に並ぶいぼ状の出っ張りを持ち、かなり装飾的。化石は多く出回っており、1000円から。
[スカフィテス・フンガルディアヌス Scaphites hungardianus]
 白亜紀前期のヨーロッパ近海に生息した「異常巻きアンモナイト」。長さ数cm。異常巻きというのはあくまで特殊な適応の結果であり、病的、あるいは過剰なものではない。スカフィテスの場合は途中まで普通に巻いた殻が一旦直線になり、またフック状に曲がるというパターンだった。異常巻きの中では化石の価格は手ごろで、2000円から。
[フレキシカリメネ・タザリネンシス Flexicalymene tazarinensis]
 オルドビス紀のモロッコ近海に生息した三葉虫。全長10cmあまり。比較的細長い体形をしていた。カリメネの仲間は非常に繁栄したようで、化石の数や種類が多い。価格は保存状態にもよるが、3000円程度。
[エルラシア・キンギ Elrathia kingi]
 カンブリア紀の主に北米近海に生息した三葉虫。全長3cm程度と小型で、偏平な体形。化石は非常に普及しており、300円から手に入る。
[ワリセロプス・トリフルカトゥス Walliserops trifurcatus]
 デボン紀の三葉虫。角を除いた全長5cm程度。三又に分かれた長い角が頭部先端から生え、頭部両脇や胴部・尾部側端からも体節ごとに棘が生えていた。化石は10万円は下らない。
[プシコピゲ・エレガンス Psychopyge elegans]
 デボン紀の三葉虫。角を除いた全長10cm程度。こちらも体側から長い棘が伸びていた。頭部先端のへら状の角、頭部両脇から後方に真っ直ぐ伸びる棘が目立つ。やはり化石は10万円以上はする。
[ディクラヌルス・モンストロースス Dicranurus monstrosus]
 デボン紀のモロッコ近海に生息した、最も装飾の発達した三葉虫の一つ。棘を除く全長は5cm程。体の縁から伸びる棘に加え、頭部中央から二又の角が後方に向かってカールしながら伸び、その先端は前方を向いていた。三葉虫の角や棘にはこのように単なる防御のため以上の複雑な形態を示すものがあり、使途はカブトムシ同様の闘争、餌を砂から掘り返すなどが考えられるが、詳しくは不明。化石は小型三葉虫の中では特に高価で、数十万円。
[ユーリプテルス・レミペス Eurypterus remipes]
 オルドビス紀からデボン紀の欧州・北米近海に生息した、最も繁栄したウミサソリの一種。全長は最大で30cm。鋏や毒針といった武器がないため、捕食性は低かった。化石の価格は数万円以上。
[ディプログラプトゥス・プリスティス Diplograptus pristis]
 オルドビス紀に生息した、筆石(ふでいし)と呼ばれる生き物の一種(半索動物)。円盤形の胴体の周りに球形の生殖胞があり、その下から群体のメンバーである個虫を収納した腕が伸びていた。個虫は羽毛状の触手を伸ばして水中のプランクトンを捕らえる。化石は断片的なものが3000円から。

第三話
[ガリミムス・ブラトゥス Gallimimus bullatus]
学名の意味:膨らんだ鶏もどき
時代と地域:白亜紀後期(約7千万年前)のモンゴル
成体の全長:6m
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア マニラプトル形類 オルニトミムス科
 歯のないクチバシや長い脚からダチョウ恐竜と呼ばれるオルニトミムス類の中で、体形が大きく異なるデイノケイルスや亜成体しか見つかっていないベイシャンロングを除き最大。各成長段階も含め詳しく知られている。
 長く強靭に発達した後肢により、ウマと同等の快速を発揮したと考えられる。また恐竜の中では特に脳の発達したものの一つでもある。
 大きさ以外にはクチバシが特徴的で、やや幅広くて上顎の縁が低い。また内側には棚状の構造が見られ、これにより湖水からプランクトンを漉しとって食べることができたとされる。しかし一般的には、オルニトミムス類は木の葉や果実を主食としたと考えられている。
 また、オルニトミムス類としては腕や手指が短い。巨体または食性のために木の枝を引き寄せる必要性が低かったのかもしれない。

[プロトケラトプス・アンドレウシ Protoceratops andrewsi]
学名の意味:アンドリュース氏の原始的な角竜(ケラトプス=角のある顔)
時代と地域:白亜紀後期(約8千万年前)のモンゴル
成体の全長:2m
分類:鳥盤目 周頭飾類 角竜類 ケラトプシア プロトケラトプス科
 角のない原始的な小型角竜。しかし後頭部のフリルは発達していた。
 樽状の胴体や鋭く強力なクチバシを持ち、生態は今の草食獣に似ていたとも思われるが、おそらく雑食性が強かった。また尾は縦に平たく泳ぎに適しているようにも見える。

[オヴィラプトル・フィロケラトプス Oviraptor philoceratops]
学名の意味:角竜の卵を好んで強奪する者
時代と地域:白亜紀後期(約8千万年前)のモンゴル
成体の全長:2m
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア マニラプトラ オヴィラプトル科
 かなり鳥に近い羽毛恐竜。高さのあるクチバシや短めの尾骨などは鳥に似ていたが、これらは鳥のものと独立に進化したものである。骨の通ったトサカが印象的。
 プロトケラトプスのものと思われた卵とともに発掘されてこのように名付けられたが、後にオヴィラプトル自身の卵を守っていたのだと判明した。

第四話
[メガネウラ・モニイ Meganeura monyi]
学名の意味:巨大な脈
時代と地域:石炭紀末(約3億年前)のヨーロッパ
成虫の翅開長:70cm
分類:節足動物門 汎甲殻類 六脚亜門 外顎綱 有翅亜綱 旧翅下綱 原蜻蛉目 メガネウラ科
 史上最大級の昆虫。細長い体と翅を持った姿は現在のトンボとほぼ同様。
 複眼が小さい、翅が上に畳めない、肢が長い、腹が幅広いなど、トンボと比べ原始的な特徴がある。腹の末端の形状から雌雄が見分けられる。
 その大きさや翅の構造から現在のトンボと異なり、羽ばたきは緩やかで空中停止などはできなかったと考えられる。
 昆虫は呼吸器官が簡素なため、現在の大気の酸素濃度では巨大化することはできない。酸素が充分だったことに加え脊椎動物の陸上進出が進んでいなかった当時、シダ類の森林が広がる陸上は巨大な昆虫やヤスデ、サソリ等に支配されていた。
 メガネウラは現在の猛禽が小動物をさらうように、当時の大きな昆虫を上から襲ったと考えられる。
 幼虫については知られていないが、現在のトンボ同様捕食性のヤゴであったと思われる。

第五話
[ステゴケラス・ヴァリドゥム Stegoceras varidum]
学名の意味:角で覆われた強い屋根
時代と地域:白亜紀後期(約8千万年前)の北米
成体の全長:2〜3m
分類:鳥盤目 周飾頭類 堅頭竜類 パキケファロサウルス科
 パキケファロサウルスと並んで代表的な堅頭竜類(石頭恐竜)。パキケファロサウルスと比べると小柄だった。吻部は短く、ドームと合わせて丸みを帯びた顔付きだった。前肢はとても短い。尾は骨化した腱で固められていた。
 堅頭竜類は頑丈な頭骨を特徴とし、種類によっては非常に分厚く盛り上がった骨のドームとなっていた。これをぶつけ合って、地位や異性等を巡る同種間での闘争を行ったと考えられてきた。実際、ステゴケラスのドームの構造は、シロハラダイカーなど現生の頭突きによる闘争を行う哺乳類の頭骨によく似ている。しかし衝撃やドーム同士がずれたときの力に首が耐えられないのではないか、またドームに傷がないのは頭突きによる闘争を行わなかったからではないかとも言われる。
 従来の考えと違い勢いをつけず頭を突き合わせてから押し合ったか、あるいは相手の脇腹を押したのかもしれない。またドームや角は力比べをしなくとも視覚的なアピールに有効であったと考えられる。
 切り刻むのに的した歯やクチバシで硬い植物の葉を食べたと考えられるが、おそらくは動物の死体や昆虫を食べることもあった。

第六話
[アノマロカリス・カナデンシス Anomalocaris canadensis]
 カンブリアンモンスターを代表する生き物。最大全長60cm。同属には2mに達す種もいた。頭部先端に生えた一対の太い触手と左右に飛び出した眼、輪切りのパイナップルに似た丸い口、胴体両脇に並んだ鰭と鰓、三対の尾鰭が特徴。
 鰭を胴体から独立して動かせたという証拠はない。鰭の根本に肢があったことが分かり、節足動物や有爪動物に近縁とされるが確定していない。
[パラドキシデス・ダヴィディス Paradoxides davidis]
 カンブリア紀に生息した、1mに達する個体もある最大の三葉虫。頭部両脇から後方に長い棘が伸び、脇腹からも各体節から一対ずつ短い棘が生えていた。尾部は小さい。
[ウィワクシア・コルガタ Wiwaxia corrugata]
 カンブリア紀の環形動物。全長数cm。楕円形の体を毛が変化した鱗が覆い、そのうち7〜8対程が長く垂直に伸びていた。鱗の表面の溝が光を干渉させ虹色(構造色)を発したと言われる。下面はナメクジのように滑らかに這うための形になっていた。
[エルドニア・ルドウィギ Eldonia ludwigi]
 カンブリア紀の棘皮動物。直径5cm程度。円盤状の胴体と触手があった。クラゲのように浮遊したという説とイソギンチャクのように固着したという説があるがナマコに近縁で、クラゲやイソギンチャクより複雑な内臓が輪になって円盤部分に入っていた。
[ハイコウイクチス・エルカイクネンシス Haikouichthys ercaicunensis]
 カンブリア紀のごく原始的な魚類。全長数cm。明確な骨格は持たずごく単純な形態をしていたが、脊椎動物(魚)の特徴である鰓や筋肉の列を持っていた。さらに、化石には眼の痕跡がはっきり残っている。開いたままの口でプランクトンを吸い込んで食べていた。
[アユシェアイア・ペドゥンクラタ Aysheaia pedunculata]
 カンブリア紀の有爪動物。全長数cm。芋虫状の胴体をしていたが肢は胴体の太さより長く、先端に爪を持つ。また顎はなく、丸く開いた口の周りに短い触手があった。化石の産出状況から、海綿の上に住みそれを食べたとされる。
[ハルキゲニア・スパルサ Hallucigenia sparsa]
 カンブリア紀の有爪動物。全長数cm。細長い胴体に、同様に細長い肢7対と棘が並んでいた。かつては上下逆に復元され固い肢と柔らかい触手を持つと思われていた。体の前後も不明だったが、端が膨らんでいる方が前らしい。死んで沈んだ生き物の肉を食べたとされる。
[デンドロキストイデス・スコティクス Dendrocystoides scoticus]
 オルドビス紀の欧州・アフリカ近海の棘皮動物。全長10cm程度。偏った三角形の胴体から左右で形の違う触手と長い尾を伸ばした非対称な形状。この他にも当時は左右非対称の棘皮動物が生息していた。有機物の微粒子を吸い込み胴体内で濾し取って食べていたとされる。
[カメロセラス・アルテルナトゥム Cameroceras alternatum]
 オルドビス紀の北米近海に生息した頭足類。殻長最大11mと、非常に大きく真っ直ぐな円錐形の殻を持つ。広義のオウムガイ類に属し、軟体部は現生のオウムガイに似るとされる。現在のイカと同様捕食性だった。
[トリアルツルス・ベッキ Triarthrus becki]
 オルドビス紀の三葉虫。全長3cm程度。殻の形態は標準的な三葉虫そのものだが、肢や大きな鰓が黄鉄鉱に置換されてはっきりと保存された化石が見つかっており、三葉虫の生前の姿について多くの情報をもたらした。
[ネオアサフス・コワレウスキイ Neoasaphus kowalewskii]
 オルドビス紀のロシア近海に生息した三葉虫。全長10cm程度。カニやカタツムリのように、複眼が長い柄の先端に付いていた。砂地に潜って眼だけを外に出していたと考えられる。
[アランダスピス・プリオノトレピス Arandaspis prionotolepis]
 オルドビス紀のオーストラリア近海に生息した、無顎類に分類される甲冑魚。全長15cm程度。顎を持たず口は前方に開いたまま。背鰭以外の体を安定させる鰭はなく、泳ぎは不器用だったらしい。オタマジャクシに似た体の胴体部分が装甲されていた。泥の中の微生物を食べていた。
[メガログラプトゥス・ウェルキ Megalograptus welchi]
 オルドビス紀の北米近海に生息したウミサソリ。全長1m程度。鋏ではなく長い棘の生えた捕獲脚を持っていた。尾の先には先割れスプーンのような鰭があり、中心は棘になっていた。
[プテリゴトゥス・アングリクス Pterygotus anglicus]
 シルル紀の北半球に生息したウミサソリ。全長2mに達しウミサソリの中で最大級。発達した鋏を持っていたが、物をしっかり捕まえる棘が生えていたとはいえ挟む力の大きさに異論もある。複眼も大きかった。尾の先は菱形の鰭。
[プテラスピス・ステンシオエイ Pteraspis stensioei]
 デボン紀の淡水域(現在のイギリスとベルギー)に生息した甲冑魚(無顎類)。全長20cm程度。前に真っ直ぐ伸びた角の下に口が開いていた。背鰭の代わりのような棘があり、安定して泳げたとされる。最も早く淡水に進出した魚である。
[ケファラスピス・リエリ Cephalaspis lyelli]
 デボン紀の欧州の淡水域に生息した甲冑魚(無顎類)。全長30cm程度。流線型の体だが下面は真っ平らで、口も下向きだった。装甲のざらついた部分にあった感覚器官で電位の変化を知り、周囲を探る能力を持っていた。これにより泥中でも餌や外敵の居場所が分かったとされる。
[ボスリオレピス・パンデリ Bothriolepis panderi ]
 デボン紀の世界中の淡水に分布を広げた甲冑魚。全長30cm前後。甲冑の一部が顎として可動した板皮類に属する。胸鰭も甲冑に覆われ、節足動物の肢のようだった。こちらも下面が平らで底生魚とされる。眼は甲冑の頂上に空いた穴に並んでいた。
[アカントステガ・グンナリ Acanthostega gunnari]
 デボン紀の北米・欧州・グリーンランドに生息した、非常に原始的な両生類。全長1m程度。偏平な頭部の後ろには魚と同じように鰓蓋に入った鰓があった。四肢には八本もの指があったが陸上で体を支えることには向かず、もっぱら水中で暮らしていた。しかし水の浅いところで捕食活動を行うことも可能だった。
[クリメニア・ラエヴィガタ Clymenia laevigata]
 デボン紀のユーラシアおよびアフリカ北部近海に生息した原始的なアンモナイト。直径10cm程度。偏平で巻きのきつい殻の内部にある隔壁は、後のアンモナイトと違いまだ単純な形状だった。アンモナイトなどオウムガイとイカ・タコの中間に位置する頭足類は、触手に吸盤ではなくフックを持っていたとされる。
[クラドセラケ・クラルキイ Cladoselache clarkii]
 デボン紀の北米近海に生息したサメ。全長は最大で2m程。すでに現在のサメとよく似た姿をしていたが、頭部には感覚器官のプラットフォームである尖った鼻先がなかった。また二枚の背鰭それぞれの前に棘が生えていた。当時の捕食者の中で最も速く泳いだ。
[ティタニクティス・アガッシジ Titanichthys agassizi]
 デボン紀の甲冑魚。板皮類では最大級で、硬骨のない後半身の復元によるが5〜8mに達した。口は大きく開くことができたが近縁種と違って鋭い牙状の突起がなく、海底の砂や泥を掬って有機物や小さな生き物を食べたとされる。

第七話
[バリオニクス・ワルケリ Baryonyx walkeri]
学名の意味:ウォーカー氏の重い爪
時代と地域:白亜紀前期(約1億3千5百万年前)のヨーロッパ(イギリス、スペイン)
成体の全長:9m
分類:竜盤目 獣脚類 テタヌラ スピノサウルス科
 魚食恐竜として知られるスピノサウルス類のうち、初めて全身の骨格が発見されたもの。この発見によりスピノサウルス類の研究が大幅に進んだ。
 基本的なフォルムはいわゆる肉食恐竜のものを踏襲しているが、独特な特徴を多く備える。
 吻部はかなり細長く、上下の顎ともに先端近くにくびれがある。側面形状はワニ、特に魚食性のインドガビアルに例えられる。歯は他の肉食恐竜のような薄い断面ではなく円錐に近く、縦に筋があり縁の鋸歯はごく小さい。首はやや細長くカーブが浅い。
 名前の由来となったのは前肢第一指(親指)の爪で、非常に大きく、また深く曲がっている。前肢自体も大型獣脚類としては特に発達している。胴体はやや長く、後肢はそれに対して若干短い。近縁のスピノサウルスやスコミムスのような背鰭はなかった。
 腹部からレピドテスの鱗と植物食恐竜イグアノドンの骨が発見されており、しかも胃酸により消化しかかった痕跡があった。
 よって少なくともレピドテスのような淡水魚を食べる場合があったことは確実視されている。以前はクマのように前肢の爪で魚を引っかけて捕らえたとされたが、現在ではサギのようにリーチの長い口で直接くわえ取ったと言われることが多い。前肢は河原に伏せて魚を待ち伏せたり川の中を歩く際の滑り止めだったとも言われるが、不確かである。

[レピドテス・マンテリ Lepidotes mantelli]
学名の意味:マンテル氏の鱗の石
時代と地域:ジュラ紀〜白亜紀前期のヨーロッパ
成体の全長:数10cm程度
分類:硬骨魚綱 条鰭亜綱 セミオノトゥス目 セミオノトゥス科
 ジュラ紀〜白亜紀の非常に広い地域の淡水〜汽水で繁栄した魚類レピドテスの一種で、「ガノイン鱗」という屋根瓦のような硬く分厚い鱗を持つ。現在ガノイン鱗を持つのはアリゲーターガーやアミアなどごく一部の原始的な魚に限られる。
 コイやフナに似た体型をしており、また採餌もコイのように口を突き出して食物を吸い込んで行った。しかしコイのような喉の奥に生えた咽頭歯ではなく、顎に生えた丸い歯で食物をすり潰した。

[ディクラヌルス・モンストロースス]
第二話参照。

[オヴィラプトル・フィロケラトプス]
第三話参照。

第八話
[エンボロテリウム・アンドレウシ Embolotherium andrewsi
学名の意味:アンドリュース氏の破城槌の獣
時代と地域:始新世後期(約4000万年前)のモンゴル
成体の肩高:推定2.5m
分類:奇蹄目 馬形亜目 ブロントテリウム科 エンボロテリウム亜科
 始新世に繁栄した大型植物食哺乳類であるブロントテリウム類のうち、アジアに生息したグループの最大のもの。アフリカゾウに匹敵する体格になる。
 ブロントテリウム類はウマに近縁だが、鼻先に角の生えた大きな頭、それを支える太い首や高い肩、真っ直ぐな四肢に支えられたどっしりとした胴体など一見サイに似る。
 エンボロテリウム自身はほとんど頭骨しか見つかっていないが、サイとの違いが頭に多く見られる。
サイの角は毛と同じケラチンでできていて骨の芯がないのに対して、ブロントテリウム類の角は骨でできた先の丸いものであった。また表面はおそらく皮膚で覆われていた。
 エンボロテリウムの場合、前上方に伸びた幅広い角は鼻骨から成り、前面には鼻孔から続く大きな空洞があった。また雌雄差はなかった。
 見た目ほど厚みがないため力任せに叩きつける武器としては用いられず、仲間の識別や食物を集めるための道具、鳴き声を拡大する共鳴洞として使われたと考えられる。
 臼歯はサイやゾウの石臼のようなものよりシカなどの尖ったものに似ていた。
 また顎を動かす筋肉の付着スペースはやや狭く、歯列は顎関節に対してほぼ同じ高さにあった。これは噛む力が弱く、顎の動きも単調だったことを意味する。
 さらに、今のいわゆる馬面の植物食獣と違って眼窩はかなり前方、角のすぐ後ろにあった。歯に加わる力が強くないため、眼窩のすぐ下に臼歯があるという原始的な形態でも目に負担はかからなかったと思われる。
 よってあまり硬い植物は食べず、森林の若葉や水辺の植物など柔らかいものを荒く噛み切って飲み込み、時間をかけて消化したと考えられる。
 これは、硬いイネ科の草が広がる草原がなく湿潤な森林が広がっていた当時の環境とも対応する。
 脳はサイの1/3程度しかなく、視覚は弱かった。
 顔面に血管や神経を通すための孔(眼窩下孔)が大きく、これはサイと似ていた。食物を集めるためのよく動く唇があっただろう。

第九話
[リストロサウルス・クルヴァトゥス Lystrosaurus curvatus
学名の意味:曲線的なシャベルのトカゲ
時代と地域:ペルム紀末〜三畳紀初頭(約2億5千万年前)の南アフリカ、南極、中国
成体の全長:1m前後
分類:単弓綱 獣弓目 異歯類 ディキノドン類 リストロサウルス科
 以前「哺乳類型爬虫類」と呼ばれていた単弓類(現在は爬虫類に含められない)で最も有名なものの一つ。
 箱のような頭は前端が垂直なクチバシになっていて、さらに上顎に一対の太い牙があり、それ以外歯はなかった。眼窩はカバのように頭の上寄りに盛り上がっていた。胴体はずんぐりとした樽状で、四肢と尾は短かった。上腕は太く発達していた。深い螺旋状の巣穴に収まった化石が知られている。
 特徴的な頭の形は半水性生活への適応とされていたが、現在では土を掘るための適応と考えられている。牙があるが植物食性であった。
 ペルム紀と三畳紀の間には生物史上最大の大量絶滅が起こったが、リストロサウルス属はその前後両方の地層から発見されている。またリストロサウルス属の他の種も南極やアフリカ、ユーラシアで発見されており、当時地球上の全ての大陸が一体化し「超大陸パンゲア」を形成していた証拠とされる。

[トリナクソドン・リオリヌス Thrinaxodon liorhinus
学名の意味:三つ叉槍の歯と滑らかな鼻
時代と地域:三畳紀前期(約2億4500万年前)の南アフリカと南極
成体の全長:50cm
分類:単弓綱 獣弓目 獣歯類 キノドン類 トリナクソドン科
 単弓類の中でもかなり哺乳類に近い動物。
 腹部に肋骨がないため丸めることのできる胴体、洞毛(ヒゲ)の痕跡とされる顔面の孔、尖った牙などイヌやネコのような哺乳類に近い特徴を持っていた。しかし四肢は這いつくばった姿勢だった。
 鼻道と口腔を分ける「骨性二次口蓋」が発達していて、口内に食物が入っていても呼吸が妨げられなかった。これは食物を丸呑みする爬虫類と異なり、哺乳類のように食物を頬張り時間をかけて咀嚼することができたことを意味する。

[ドレパノサウルス・ウングイカウダトゥス Drepanosaurus unguicaudatus
学名の意味:尾に爪のある鎌のトカゲ
時代と地域:三畳紀後期(約2億500万年前)のイタリア
成体の全長:40cm
分類:主竜類 プロラケルタ形類 メガランコサウルス科
 樹上性で昆虫食と考えられる、カメレオンやコアリクイに似た奇妙な姿の爬虫類。
 前肢は太く、人差し指の爪はさらに不釣り合いなほど太くて先が尖っていた。また肩は大きく盛り上がっていた。後肢も力強く、足指が大きく広がるようになっていた。尾は太くて長く、先端に鉤爪のようなものがあった。頭部は見つかっていないが、近縁種のように先端が尖っていたと考えられている。
 四肢や尾を巧みに使って木に登り、爪で樹皮の下の昆虫を探して食べていたと思われる。

[エウディモルフォドン・ランズィイ Eudimorphodon ranzii
学名の意味:ランツィ氏のはっきり二つの形に分かれた歯
時代と地域:三畳紀後期(約2億500万年前)のイタリア
成体の翼長:1m
分類:主竜類 翼竜目 ランフォリンクス亜目 エウディモルフォドン科
 発見されている中では最古の翼竜の一つ。知られている最古の飛翔性脊椎動物ということでもある。長く伸びた薬指に支えられた皮膜の翼、コンパクトな胴体など、すでに飛行に完全に適応した形態で、このことが翼竜の祖先を推定するのを難しくしている。
 尖った顎の先端には円錐形の牙があり、顎を閉じるとお互いにかみ合った。他の歯は小さく、ギザギザした形をしていた。尾はランフォリンクスなどのジュラ紀の翼竜と同様、長くて先端にひし形の鰭があった。
 腹部から魚の鱗が見つかっていて、少なくとも成体は魚食性と考えられている。

[エオラプトル・ルネンシス Eoraptor lunensis
学名の意味:月から来て夜明けを奪う者
時代と地域:三畳紀後期(約2億3千万年前)のアルゼンチン
成体の全長:1.2m
分類:竜盤目 竜脚形類 エオラプトル科
 発見されている中では特に古い恐竜の一つ。当初は獣脚類(いわゆる肉食恐竜)に近いヘレラサウルス類と考えられ、獣脚類に多く使われる「ラプトル」の名が付けられた。その後別種との比較により、首の長い植物食恐竜のグループである竜脚形類のごく初期のメンバーであるとされるようになった
 二足歩行に適した長い後肢や尾、短い前肢、やや長い首や小さめの頭など、恐竜全体の祖先もこうであっただろうと思われる特徴を備えていた。しかし前の方の歯はナイフ形ではなく木の葉形で、鼻孔が発達していた。これらは後の竜脚形類にも見られる特徴である。最初の恐竜は肉食性だったと考えられているが、エオラプトルは植物も食べただろうとされる。
 翼竜から体毛が見つかり、鳥に近くない種類の恐竜からも原羽毛らしき剛毛が発見されていることから、エオラプトルのような竜脚形類にも原羽毛があったかもしれない。
 エオラプトルが発見された「月の谷」を始めとした発掘地の化石産出状況から、恐竜が現れだした頃は他の主竜類やディキノドン類など三畳紀初頭からいた動物が引き続き繁栄しており、恐竜は目立たない存在であったことが分かっている。竜脚形類はその後2000万年程度で10mに及ぶほど大型化した。

第十話
[メタプラセンチセラス・サブチリストリアートゥム Metaplacenticeran subtilistriatum
 扁平で巻きがきつく、比較的平滑な殻を持つアンモナイト。へそと呼ばれる中心のくぼみの周囲に小さな突起があり、縁が角ばっていた。直径は10cm程度。中川、遠別地域のカンパニアン期の地層から産出する。

[ドウビレイセラス・マミラートゥム Douvilleiceras mammillatum
 第二話も参照。白亜紀前期の終わりまでの北海道やマダガスカルなどの地層で広く発掘される。

[リヌパルス・ジャポニクス Linuparus japonicus
[リヌパルス・トリゴヌス(ハコエビ) Linuparus trigonus
 ハコエビはイセエビに近縁な大型のエビで、40cmほどにもなる。太長い触角や角張った胴体を特徴とし、千葉県以西の比較的暖かい海底に住む。ハコエビにごく近縁なリヌパルス・ジャポニクスが北海道から発掘されることは、後に北海道になる当時の北東アジア沖の海底が今より暖かかったことを示す。

[アナゴードリセラス属 genus Anagaudryceras
 標準的な姿のアンモナイトで、成長に従って肋と呼ばれる殻口に平行な凹凸が増した。北海道ではアルビアン期以降の地層から様々な種類のアナゴードリセラスが産出する。直径20cm程度。

[プラビトセラス・シグモイダレ Pravitoceras sigmoidale
 北海道からは1つしか発見されておらず、和歌山の和泉層群で多く発掘される異常巻きアンモナイト。成長途中までは他の正常巻きのアンモナイトと大差ないが、成熟が近付いた途端ねじれながら巻く向きを反転させる。正常巻き部分の直径は20cm程度。

[ガビオセラス・エゾエンセ Gabbioceras yezoense
 数cmにしかならないごく小型のアンモナイト。殻の厚みは直径と同じくらいあり、巻きはきつい。アルビアン期には同じガビオセラス属の別種がより南方に生息していたが、セノマニアン期にはガビオセラスは北海道にしかいなくなった。

[マリエラ・パシフィカ、マリエラ・オーレルティ、マリエラ・レウェシエンシス Mariella pacificaM.oehlertiM.lewesiensis
 マリエラなど、巻貝に似た細長い円錐形に巻くものを塔状巻きという。セノマニアン期の地層から、大きさなどの異なる各種のマリエラ属が産出するが、いずれも小さな突起が4列並んでいる。

[ツリリテス・コスタトゥス Turrilites costatus
 これとハイポツリリテスもセノマニアン期の塔状巻きアンモナイトである。ツリリテスにも幼いうちは4列の突起があるが、成長につれて突起同士が連結し一つの縦長の隆起になる。

[ハイポツリリテス・コモタイ Hypoturrilites komotai
 マリエラやツリリテスと違い表面が滑らかで、大きな突起が1列だけ並んでいる。

[ユーボストリコセラス・ジャポニクム Eubostrychoceras japonicum
 縦に円筒螺旋を描き、個体によっては最後に上に曲がる異常巻きアンモナイト。これやリュウエラ、ムラモトセラス、スカラリテス等ノストセラス科の異常巻きアンモナイトは北海道のチューロニアン期以降の地層から多く産出する。

[リュウエラ・リュウ Ryuella ryu
 後述のニッポニテス同様、蛇行しながら緩く巻くことで複雑な形状になるアンモナイト。マダガスカリテスという属に含める意見もある。

[ムラモトセラス・エゾエンセ Muramotoceras yezoense
 一旦真っ直ぐ伸びてから反転して非常に低く緩い円錐形を描くアンモナイト。成長すると鍔状の肋が発達する。

[スカラリテス・スカラリス Scalarites scalaris
 ほどけたゼンマイのような緩く不揃いな巻きになるアンモナイト。同じスカラリテス属には鉤針状やゼムクリップ状など異なる形状の種も含まれる。

[ユウバリセラス・ユウバレンセ Yubariceras yubarense
 殻口が四角く肋が発達し、11列に並んだ突起もある武骨なアンモナイト。名前どおり北海道の、チューロニアン期の地層に固有。

[エゾイテス・テシオエンシス Yezoites tesioensis
 数cm程度の小型の異常巻きアンモナイト。途中まで通常の平面巻きで、成熟が近くなった一時期だけ直線的に成長し、再び巻くことで9の字型となる。スカフィテス(第二話参照)と比べやや細い。エゾイテスとスカフィテスはセノマニアン期からコニアシアン期の地層で産出し、そのうちの何種類かは雌雄のペアかもしれない。

[コンボストレア・コンボ Konbostrea konbo
 コンボウガキと呼ばれる、非常に長い殻を持つカキの一種。軟体部は先端のごく一部を占めるだけで、他の部分は海底の泥に埋まらないようにするための土台の役割を果たしていた。海底に密集し、「カキ礁」を形成した。岩手県から発掘されるが、北海道でも三笠や中川から報告されている。

[メヌイテス・ジャポニクス Menuites japonicus
 肋が発達し、サザエのように長い棘が生えた装飾的な姿のアンモナイト。棘は低い突起にキャップが被さったような構造をしているため、内部は空洞である。
直径10cm以下。サントニアン期の地層から産出する。同属には棘がなくもっと大柄な種もある。

[ポリプチコセラス・プセウドガウルティヌム Polyptychoceras pseudogaultinum
 半周巻いては直線的に伸びることを繰り返す、細長いクリップのような形状の異常巻きアンモナイト。

[アイノセラス・カムイ Ainoceras kamuy
 成長の途中まで巻貝に似た円錐形に巻き、さらにその円錐の周囲を大きく取り囲むように大きなカーブを描く異常巻きアンモナイト。これやノストセラスはノストセラス科の中でも後の時代になってから現れたものである。

[バキュリテス・タナカエ Baculites tanakae
 ごく幼い時期だけ巻き、あとはほぼ直線的に伸びていく異常巻きアンモナイト。殻の一部しか残っていない化石でも他と見分けやすい。バキュリテスはチューロニアン期からカンパニアン期の地層で産出する。

[ディディモセラスの一種 Didymoceras sp.]
 円錐形に巻いてから下に曲がり、さらにUターンして上を向く複雑なアンモナイト。和歌山に多く、北海道ではかなり珍しい。

[ノストセラス・ヘトナイエンセ Nostoceras hetonaiense
 ディディモセラスとよく似るが円錐部分よりUターン部分のほうが大きい。プラビトセラス、ディディモセラス、ノストセラスは互いに近縁とされ、中間的な形態の化石も発見されている。

[ネオヒボリテス・クボタイ Neohibolites kubotai
 ベレムナイトは三畳紀後期に現れ始めた頭足類である。一見イカに似るが体内には円錐形の殻があり、アンモナイトの殻やコウイカの甲と同様浮き袋の役割を果たした。殻の先端にある鞘という中の詰まった部分の化石がよく発見される。ベレムナイトの軟体部全体の印象化石が発見されており、腕には吸盤ではなく爪の列があった。アンモナイトの腕に爪があったとする復元もこれによる。
 ネオヒボリテスは北太平洋において最も遅く、アルビアン期の終わりまで生き延びたベレムナイトであった。この頃大陸移動によって海流が変化し、北太平洋が寒冷化してベレムナイトや現在のイカの祖先に大きな影響を与えたと考えられている。

[プラセンチセラスの一種 Placenticeras sp.]
 メタプラセンチセラスに近縁だが直径20cm以上になり、またへその周りに突起はなく平滑。北海道での産出例は少なく、研究が進んでおらず詳細な分類は不明。

[ハウエリセラス・アングストゥム Hauericeras angustum
 縁の尖った非常に扁平な殻を持つアンモナイト。直径10cmほどで殻口に3つの出っ張りがあるものと、出っ張りがなく25cm程度になるものがある。前者がオスではないかとされる。コニアシアン期からカンパニアン期、特に羽幌町のカンパニアン期の地層から多く産出する。

[ハイパープゾシア・タモン Hyperpuzosia tamon
 肋がとても発達したアルビアン期のアンモナイト。成長するほど肋は大きく隆起する。直径70cmほどにもなる。

[メソダーモケリス・ウンデュラトゥス Mesodermocherys undulatus
 ウミガメの仲間はウミガメ科、オサガメ科、絶滅したプロトステガ科に分かれるが、メソダーモケリスはオサガメ科に属する。現生のオサガメは甲羅が特に軽量化され、深海に潜りクラゲを食べる。メソダーモケリスはそこまで特殊化しておらず、浅い海で魚や頭足類を食べたと考えられる。最大で甲長2mに達した。北海道の穂別、中川の他、香川県や淡路島でも発見されている。

[パキデスモセラス・パキディスコイデ Pachydesmoceras pachydiscoide
 北海道で発掘されるもののうち最大級のアンモナイトで、直径1mを超えるものもみられる(世界最大のアンモナイトは直径2m近い)。殻口は楕円形でやや扁平、肋の発達は弱い。アルビアン期からチューロニアン期の地層で産出する。

[ニッポニテス・ミラビリス Nipponites mirabilis
 最も逸脱した形状をしているとされるアンモナイト。一見太いロープを巻かずに無造作に丸めただけのような形に見えるが、他のアンモナイトにも通じる一定の法則に従った、固有の曲線を描いている。「驚異的な日本の石」を意味する学名のとおり、主に北海道のチューロニアン期からコニアシアン期の地層に産出する。ユーボストリコセラスが祖先であると考えられている。
 異常巻きアンモナイトはなぜそのような形状に進化したのかについて様々な考察がなされ、それぞれの殻の形状に合わせた行動を取る各種の異常巻きアンモナイトの復元画が描かれている。しかし通常のアンモナイトですら軟体部の化石が発見されておらず復元の大部分を推定に頼らざるを得ない以上、異常巻きアンモナイトについても憶測の域を出ない。

第十一話
[ハオプテルス・グラキリス Haopterus gracilis]
学名の意味:ハオ(赤偏におおざと)氏の繊細な翼
時代と地域:白亜紀前期(約1億2500万年前)の中国
成体の翼長:1.25m
分類:主竜類 翼竜目 プテロダクティルス亜目 オルニトケイルス上科 オルニトケイルス科
 中国・遼寧省の熱河層群で発掘された翼竜。白亜紀になってから多様化した尾の短い翼竜の仲間であるプテロダクティルス類に属する。その中でも歯のある翼竜としては最も大型化したオルニトケイルス科に含まれるが、翼長4m以上になるブラジルのアンハングエラやメキシコのコロボリンクスと違って小型だった。
 小さな胴体に不釣り合いなほど長い翼(特に第4指のみで支えられた部分)や大きなクチバシ、外側を向く尖った歯などは他の大型の仲間とよく似ている。クチバシにアンハングエラなどのような骨のトサカはなかった。
 翼の最も根本側の部分である上腕骨は太短く、三角筋・胸筋が付着する部分は単純な形状だが大きく張り出していた。体格の割に羽ばたく力は強かったと思われる。骨盤や後肢はひ弱だった。
 大型のオルニトケイルス類は海の上を飛びながら魚を捕えたと考えられる。小型のハオプテルスも、熱河層群を堆積させた湖の上を長い間飛び続け、水中に向かってクチバシを突き出して魚を捕えて食べたらしい。

[ゲゲプテルス・チャンギ Gegepterus changi]
学名の意味:張氏の格格(満州語で姫)の翼
時代と地域:白亜紀前期(約1億2500万年前)の中国
成体の翼長:推定1m
分類:主竜類 翼竜目 プテロダクティルス亜目 クテノカスマ上科 クテノカスマ科
 ハオプテルス同様、熱河層群で発見された翼竜で、非常に細長いクチバシには細長い歯がびっしりと150本も生え揃っていた。
 コンパクトな体形のハオプテルスと比べ、首や上腕骨、前腕骨、後肢が長かった。翼竜の多くは翼になった前肢の途中にある第1〜3指も地面について四足歩行をしたとされるので、地上での姿勢はゲゲプテルスのほうが高く、また水平に近かったことになる。
 クテノカスマ科の翼竜は浅い水辺を歩きながら長いクチバシとたくさんの歯でプランクトンや小魚、小さな甲殻類をすくい上げて食べたと考えられる。ゲゲプテルスも例外ではなく、湖の浅いところを四足で歩きながら歯で餌を濾し取り、餌場から餌場へと飛んで渡っただろう。
 特に化石証拠があるわけではないが、クテノカスマ科のような濾過食性の翼竜は、現在のフラミンゴやショウジョウトキなどの水鳥のように、食物から得たカロテン色素を体表に蓄積させて真っ赤になった姿に描かれることがある。

[シノヴェナトル・チャンギイ Sinovenator changii]
学名の意味: 張氏の中国の狩人
時代と地域:白亜紀前期(約1億2500万年前)の中国
成体の全長:1m
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア マニラプトラ エウマニラプトラ トロオドン科
 熱河層群から多数発掘される小型獣脚類の一つで、鳥類にかなり近縁な恐竜。
 小さな頭と胴体以外全体的にほっそりとしていて、水鳥に似た体形だった。なかでも後肢、特に膝より下の部分(脛骨と中足骨)は非常に細長く発達していた。
 しかし他のトロオドン類のように3本の中足骨がくさび状に組み合わさった形状にはなっていなかった。また歯の形状も他のトロオドン類と違って縁の鋸歯が小さかった。これらのことから、シノヴェナトルはトロオドン類の中でも原始的であると考えられている。
 後肢第2指はドロマエオサウルス類と同様可動性が高かったが、鉤爪はやや小さかった。小動物を追いかけて捕えたと考えられる。
 前肢は鳥の翼のような関節の構造をしており、近縁種で見つかっているような羽毛もあったと考えられているが、あまり長くはなく、空を飛ぶことはできなかった。もし翼状になっていたとしても走行の補助か、休息時の保温、異性へのアピールなどに用いられたと思われる。
 2006年の恐竜博において、全く関係のない小型植物食恐竜の化石がシノヴェナトルとして展示されていたことがある。

[リコプテラ・ダヴィディ Lycoptera davidi]
学名の意味:アルマン・ダヴィド氏の狼の鰭
時代と地域:白亜紀前期(約1億2500万年前)の中国
成体の全長:10cm以下
分類:硬骨魚綱 条鰭亜綱 アロワナ目 リコプテラ科
 熱河層群を代表する魚の一つ。一見ごくありふれた現在の淡水魚によく似ているが、硬骨魚類としては原始的なアロワナ目に含まれる。なかでも現生のナイフフィッシュに近縁とされる。尾椎の一部が尾鰭の上半分を通っている点は特に原始的である。
 小さいが尖った円錐形の歯を持っていた。これでプランクトンを捕えて食べたとされる。
 非常に大量の化石が発見されており、当時淡水で餌を探す動物にとって重要な食料であったと考えられている。

[アルカエフルクトゥス・シネンシス Archaefructus sinensis]
学名の意味:中国産の祖先の果実
時代と地域:白亜紀前期(約1億2500万年前)の中国
成体の高さ:数十cm程度
分類:被子植物門 双子葉植物綱 古双子葉亜綱
 知られている最古の被子植物(種子が完全に心皮に包まれた植物)の一つ。
 ニンジンのように細かく枝分かれした葉をしていた。また、豆ざやに似た果実や花びらのないおしべが茎の先の方にあったことが分かっている。花びらがないとはいえ、これが今知られている最も古い花であるといえる。
 湖の浅瀬に根付き、体の大部分を水上に出していたと考えられている。
 当時同じ地域にはシダ植物や裸子植物が繁茂していたが、白亜紀を通じて被子植物は多様化していき、後期にはモクレンなどが登場するに至った。被子植物は昆虫や恐竜、哺乳類の進化にも大きな影響を与えたと考えられている。

第十二話
[フタバサウルス・スズキイ(フタバスズキリュウ) Futabasaurus suzukii]
学名の意味:鈴木氏が双葉層群で発見したトカゲ
時代と地域:白亜紀後期(約8500万年前)のアジア(日本)東岸
成体の全長:推定7m
分類:双弓亜綱 鱗竜類 鰭竜類 首長竜目 プレシオサウルス類 エラスモサウルス科
 首長竜類は中生代を通じて海で繁栄した爬虫類である。胴体は丸みを帯びた流線形で、前肢、後肢は細長い鰭となっていた。首長竜という名前に反して、首の長さは種類により様々だった。しかしその中でもフタバスズキリュウが属するエラスモサウルス類は、白亜紀に現れた特に首の長いグループだった。
 エラスモサウルス類一般の特徴として、首は全長の半分以上、ときに2/3を占め、頸椎は60個以上あった(フタバスズキリュウ自身の化石には首は一部しか残っていなかった)。首は根元近くより先のほうがよく曲がるようになっていた。頭は小さく、平たい楕円形をしていた。顎には細長く尖った歯が上下で噛み合うように生え揃っていた。尾は鰭と同じくらいの長さで、安定のための尾鰭として復元することも多い。
 フタバスズキリュウはエラスモサウルス類の中では小柄なほうで、日本国内で初めて発見された首長竜として知られている。
 1960年代、当時10代の鈴木直氏(現・いわき市アンモナイトセンター主任研究員)は福島県いわき市の双葉層群で化石の採集を行うのを趣味としていた。見つかるのは主に二枚貝やサメの歯であったが、1968年、かねてから確信していたとおり大型爬虫類の化石を発見することができた。そして当時国立科学博物館の研究員であった長谷川善和氏(現・群馬県立自然史博物館名誉館長)らが連絡を受け、発掘を進めた。
 ほぼ全身が残った化石で、とても良好な保存状態であった。またそれ以外にも同種と見られる化石が同じ地層から発掘されている。しかし、独自の特徴が整理され学名が付けられたのは2006年のことだった。
 タラソメドンのような他のエラスモサウルス類と比べると鼻孔がやや前方の低い位置にあった。また前肢は後肢より長く、鎖骨及び間鎖骨が独特な形状をしていた。胸部から食物をすりつぶすため、または錘として潜水のために使われたと思われる石が発見された。
 他のエラスモサウルス類で推定されているのと同じく、鰭を上下に羽ばたかせてゆっくりと泳ぎ、小さな魚や頭足類、海底の生き物を食べたとされる。長い首は海底や狭い場所から餌をつまみ取ったり、魚の群れにそっと近付くのに使われたと考えられる。
 国内では他にも、北海道からモレノサウルスの近縁種、鹿児島からサツマウツノミヤリュウなどいくつかエラスモサウルス類が発掘されている。

[イノセラムス・ウワジメンシス、イノセラムス・アマクセンシス Inoceramus uwajimensisI.amakusensis]
学名の意味:宇和島産の繊維質の貝/天草産の繊維質の貝
時代と地域:白亜紀後期(約8900万年/8500万年前)のアジア(日本)東岸
成体の全長:10cm以下/60cm
分類:軟体動物門 斧足綱 翼形亜綱 ウグイスガイ目(?) イノセラムス科
 ムール貝(ムラサキイガイ)に似た形をした二枚貝。肋という同心円弧状の凹凸が目立つ。名前どおり殻を形成する微細な結晶が繊維状になっているのが特徴。
 イノセラムス類は中生代に特有の二枚貝である。蝶番の構造の解釈により、ウグイスガイ類(真珠貝の仲間)に近縁だという説とウグイスガイ類とは無関係だという説に分かれている。短い期間で様々な種類が移り変わったため示準化石として優秀である。
 フタバスズキリュウの発掘された玉山層も、イノセラムス・アマクセンシスにより年代が決定されることから、イノセラムス・アマクセンシス帯という。フタバスズキリュウの化石のすぐそばからも見つかっている。玉山層より下の足沢層ではウワジメンシスが見つかる。中間の笠松層ではイノセラムスは見つからない。
 他の二枚貝のように水中の細かい餌を濾過したと考えられるが、詳しい生態は判明していない。プランクトンとして生活する幼生の時期が他の二枚貝と比べ長く、分布の広い種類が多かった。流木などに付着する種があったとも言われるが、アマクセンシスのような中型〜大型の種は底性だったと思われる。

[メソプゾシア・ユウバレンシス Mesopuzosia yubarensis]
学名の意味:夕張産の中間的なプゾシア(※「プゾシア」はメソプゾシアに近縁なアンモナイト。由来は不明)
時代と地域:白亜紀後期(約8900万年前)のアジア(日本)東岸
成体の直径:1.2m
分類:軟体動物門 頭足綱 アンモナイト類 アンモナイト目 デスモセラス科
 かなり大型のアンモナイト。殻口はやや幅が狭く、肋は成長に従って緩やかになる。
 足沢層から発掘される代表的なアンモナイトであり、アンモナイトセンターでは地層ごと数十個も展示されている。足沢層を堆積させた浅い海は、メソプゾシアの生息や産卵に適していたか、メソプゾシアの死後軟体部が脱落して浮上した殻が流れ着きやすかったと考えられる。
 足沢層からは他にも、異常巻きアンモナイトを含む小型のアンモナイトも発掘されている。

[トリナクロメルム・ベントニアヌム Trinacromerum bentonianum]
学名の意味:フォート・ベントンで発見された三つに分岐した大腿骨
時代と地域:白亜紀後期(約9000万年前)の北米大陸西岸
成体の全長:3m
分類:双弓亜綱 鱗竜類 鰭竜類 首長竜目 プレシオサウルス類 ポリコチルス科
 首長竜の中でもポリコチルス類は頭が長くて首が比較的短く、頭と首を合わせると胴体と同じくらいの長さだった。同じような体型のプリオサウルス類に近縁であるという説と、エラスモサウルス類に近縁であるという説がある。
 ポリコチルス類やプリオサウルス類はエラスモサウルス類と違って、急な潜行・浮上を含む活発な動作で獲物を追いかけたと考えられる。また、あるポリコチルス類の化石で胎児が見つかったことから、ポリコチルス類だけでなく陸に上がれない他の首長竜も海中で子供を出産したと考えられている。
 トリナクロメルムはポリコチルス類の中ではやや小型で、顎には尖った小さな歯が多数並んでいた。小さめの魚やアンモナイトを主食としていたと考えられる。北海道でポリコチルス類の腹部からアンモナイトの顎器が発見されている。
 双葉層群でもトリナクロメルムに近縁と思われるポリコチルス類の烏口骨の化石が発見され、「イワキリュウ」と呼ばれている。

[パキコンディラ・キネンシス(オオハリアリ) Pachycondyla chinensis]
学名の意味:中国産の分厚い顆
時代と地域:現世の東アジア、ニュージーランド
ワーカーの体長:4mm
分類:膜翅目 アリ科 ハリアリ亜科
 主に朽ち木に営巣する現生のアリ。祖先のハチに由来する針を持ち刺すことができる。
 ハリアリ亜科およびカタアリ亜科に分類される2つのアリを含む琥珀が玉山層から発掘されている。アリ類の進化史上重要な発見とされるが、この琥珀は個人所有のため研究が進められていない。

[クレトラムナ・アッペンディクラータ Cretolamna appendiculata]
学名の意味:小さな付属物のある白亜紀のネズミザメ
時代と地域:白亜紀後期(約9000万年前)から始新世(約5000万年前)のアジア・北米・モロッコ沿岸
成体の全長:推定2〜3m
分類:軟骨魚綱 板鰓亜綱 ネズミザメ目 ネズミザメ科(またはクレトキシリナ科)
 現在のネズミザメ類(ホオジロザメなど)の祖先と考えられるサメ。体型や大きさもネズミザメ類に似ており、おそらく、大きめの獲物を襲って食べるという性質も近かった。
 歯の形状は大まかにはネズミザメ類と変わらない三角形の刃状だったが、両脇に副咬頭という小さな歯が付いて三つ叉になっていた。
 フタバスズキリュウの化石の四肢にはクレトラムナの歯が刺さったり、傷が付いたりしていた。クレトラムナが生きたフタバスズキリュウを襲ったのか、死んだフタバスズキリュウを漁ったのかは分かっていない。
 双葉層群からは他にも何種類かサメやノコギリエイの歯の化石が発見されている。

第十三話
[エウロパサウルス・ホルゲリ Europasaurus holgeri]
学名の意味:ホルガー・リュトケ氏がヨーロッパで発見したトカゲ
時代と地域:ジュラ紀後期(約1億5500万年前)のヨーロッパ(ドイツ)
成体の全長:6.2m
分類:竜盤目 竜脚形類 真竜脚類 マクロナリア カマラサウルス上科 ブラキオサウルス科
 竜脚類は長い首と尾を持つ四足歩行の植物食恐竜のグループである。全長10mを大幅に超えるものが多く、一部の種が全長30mを超えたことは確実とされる。
 しかしエウロパサウルスは竜脚類としては例外的に小型だった。フクイティタンなど10mあっても竜脚類の中では小さいが、エウロパサウルスはさらに6m程度まで小型化していた。
 全長の半分以上は首と尾に占められ、胴体だけだと大型のウマとさして変わらない。
 化石は大小11体分以上が発見されていて、そのうち一番大きな個体が7年程度でほぼ成長を止めてから3年程生きた成体であったことが、骨の断面に見られる年輪状の模様の観察から示されている。
 エウロパサウルスがこのように小型化したのは、狭い島に生息していたためだと考えられる。
 一般に、元々大型だった動物が離島に生息するようになると、限られた食料や生活圏を活用できる小さな体を持った種が進化していく。エウロパサウルスは当時のヨーロッパを形成する島に適応して小型化した竜脚類だったようだ。
 額から大きくせり出した鼻孔などは27mにもなる巨大竜脚類ブラキオサウルスに似ており、ブラキオサウルスのミニチュアのような姿だったと考えられている。つまり、前肢は後肢より少し長く、その分背中や首が傾斜した姿に復元されている。
 餌を取るときも大型の竜脚類と同様、首を左右の広い範囲に動かして、木の葉を櫛状の歯でくわえ取っては飲み込んで長い消化器官でゆっくり消化したと考えられる。

第十四話
[プテリゴトゥス・アングリクス Pterygotus anglicus]
学名の意味:鰭のあるイギリスの生き物
時代と地域:シルル紀(約4億4300万年前)からデボン紀前期(3億9300万年前)の北米、ヨーロッパ沿岸付近
成虫の全長:2.3m
分類:節足動物門 鋏角類 節口綱 剣尾類 広翼目 ユーリプテルス類 プテリゴトゥス科
 第六話も参照。
 ウミサソリ類(広翼類)は現在のカブトガニに近縁だが、サソリに似た長い胴体を持つ水性の節足動物であった。オルドビス紀に現れ始め、シルル紀からデボン紀にかけて最も繁栄し、ペルム紀前期に絶滅した。
 ウミサソリという名前が付いているが汽水から淡水に生息していたものも多く、プテリゴトゥスもその一つである。
 プテリゴトゥスはワタリガニのような遊泳用の幅広い肢を一対持つユーリプテルス類に含まれる。その中でも、鋏脚という長いハサミのあるグループの一種であった。
 この仲間はユーリプテルス類の中では特に大型化し、近縁種のアクティラムスやジェケロプテルスとともに節足動物全体でも最大級の全長に達した。
 遊泳脚は体格の割に小さめだったが、尾の先端が菱形をした尾鰭になっていて、主に尾鰭の力で泳いでいたと思われる。また、全身の殻に丸い鱗のような小さな出っ張りが並んでいて、ゴルフボールのディンプルのように水の抵抗を減らしたと考えられる。
 頭部の左右先端には大きな楕円形の複眼があった。
 ウミサソリの含まれる鋏角類は口元にハサミ状の付属肢を持つが、プテリゴトゥスの仲間の鋏脚はそのハサミが大きく発達したものである。
 ハサミの内側には多数の棘が生えていて、トラバサミのように上下で噛み合い、鋏んだものを離さず、切り裂くこともできるようになっていた。
 プテリゴトゥスはこの大きなハサミで獲物を捕らえる捕食者だったと考えられてきたが、ハサミは細長く、筋肉の収まる部分もあまり膨らんでいなかったため、強度や筋力はそれほどなかった。カニやロブスターなどと違い丸いでっぱりではなく尖った棘が生えていたため、同じウミサソリの外骨格のような硬いものを割ることはできなかった。
 アクティラムスに関する分析によると、ハサミが耐えられる力は5ニュートン(約500g)で、現生のカブトガニの殻を割るのにも足りなかったという。
 また鋏脚全体の動きも遅かったという説がある。
 よって、このハサミは小さく柔らかい獲物や、植物を含む食物を拾って口元に運ぶのに用いられたと考えられる。

[メガログラプトゥス・ウェルキ Megalograptus welchi]
学名の意味:L.B.ウェルチ博士が発見した巨大な筆石
時代と地域:オルドビス紀(約4億5千万年前)の北米、グリーンランド沿岸
成虫の全長:1.2m
分類:節足動物門 鋏角類 節口綱 剣尾類 広翼目 ユーリプテルス類 メガログラプトゥス科
 第六話も参照。
 プテリゴトゥスのようにハサミを持つウミサソリはごく一部であったが、メガログラプトゥスやミクソプテルスの仲間はハサミ状ではなく長い棘が生えた大きな捕獲脚を持っていた。
 メガログラプトゥスの捕獲脚は一対で、左右にいっぱいに伸ばすと全長に近い幅に達した。主に砂の中から小さな生き物を探し出すのに用いられたと考えられる。
 「巨大な筆石」という名前は、この捕獲脚を筆石という生き物(第二話参照)と誤認して付けられた。
 遊泳脚はやや大きかった。尾の先端は棘状だったが、その前から強く後ろ向きにカーブした尾鰭が生えて棘を左右から囲んでいた。尾鰭を持たないミクソプテルスと比べ遊泳傾向が強かったと思われる。

第十五話
[ファヤンゴサウルス・タイバイイ Huayangosaurus taibaii]
学名の意味:金星(太白)のかかる四川地方(古名で華陽)にいたトカゲ
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億6500万年前)の東アジア(中国)
成体の全長:4.5m
分類:鳥盤目 装盾類 剣竜類 ファヤンゴサウルス科
 ステゴサウルスで知られる剣竜類の中で、最も原始的かつ最も小型の恐竜。特に原始的なことから分類はステゴサウルス科ではなくファヤンゴサウルス科と表記される。
 剣竜類は背中に尖った骨の板、尾の先に2対の棘を持つ、4足歩行の植物食恐竜だった。骨板や棘はワニの装甲と同じ、脊椎動物の皮膚に存在する「皮骨板」が発達したものである。生前は角質の層か皮膚に覆われていたと考えられる。骨板は薄く血管の跡があることから、防御よりも視覚的アピールや体温調節に、また尾や肩の棘は武器として用いられたと考えられている。
 また剣竜類の頭は小さく、口の先端には尖っていない短いクチバシがあった。歯や顎は弱く、植物の柔らかい葉を、種類を選びながら食べたと考えられる。
 ファヤンゴサウルスの体型には独特なところがあり、他の剣竜の胴体が縦に平たいのに対して、ファヤンゴサウルスの胴体は少し幅広くて、背中は高くなかった。
 また、他の剣竜の後肢が前肢のほぼ倍ほどもあり胴体が傾斜していたのに対して、ファヤンゴサウルスの後肢は前肢と比べてそこまで長くはなく、胴体は低く水平に保たれていた
 骨板はより進化した剣竜と比べて小さかった。首から尾にかけて2列になって並んでいたと考えられるが、部位により形が違い、前半身のものは楕円形で、腰のものは長く尖っていた。
 骨板は小さい分アピールや体温調節の機能も弱かったと思われる。また尾の棘も板状になっていたため強度が低くて、武器としてはあまり有効でなかったかもしれない。
 それとは別に、肩には横向きに生えて後ろに向かって曲がった大きな棘があった。これはステゴサウルスにはなかったが、ケントロサウルスやトゥオジャンゴサウルスなど多くの剣竜類にあったものである。
 頭骨は他の剣竜類と比べて幅と高さが大きく、クチバシの部分にも歯があった。眼窩の上には出っ張りがあった。

[ギンゴ・イマエンシス Ginkgo yimaensis]
学名の意味:義馬層産の銀杏
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億7000万年前)の東アジア(中国)
成体の高さ:推定10m以上
分類:裸子植物門 イチョウ綱 イチョウ目 イチョウ科
 イチョウの仲間は1種しか現存していないが、ペルム紀に登場してジュラ紀から白亜紀にかけては特に繁栄していた。ジュラ紀にはすでに現生のイチョウと同じギンゴ属のイチョウ類が多く存在した(現生のイチョウはギンゴ・ビロバG. biloba)。
 現生種がそうであるようにイチョウ類は平行脈を持つ扇形の葉が特徴で、種によって葉の幅や切れ込みの入り方は様々であった。ギンゴ・イマエンシスの葉は1枚が4つに分かれ、一つひとつの部分が細長い楕円形をしていた。
 イチョウにはギンゴール酸などの動物にとって有害な物質が含まれ、現生の動物はあまりイチョウの葉を食べない。中生代においても恐竜がイチョウ類の葉を食べたとはあまり考えられていない。恐竜がイチョウ類の実を食べ、糞と一緒に未消化の種子を排泄することでイチョウ類の分布を広げたのではないかとも言われるが、イチョウ類の種子が恐竜の腹部や糞化石から見つかったことはないようだ。

[コニオプテリス属 genus Coniopteris]
学名の意味:円錐の羽
時代と地域:ペルム紀から白亜紀のほぼ全世界
成体の高さ:1〜3m
分類:シダ植物門 シダ綱 シダ目 タカワラビ科
 シダ植物の中には木生シダといって、垂直に立ち上がる太い幹を持つものがある。ヘゴやタカワラビに似た木生シダは中生代にはよく見られ、森林の低木として当時の植物相の中で重要な位置を占めていた。
 木生シダの幹は裸子植物や被子植物の幹と違い、根が集まってできたものである。幹の頂上から羽状に葉の付いた枝が放射状に伸び、その中央から新しい枝がワラビのように巻いた状態で生えてくる。
 コニオプテリスは特にジュラ紀に広く繁栄していた。現在のタカワラビによく似た、胞子嚢が並んだ葉の化石が知られている。

[オトザミテス・ネイリダニエンシス Otozamites neiridaniensis]
学名の意味:寝入谷産の耳のような突起のある石になったメキシコソテツ
時代と地域:ジュラ紀前期(約1億8000万年前)の東アジア(日本)
成体の高さ:1〜3m
分類:裸子植物門 ソテツ綱 ベネチテス目 キカデオイデア科
 ソテツに近い裸子植物であるベネチテス類は三畳紀から白亜紀にかけて栄えていた。木生シダと同様、ジュラ紀の森林を形成する重要な樹木であった。
 全体の姿はソテツによく似ていたと考えられるが、ソテツとは気孔などに違いがある。オトザミテスは葉の小羽片の根元に1対の出っ張り(耳)があるという細かい特徴で見分けられる。

[ニルソニオクラドゥス・ニッポネンシス Nilssoniocladus nipponensis]
学名の意味:日本産のスヴェン・ニルソン氏の枝
時代と地域:ジュラ紀後期から白亜紀前期(約1億4000万年前)の東アジア(日本)
成体の全長:不明
分類:裸子植物門 ソテツ綱 ベネチテス目 キカデオイデア科
 羽状の葉などは他のベネチテス類とよく似ていたが、幹がとても細長いことが分かっている。他の植物の幹にからみつくつる植物だったと考えられている。

[エクイセティテス属 genus Equisetites]
学名の意味:石になったトクサ
時代と地域:石炭紀から白亜紀のほぼ全世界
成体の高さ:数十cm
分類:シダ植物門 トクサ綱 トクサ目 トクサ科
 デボン紀に現れたトクサの仲間は、現在ではスギナ(ツクシ)など普通に見られるとはいえごくわずかな種類しか生き残っていないが、ジュラ紀には地表の代表的な草本植物であった。
 エクイセティテスは現在のトクサによく似て、細かく分岐した細い枝葉が、太い茎の節から放射状に伸びていた。
 現生のトクサやスギナはイネ科の草のように体全体にプラントオパールという珪酸の粒子を含むため、じゃりじゃりと硬い。エクイセティテスもプラントオパールを含んだ可能性があり、歯が発達していない剣竜類がエクイセティテスを食べるには、比較的柔らかいところだけをクチバシでつまみ取って飲み込むしかなかったかもしれない。

[ガソサウルス・コンストルクトゥス Gasosaurus constructus]
学名の意味:建設中の天然ガス採掘場で発見されたトカゲ
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億6500万年前)の東アジア(中国)
成体の全長:4m
分類:竜盤目 テタヌラ メガロサウルス科(?)
 ファヤンゴサウルスと同じ地層から発見された比較的小型の肉食恐竜。従来からやや原始的なメガロサウルス類に分類されることが多いが、アロサウルス類やコエルロサウルス類のような、より派生的なグループの初期のものかもしれないという意見も出されている。
 頭骨を始め多くの部分が見付かっていないが、大型のメガロサウルス類に似た、大きな頭部を持つがっしりとした姿に復元されている。

第十六話
[ゲラストス・グラヌロスス Gerastos granulosus]
学名の意味:粒に覆われた栄誉あるもの
時代と地域:デボン紀(約3億9000万年前)の北アフリカ(モロッコ)沿岸等
成体の全長:3cm以下
分類:節足動物門 三葉虫形類 三葉虫綱 プロエトゥス目 プロエトゥス科
 三葉虫は古生代を代表する節足動物だが、最盛期を迎えたのは古生代の前半〜中頃に当たるオルドビス紀のことであり、シルル紀以降はむしろ多様性を減じていき、石炭紀にはプロエトゥス目のみとなっていた。
 プロエトゥス目の三葉虫はいずれも小型で、体形にもそれほど変わった特徴はなかった。ゲラストス(プロエトゥス属に含める意見もある)も3cmに達しない程度の、丸みを帯びたごく一般的な姿の三葉虫だった。頭はやや大きく、両脇に後ろ向きの短い棘があるものもいた。ゲラストスやプロエトゥスの化石は一般にも流通しており、保存状態やクリーニングの精度にこだわらなければ2000円以下でも手に入る。

[ヒポディクラノトゥス・ストリアトゥルス Hypodicranotus striatulus]
学名の意味:小さな帯があり、二つの付属物が頭から長く伸びているもの
時代と地域:オルドビス紀(約4億5000万年前)の北米(カナダ)沿岸
成体の全長:3cm
分類:節足動物門 三葉虫形類 三葉虫綱 アサフス目 レモプレウリデス科
 三葉虫は普通海底を歩いて暮らしていたが、付属肢が根元で二又に分かれ片方が幅の広い鰓になっていたことから、一部はこの鰓を動かして泳ぐことができたとされる。この付属肢を二肢型という。
 さらにヒポディクラノトゥスのように身軽で複眼が発達したものは、現生のオキアミのように遊泳生活を送っていたと考えられている。
 ヒポディクラノトゥスは頭が平たく膨らんでいて、胴体は後ろに向かってすぼまり、体節の段差は小さかった。流体力学的な検証でも判明しているように理想的な流線型をしていた。また体の後方には左右に平たく広がった部分があり、頭部両脇の棘は脇腹に沿うように後方に伸びていた。
 この体形により水の抵抗は小さく、また泳ぐときの安定性もあった。複眼は前後に発達して水平方向に広い視野を確保していた。
 マウスガード様器官と呼ばれるU字型の平たい出っ張りが、顔面から尾部まで伸び、腹面を覆っていた。これは鰓を通り抜ける流れと、逆流して口に向かう流れを整える働きがあった。鰓で推進力を得ながら呼吸することや、流れてくる微細な有機物粒子を食べることに役立ったと考えられている。

[キクロピゲ・レディヴィヴァ Cyclopyge rediviva]
学名の意味:蘇った丸い尾
時代と地域:オルドビス紀(約4億5000万年前)の北アフリカ(モロッコ)沿岸
成体の全長:2cm以下
分類:節足動物門 三葉虫形類 三葉虫綱 アサフス目 キクロピゲ科
 キクロピゲもヒポディクラノトゥス同様複眼の発達した遊泳性三葉虫であったと考えられるが、体形は異なっていた。
 大きく丸い頭部の左右には非常に発達した複眼があった。前後左右だけでなく上下まで広く見渡すことが可能だった。
 胴体は頭部に比べてかなり小さく、平たい尾部が目立った。ヒポディクラノトゥスと違って丸まって防御姿勢を取ることができた。

[マルレラ・スプレンデンス Marrella splendens]
学名の意味:華やかなジョン・マー氏のもの
時代と地域:カンブリア紀(約5億4000万年前)の北米(カナダ)沿岸
成体の全長:2cm
分類:節足動物門 三葉虫形類? マルレラ類
 いわゆるカンブリアンモンスターと呼ばれる動物群の化石を産出するカナダ・ブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩で、この地層の研究に大きく貢献したウォルコットが初めて発見した生き物の一つ。バージェス頁岩で最も多く見つかる生き物でもある。
 ホウネンエビのように発達した鰓と肢のある細長い胴体をもつが、ホウネンエビはもちろん他の節足動物との関係も良く分かっていない。しかしマルレラに近縁と見られる生き物は後の時代の地層からもいくつか見つかっている。
 最も目立つ特徴は頭部から2対のとても長い角が後ろに曲がって伸びていたことで、さらにそのうち前方の角には微細な溝構造があったことが分かった。この構造により光が回折し、生きているときはCDのように虹色に輝いたと考えられる。
 海底の砂をかき回しながら歩いたり、鰓をはためかせて遊泳することで微細な有機物を集めて食べていたと思われる。

[ミメタスター・ヘキサゴナリス Mimetaster hexagonalis]
学名の意味:六芒星もどき
時代と地域:デボン紀(約4億年前)のヨーロッパ(ドイツ)沿岸
成体の全長:2cm
分類:節足動物門 三葉虫形類? マルレラ類
 ミメタスターはマルレラと近縁ではないかと考えられ、胴体や鰓の様子はよく似ている。しかし角は3対となり、頭部から放射状に長く伸び、アンテナのように細かい枝が生えていた。
 さらに前方の2対の肢が、角の作る六角形から大きくはみ出すほど長く伸びていた。テナガエビに雪の結晶をかたどった帽子をかぶせたようなシルエットだった。
 前方の長い肢で体を起こして歩いたと考えられている。その場合一番後ろの角を海底に引きずることになるが、一番後ろの角は他の角と比べ特に丈夫になっていない。水面に浮かんで暮らしていたという説は特に出されていない。

[ディバステリウム・ドゥルガエ Dibasterium durgae]
学名の意味:多腕の女神ドゥルガーのように2つに分かれた肢の謎
時代と地域:シルル紀後期(約4億2500万年前)のヨーロッパ(イギリス)沿岸
成体の全長:2cm
分類:節足動物門 鋏角類 節口綱 剣尾目 共剣尾類
 剣尾類、つまりカブトガニの仲間の体は頭である前体、胴体である後体、そして尾剣からなる。シルル紀には後体の体節が分離した共剣尾類と体節が癒合した狭義のカブトガニ類がすでに登場していた。
 微細な火山灰からなる岩石を、中の化石ごと薄くスライスして切り出し、断面をコンピュータ上で重ね合せることで、ディバステリウムの体の細かい構造まで明らかになった。
 ディバステリウムは共剣尾類に含まれ、現生のカブトガニと似た体形をしていたが、腹部は長かった。
 付属肢は三葉虫やマルレラ類のように二肢型だったが、それらと違って分岐した肢の片方が鰓になっていたのではなく、両方とも歩脚だった。肢の先端はすでに今のカブトガニと同じくハサミとなっていた。二肢型の様々な節足動物と一肢型の剣尾類の中間の特徴を持っていた原始的な剣尾類だとされる。

[イベロネパ・ロメラリ Iberonepa romerali]
学名の意味:アルマンド・ディアス・ロメラル氏のイベリア半島のサソリ
時代と地域:白亜紀前期(約1億2700万年前)のヨーロッパ(スペイン)
成虫の全長:1.5cm
分類:節足動物門 汎甲殻類 六脚類 外顎綱 有翅類 旧翅類 半翅目 異翅類 タイコウチ類 コオイムシ科
 昆虫は現在非常に繁栄しているにもかかわらず、化石記録には残りづらく、詳しく分かっている種類は少ない。半翅類(カメムシとセミの仲間)は石炭紀末には現れ、三畳紀の中頃にはすでにタガメやコオイムシに近縁な水生のものもいた。
 イベロネパは保存状態の良い化石が発見されている。タガメやコオイムシの仲間だが、マツモムシに似た小さくやや細長い体、泳ぐのに役立つ長く平たい後肢を持った水生昆虫だったことが分かっている。生態はどちらかというとマツモムシに近かっただろう。

[アグノストゥス・ピシフォルミス Agnostus pisiformis ]
学名の意味:豆のような形の知られていないもの
時代と地域:カンブリア紀(約5億年前)のヨーロッパ(スウェーデン)沿岸
成虫の全長:1cm
分類:節足動物門 三葉虫形類? アグノストゥス綱 アグノストゥス目 アグノストゥス科
 アグノストゥス類は非常に小型で原始的な三葉虫であるという説と、付属肢の構造の違いから三葉虫には含まれないという説がある。
 ほとんど同じ形をした丸い頭部と尾部が、数節の短い胴体で繋がれていた。体を二つ折りにしてがま口財布のような姿勢で身を守ることができた。

[カンブロパキコーペ・クラークソニ Cambropachycope clarksoni]
学名の意味:ユアン・N・K・クラークソン博士のカンブリア紀の分厚い複眼
時代と地域:カンブリア紀(約5億年前)のヨーロッパ(スウェーデン)沿岸
成虫の全長:1.7mm
分類:節足動物門 汎甲殻類
 全長が数mmしかないようなプランクトンでも化石に残ることがあるし、さらに小さくμm単位の化石さえある(微化石という)。
 ボン大学のミュラー博士は、スウェーデンのオルステンという土地にあるカンブリア紀の地層からノジュール(地層中で丸く固まった石灰岩)を発掘し、砕いて薬品で溶かして小さな化石を取り出した。ノジュールの中にはカンブロパキコーペや後述のゴチカリス、また前述のアグノストゥスなど、非常に小さな節足動物や線形動物等の化石が、とても良好な状態で立体的に保存されていた。
 カンブロパキコーペは一見、足鰭を付けたアリのような節足動物だった。ただし頭に見える部分は本当の頭からバイクのヘッドライトのように突き出た複眼の土台(眼柄)で、前面を大きな単一の複眼が覆っていた。
 1対の触角、それにブラシ状の短い付属肢が3対と、大小2対のパドル状の付属肢があった。これだけ小さいとブラシ状の付属肢でも泳ぐのに使えるが、もっぱらパドル状の付属肢を動かして泳いだと考えられている。

[ゴチカリス・ロンギスピノサ Goticaris longispinosa]
学名の意味:長い棘のあるゴート族のエビ
時代と地域:カンブリア紀(約5億年前)のヨーロッパ(スウェーデン)沿岸
成虫の全長:2.5mm
分類:節足動物門 汎甲殻類
 カンブロパキコーペとよく似た体の造りをしていて、より大型で細長い体型だった。
 パドル状の付属肢は小さく、4対並んでいた。
 カンブロパキコーペと同じく眼柄の正面に大きな複眼があり、さらに左右には丸く小さな付属物があった。光の強さを感じる単眼だったと思われる。尾端は長い針状になっていた。

第十七話
[パラサウロロフス・ワルケリ Parasaurolophus walkeri]
学名の意味:バイロン・エドモンド・ウォーカー氏の副サウロロフス(サウロロフスは他のハドロサウルス類の恐竜。意味は「トサカのあるトカゲ」)
時代と地域:白亜紀後期(約7600万年前)の北米(カナダのアルバータ州)
成体の全長:8〜10m
分類:鳥盤目 角脚類 鳥脚類 イグアノドンティア ハドロサウルス類 ハドロサウルス科 ランベオサウルス亜科 パラサウロロフス族
 頭部に1mにもなる長いトサカがあったことで有名な、白亜紀の後のほうに現れた大型の植物食恐竜である。植物食恐竜の中でも竜脚類の次に大型化したグループであるハドロサウルス類に属する。2足で早く歩いたり走ったりすることも、4足で立ち止まったりゆっくり歩いたりすることもあった。
 トサカは隆起した鼻筋がそのまま後上方に向かって伸びたもので、内部に鼻道が通っていた。鼻道は鼻孔からトサカの前側を通って先端でUターンし、後ろ側を通って喉に続いた。
 ハドロサウルス類のうちランベオサウルス類にはこのような鼻道の通ったトサカがあったが、ランベオサウルスやコリトサウルスなど大半は頭頂部にくっついた板状のトサカを持っていた。
 ランベオサウルス類が生前トサカをどのように用いていたか様々な説が出されている。なかでも現在特に有力な説は3つある。
 音声を内部の空洞に響かせて大きくしたという説。
 種類別や個体差、性成熟の度合いをお互いに判断する目印にしたという説。
 そして、鼻道の面積を増やすことで嗅覚を増したという説である。これらの役割を併せ持っていた可能性が高い。
 実際にパラサウロロフスの鼻道と同じ長さ・太さの管に音を響かせると、とても低く太い音になるという。しかし近縁種の脳の構造から推測すると、最も発達した感覚は嗅覚であった。
 拡声器説と視覚アピール説ではトサカは他の個体に対する信号の源となるので、群れを成す習性と関係があるとされる。
 パラサウロロフスの化石は他の北米のハドロサウルス類と比べてとても珍しいが、エドモントサウルスやコリトサウルスなどでは1種類だけで密集したボーンベッドが見つかっていることから、これら同様パラサウロロフスも1種類で大群を作って暮らしていたと考えるのが普通になっている。
 全長2m、推定年齢1歳未満の子供のパラサウロロフスの化石が見つかっており、「ジョー」という愛称が付けられた。ジョーのトサカはまだ出っ張り程度であったが、コリトサウルスなどが全長4mくらいになってからトサカができ始めるのと比べるとトサカの成長が早い。
 パラサウロロフスの場合幼いうちからトサカが伸び始めることで、長いトサカが形成されたのだと考えられる。またトサカには性的なアピールの機能があったという説から、パラサウロロフスの性的成熟は肉体の完全な成熟に先んじて起こったのだとも考えられる。
 頭部の特徴としては他にも、平たいクチバシと、発達した歯や顎があった。
 口の先端はクチバシであり、一度にたくさんの植物を口に入れることにも、種類を選びながら食べることにも役立ったと考えられる。エドモントサウルスのようなもっとクチバシの大きいものと比べると、選んで食べる傾向が強かったようだ。クチバシの内側には滑り止めとなる溝の列があった。
 口の後半に数百本の歯が屋根瓦のようにぎっしりと密集して生え、大きな塊になっていた。これをデンタルバッテリーという。植物食動物は硬い植物を食べるうちに歯が擦り減ってしまうが、ハドロサウルス類の場合はデンタルバッテリーの上の方から擦り減った歯が抜け、下の方から新しい歯が生えて送り出されていくようになっていた。歯の一つひとつは6層もの硬さの違う組織からできていたため、少し擦り減ると硬い出っ張りができて植物をすり潰す機能が増した。
 咬筋は比較的発達していた上、顎関節は単純に開閉するだけでなく複雑な動きができるようになっていた。さらに顎関節だけでなく、上の歯の生えている部分が下の歯に押されて横に動くようになっていた(プレウロキネシス)。これらの構造によって、パラサウロフスをを始めとするハドロサウルス類は、枝や樹皮のような硬いものでも噛み切ってすり潰すことができた。
 歯列は顔面から落ちくぼんでいたため、このくぼんだ部分をふさぐような頬があって植物を溜めながら噛んだのだという復元が多い。
 S字の首と湾曲した前半身の脊椎により、頭部は下を向くように保たれていた。2足と4足どちらの姿勢も取れるため、細く短い前肢を地面につくと地表の植物を楽に食べることができたし、起き上がってもっと高いところの植物を食べることもできた。
 エドモントサウルスやコリトサウルスのミイラ化石により、前肢の第2指から第4指は生きていた時はミトンのようにひとまとまりになっていたことが分かっている。手の平は真後ろではなくやや内側を向いていた。
 胴体の脊椎は腰を頂点とするカーブを描き、長い肋骨とともに幅が狭く高い胴体を形作っていた。植物を消化するための長い消化管が収まっていたと考えられる。
 後肢には体重を支えるのに適した特徴と速く走るのに適した特徴の両方が見られる。大腿骨や脛骨・腓骨は長く真っ直ぐで、中足骨は短かった。爪は平たい蹄だった。
 膝の裏に当たる部分には、下肢部を動かすための腱が収まる溝があった。鳥脚類の場合この溝は恐竜の中でも特に深いもので、後肢を速く動かしても腱の往復運動がぶれることはなかった。
 尾は2足歩行するときにバランスを取るため、長くまた上下に幅広く発達していた。胴体の中ほどから尾の先まで棘突起(背筋の骨)が長く発達していて、さらに骨化した腱で網状に覆われていた。このため胴体や尾をあまり曲げることができなかったが、体を支えるために体重を分配するのには適していた。
 トサカの外見や音声で同種を確認しながら群れを成し、主に地表の様々な植物を食べて暮らしていたと考えられている。
 目立つ武器はないため、嗅覚と視覚を用いた群れのメンバー全員の警戒、危険に気付いた時に音声で仲間に知らせること、発達した後肢の脚力などで捕食者から身を守ったようだ。しかしかなり大型になったので、成体ならある程度の相手は武器がなくても追い払えた可能性が高い。
 巣と幼体の化石が見つかったマイアサウラからの推測により、何らかの形で子育てをしたとされる。土を皿状に盛り上げ、その中に数十個の卵を生んで植物を積み上げ、発酵熱で温めたと考えられている。子供に餌を直接与えたかどうかは意見が分かれている。

第十八話
[金生山のウミユリ(学名なし) class Crinoidea]
分類群の名前の意味:ユリのようなものの仲間
時代と地域:ペルム紀前期(約2億7000万年前)の東アジア(日本)
成体の高さ:断片的なため不明(茎の直径は最大10cm程度)
分類:棘皮動物門 有柄類 ウミユリ綱
 ウミユリは一見ユリのような長い茎の先に花の咲く植物に似ているが、実際はウニやヒトデ、ナマコと同じ棘皮動物に含まれる。他の棘皮動物のように自由に動き回るのではなく、ほぼ特定の場所にとどまって過ごす、棘皮動物の中でも初期の性質を残している。
 ウミユリの体はヒトデをひっくり返して茎の上に乗せたような構造をしている。萼と呼ばれる本体を茎で海底から持ち上げ、腕(いわゆる触手のような部分)を花のように広げて裏側に水流を受け止め、流れてくる有機物を捕まえて中心にある口に運ぶ。腕は枝分かれしているものが多く、また羽枝という糸状の器官が多数並んでいて、細かい餌を捕まえやすくなっている。
 棘皮動物は五放射相称といって、同じ部品が5つミカンの房のように集まった形状を基本としている。ウミユリも腕の本数が5の倍数である。また茎の断面も円や五角形、星形と五放射相称になっている。
 リン酸カルシウムの骨片を皮にあたる組織でつないだ構造も棘皮動物の特徴だが、ウミユリも全身に骨片を持つ。茎は茎板という板状の骨片をたくさん重ねた構造になっている。
 ウミユリは根のような器官で海底に固着しているが、途中で自切して横たわり、腕を使って餌のありかを求め動き回ることができる種類もいる。化石種は現生種ほどよく動いたわけではないようだ。
 自切しても根の方が死なず萼を再生させるという観察例がある。また腕を捕食者などに切られたあと再生したと思われるものも多く見つかっていて、現生種の再生能力は高いが、化石種はそれほどではなかったようだ。
 オルドビス紀からペルム紀にかけて浅い海で繁栄し、ジュラ紀頃の化石も多く見つかっているが、今も茎のある種類は深海に、また茎のない種類(ウミシダ)は浅い海にも生息している。
 現生種の標本の観察結果により、浅い海からウミユリがいなくなったのは、浅い海で繁栄し始めた硬骨魚類に捕食され、当時のウミユリの再生能力が追い付かなくなったためだと考えられている。
 岐阜県の金生山は全体が石灰岩からなるペルム紀の地層で出来ている。ウミユリの化石は下部層の石灰岩を形成する重要な要素である。
 通常ウミユリの茎の直径は3cmもないが、金生山では太さ10cmほどもある大変大きなウミユリの茎の化石が見つかることもある。これは太さでは史上最大のウミユリである。
 ペルム紀に赤道直下にあった地殻が大陸移動により現在の金生山の位置に運ばれてきたのだが、金生山の地層が堆積した海は栄養分が非常に豊富に得られる潮流などがあったらしく、生息していた動物の大型化が促されていたようだ。茎が非常に太いことから、海底から体を高く持ち上げていたと考えられる。
 ウミユリの体は骨片の関節でばらばらになりやすいため、化石のほとんどは断片的なものである。ウミユリの分類には萼や腕の形態が重要なのだが、金生山では萼の部分はほとんど見つかっていない。そのため、茎だけは非常に多く見つかっているにもかかわらず金生山のウミユリの分類は進んでいない。
 しかし茎の特徴だけでも非常に太く茎板が薄いもの、茎板が樽型に膨らんでいるもの、茎板と茎板の間がくびれているものなど8種類が見分けられている。

[スカチネラ・ギガンテア Scacchinella gigantea]
学名の意味:アルカンジェロ・スカッチ氏の大きなもの
時代と地域:ペルム紀後期(約2億7000万年前)の東アジア(日本)
成体の高さ:約10cm
分類:腕足動物門 ストロフォメナ綱 プロダクトゥス目 スカチネラ科
 腕足動物は一見二枚貝に似た殻を持っているものが多いが、内部の構造は大きく異なる。二枚貝の殻の中は太い筋肉(貝柱)や大きな鰓、肉厚の足などが詰まっているのに対して、腕足動物の殻の中はほとんど空洞で、触手冠というばね状またはブラシ状の器官が空洞の中に収まっている。
 水の中から餌になるものを濾し取って摂取するのは二枚貝も腕足動物も同じだが、二枚貝が筋肉の力で能動的に水を吸い込むことができるのに対して、腕足動物は自分から水流を起こす能力に乏しい。触手冠に生えた繊毛で水流を起こすことができるとされるが、もっぱら外部の水流を誘導して受動的に内部の水を入れ替えていると考えられる。触手冠の形態と殻の形態は、殻の内部に起こる水流により密接に関係しているようだ。
 体を固定するのにも二枚貝と違って筋肉の力を利用せず、肉茎という結合組織でできた器官で海底にへばりつく。
 現生種には涙滴型の殻を持つシャミセンガイの仲間、平たい円錐形の殻を持つカサシャミセンの仲間、分厚い楕円形の殻を持つチョウチンガイの仲間がいる。しかしペルム紀末まではさらにずっと多くの種類がいて、スカチネラが属するプロダクトゥス類はペルム紀に特に大繁栄して殻の形態も非常に多様化していた。
 スカチネラ自身は片方の殻が長い円錐形、もう片方の殻が蓋状になっていて、単純ではあるが腕足動物らしくはなかった。金生山の下部層から、それほど大きくないタイプのウミユリと一緒に密集して発掘される。金生山からは他にもレプトドゥスなどの腕足動物が発掘される。

[パラフズリナ・ジャポニカ Parafusurina japonica]
学名の意味:日本の副フズリナ(フズリナはフズリナ類の代表的な属。意味は「紡錘のような小さな生き物」)
時代と地域:ペルム紀前期(約2億7000万年前)の東アジア(日本)
成体の全長:約1cm
分類:リザリア界 有孔虫門 有孔虫綱 紡錘虫目 フズリナ類 ネオシュワゲリナ科
 有孔虫とは「星の砂」として知られるホシズナなど、石灰質の殻を持つ単細胞生物である。殻の表面には孔が開いていて、仮足と呼ばれる細長い器官をそこから出して食物を取り込んだり老廃物を排出したり、移動することもできる。
 2mmほどあるホシズナなど単細胞生物としては大型だが、古生代に繁栄したフズリナ類(紡錘虫)はさらに1cmかそれ以上まで大型化していた。
 フズリナ類の紡錘形をした殻の中は多くの層と部屋に分かれていて、その空間は全て軟体部で埋められていた。断面には部屋が渦巻き状に規則正しく並んでいるのが見える。成長とともにこの部屋は増えていった。
 現在の有孔虫と同じように、海藻の根元に取り付いて生活し、死んだあとに残った殻は砂浜を形成する石灰質の一部となったと考えられる。
 フズリナ類は短期間で種が入れ替わり殻が化石に残りやすいため、示準化石として優秀である。金生山の地層は最も古いパラフズリナから最も新しいヤベイナまで層によって異なるフズリナ類の化石が密集して産出する。パラフズリナはやや細長い形をした大型のフズリナ類だった。
 パラフズリナ・ジャポニカは日本で初めて学術的に認識された化石である。1875年、ドイツの古生物学者ギュンベルは金生山のフズリナ化石を論文に記載し、そのうちの一つをシュードフズリナ・ジャポニカと命名した。シュードフズリナ・ジャポニカは後にパラフズリナ・ジャポニカと再分類された。

[ベレロフォン・ジョネシアヌス Bellerophon jonesianus]
学名の意味:ジョーンズ氏の天馬を駆る英雄
時代と地域:ペルム紀後期(約2億5000万年前)の東アジア(日本)
成体の直径:約15cm
分類:軟体動物門 腹足綱または単板綱 ベレロフォン目 ベレロフォン科
 巻貝のように見えるほぼ球形の殻を持つ軟体動物。見た目どおり原始的な巻貝であるという説と、筋肉痕の特徴から、単板類という元々巻いていない貝の中から独自に巻くようになったものだという説がある。円錐形の螺旋ではなく平板状に巻き、殻口にはスリットがあった。
 どちらに分類されるにしても殻口から出した軟体部で接地して這い回っていたようだ。
 他の産地で産出するベレロフォンは数cm程度だが金生山で発掘されるものは特別大きかった。金生山ではこのように、他の産地と違って大きな貝化石も産出する。

[ジンバクリヌス・ボストーキ Jimbacrinus bostocki]
学名の意味:ボストック氏のジンバ地方のユリ
時代と地域:ペルム紀前期(約2億8000万年前)の西オーストラリア
成体の高さ:25cm
分類:棘皮動物門 有柄類 ウミユリ綱 アンペロクリヌス目 カルケオリスポンギア科
 ジンバクリヌスは金生山のウミユリと比べるとだいぶ小さな、標準的かむしろやや小型のウミユリであった。
 枝分かれしていない太い腕が5本あった。萼はごつごつと大きな骨片が集まった形で、骨片から1つずつ太い棘が生えているのが特徴だった。

[エウクラドクリヌス・ケンタッキエンシス Eucladocrinus kentuckiensis]
学名の意味:ケンタッキー州産のよく枝分かれしたユリ
時代と地域:石炭紀前期(約3億4500万年前)の北米(ケンタッキー州)
成体の高さ:数十cm
 エウクラドクリヌスは分厚い円盤状の萼から根元で二つに分かれた腕が生えているのも個性的だが、最大の特徴は茎がねじれていることであった。茎の断面は他のウミユリと違って平たい楕円形をしていたため、ねじれている様子が分かりやすい。

[マクロクリヌス・ムンドゥルス Macrocrinus mundulus]
学名の意味:小奇麗で大きなユリ
時代と地域:石炭紀前期(約3億4500万年前)の北米(インディアナ州)
成体の高さ:10cm以上
分類:棘皮動物門 有柄類 ウミユリ綱 円頂類 モノバトリダ目 バトクリヌス科
 小型のウミユリで萼は小さく、腕は萼の段階ですでに枝分かれして細かった。
 マクロクリヌスの最大の特徴は萼の中心から腕より長く伸びた肛門腺で、これによりミズバショウの花かパラボラアンテナのような見た目をしていた。

[スキタロクリヌス・デカダクティルス Scytalocrinus decadactylus]
学名の意味:10本の指がある円柱状のユリ
時代と地域:石炭紀前期(約3億4500万年前)の北米(インディアナ州)
成体の高さ:数十cm
分類:棘皮動物門 有柄類 ウミユリ綱 デンドロクリヌス目 スキタロクリヌス科
 腕が根元で2つに枝分かれしていて、やや太く先端だけすぼまって、ペンのような独特の形をしていた。

[アガリコクリヌス・アメリカヌス Agaricocrinus americanus]
学名の意味:アメリカのマッシュルームのようなユリ
時代と地域:石炭紀前期(約3億4500万年前)の北米(インディアナ州)
成体の高さ:数十cm
分類:棘皮動物門 有柄類 ウミユリ綱 円頂類 モノバトリダ目 アガリコクリヌス科
 五角形をした萼から根元で2つに分かれた腕がほぼ横向きに生えていた。ウミユリの化石は腕がすぼまっていることが多いが、アガリコクリヌスの化石は腕が根元で膨らんでいるように見える。

[ケストクリヌス・シグナトゥス Cestocrinus signatus]
学名の意味:署名の入ったグローブのユリ
時代と地域:石炭紀前期(約3億4500万年前)の北米(インディアナ州)
成体の高さ:数十cm
分類:棘皮動物門 有柄類 ウミユリ綱 円頂類 クラディーダ ボトリオクリヌス科
 腕が何段階にも枝分かれして、先端に近づくにつれてかなり細長くなって密集していた。
 インディアナ州のクローフォーズヴィルは60種以上に及ぶウミユリの化石が多数産出する、世界有数のウミユリ化石産地である。

[スキフォクリニテス・エレガンス Scyphocrinites elegans]
学名の意味:石になった優雅な杯のユリ
時代と地域:シルル紀後期からデボン紀前期(約4億2000万年前)の北米、ヨーロッパ、北アフリカ
成体の高さ:数十cm以上
分類:棘皮動物門 有柄類 ウミユリ綱 円頂類 モノバトリダ目 スキフォクリニテス科
 スキフォクリニテスやマロウマクリヌスの茎の根元は根状の器官ではなく、ロボリスという丸い中空の器官になっていた。生きていた時にはロボリスの中に気体が詰まっていて、海面に浮かんだロボリスからぶら下がるようにして生活していたと考えられている。
 萼は六角形の骨片がたくさん集まった杯状の形になっていて、腕は根元から先端まで満遍なく枝分かれしていた。

第十九話
[カスモサウルス・ベッリ Chasmosaurus belli]
学名の意味:ウォルター・ベル氏の裂け目のあるトカゲ
時代と地域:白亜紀後期(約7600万年前)の北米(アルバータ州)
成体の全長:4〜5m
分類:鳥盤目 周頭飾類 角竜類 ケラトプシア ケラトプス科 カスモサウルス亜科
 頭部にフリルと角、尖ったクチバシのある四足歩行の植物食恐竜である角竜の一種。北米大陸の西側からはケラトプス科に属する派生的な角竜類が多数発掘されていて、8000万年前から白亜紀の終わる6600万年前にかけて時代・地域により様々な種が入れ替わっていたことが分かっている。
 カスモサウルスは北部のカスモサウルス類としては原始的な種類だった。ベッリ種とルッセリ種はフリルの細部や角の長さに違いがあるが、実際は同じ種の雌雄かもしれない。
 最も有名な角竜であるトリケラトプスによく似た体型だったが、トリケラトプスと比べると小柄で、フリルや角の形態は異なっていた。
 カスモサウルスの仲間はトリケラトプスを含めて目の上の2本の角が長く鼻の上の1本の角が短いものが多かったが、カスモサウルスは目の上の角も短く、個体によってはほとんどなかった。
 目の上の角が長いトリケラトプスや鼻の上の角が長いセントロサウルスの場合は角の使い方について詳しい研究が行われている。これらの場合角を左右に振り回して外敵やライバルを威嚇または撃退することができ、さらにトリケラトプスのように長い角が2本あるものは、同種同士で角を組み合わせて闘争することもあったと言われる。しかしカスモサウルスのような短い角の使い方はよく分かっておらず、物理的な機能より同種同士の視覚的アピールに用いられたのかもしれない。短い角よりクチバシのほうが武器として使われたと言われることもある。
 小柄で角も短い反面、カスモサウルスのフリルは非常に発達していた。全体が縦長の扁平な逆台形をしていて、高さは1mにもなった。上の両端にホーンレットと呼ばれる小さな棘があった。角竜の中には複雑な形状のフリルやホーンレットを持つものもいたが、カスモサウルスのフリルはシンプルだった。
 フリルは中央の大きな逆三角形の部分(頭頂骨)と、その両脇の、後ろ向きに曲がった小さな三角形の部分(鱗状骨)に分かれる。頭頂骨には左右一対の大きな穴が開いていて、フリルの大部分がほとんど骨組みしかない構造をしていた。
 トリケラトプス以外の角竜は皆フリルに穴が開いていたが、カスモサウルスのフリルに開いた穴は特に大きかった。生前は穴が軟組織で埋められていたとされる。頑丈な構造ではないため、トリケラトプス以外の角竜のフリルが外敵からの防御に役立ったとはあまり考えられていない。
 幼体ではフリルも角も体に対してごく小さかった。
 フリルには表面に血流を巡らせることで放熱したという物理的な機能の他に、外敵やライバルに対する威嚇、性的に成熟しているという目印といった視覚的な機能があったと考えられる。
 口の先端にある尖ったクチバシと、非常に発達した奥歯や顎も角竜の特徴である。
 奥歯は数百本が集まり、鳥脚類と同じくデンタルバッテリーという塊を形成していた。塊の下から新しい歯が生え、上の方の歯が食べ物を噛むのに使われ、擦り減るごとに下から生え変わった。鳥脚類とは違って、広い面で食物をすり潰すより尖った縁で裁断機のように固いものを切り刻むのに適していた。
 顎は丈夫で咬筋が発達していた。フリルの根本近くは咬筋の土台にもなっていた。カスモサウルスは角竜の中では吻部が細長いほうで、固い植物をある程度選びながら食べていたようだ。
 頭部を支える首は太くて短く、頸椎のうち前方の一部は癒合して頑丈になっていた。またフリルの裏側の一部は頭を支える筋肉を付着させる役割もあった。
 深く曲がった肋骨、湾曲した脊椎、幅広い骨盤が樽状の胴体を形成していた。植物を消化するための長い消化管を収めるスペースが確保されていた。腸骨と仙椎は一体化して板状になり、背中の後半全体を覆っていた。尾は恐竜としては細く短かった。
 四肢は頑丈だったが、走行にもある程度適していた。
 前肢は後肢と比べて短く、頭部を低く保っていた。保存状態のいいトリケラトプスの化石から、派生的な角竜は手の平を後ろではなく内側に向け、第一〜第三指だけを前に向けて歩いたことが分かっている。第四指、第五指は小さくて爪もなかった。
 まとまって化石が見つかる場合があることから、規模の小さい群れを作って生活していたと考えられている。もっと大規模な集団の化石が見つかる角竜もいる。群れのメンバー同士の関係を形成するために角やフリルによるアピールが行われただろう。

第二十話
[アロデスムス・ケロッギ Allodesmus kelloggi]
学名の意味:レミントン・ケロッグ氏の異なった類縁
時代と地域:中新世中期(約1500万年〜1000万年前)の北太平洋沿岸(日本、北米)
成体の全長:2〜3m
分類:食肉目 鰭脚亜目 デスマトフォカ科
 アシカ、アザラシ、セイウチの仲間はまとめて鰭脚類と呼ばれ、イヌ、ネコ、クマなどと同じ食肉類に含まれる。このグループには上記の3つ以外にもう一つデスマトフォカ科という、アザラシに近縁で絶滅したグループがある。アロデスムスは代表的なデスマトフォカ類の一つであり、トドと同等の大きさになる大型の鰭脚類だった。
 同じ鰭脚類でもアシカとアザラシでは泳ぎ方が異なり、アシカはペンギンのように翼状の前肢を羽ばたかせて進むのに対して、アザラシは魚のように尾鰭状の後肢を交互に振って進む。しかしアロデスムスはアシカに似た前肢とアザラシに似た後肢を兼ね備えていて、おそらく二つの泳ぎ方を使い分けていた。
 頭部は平たかった。また臼歯は比較的大きく、どれもやや後ろにカーブした単純な円錐形をしていた。どちらかというと大きめの魚やイカを食べるのに適した形状だが、現在の多くの鰭脚類がそうであるように、状況によって最も手に入りやすいものを中心に食べていたと思われる。眼窩は大きく、深く潜っても視覚で餌を探すことができたと考えられる。
 オスがメスより大柄であるという、はっきりとした性的二型が確認されている。例えば恐竜などの場合化石から性別を判断するのは難しいとされるのとは対照的である。アシカ類やゾウアザラシのように、繁殖期には多数のメスが群れをなし、一頭のオスが自分のテリトリー内のメス全員を繁殖相手とするハレムを形成したのではないかと言われる。また、その場合は繁殖期でないときには長距離の回遊を行って栄養の摂取に専念しただろう。
 鼻孔が吻部の上面に大きく開いていることも性的二型と関連付けられて、オスはゾウアザラシのように大きく柔軟な鼻を持っていたとする復元が多い。
 デスマトフォカ類が生息していた中新世中期にはまだいわゆる「氷河期」は訪れておらず、温暖な気候だった。それ以降に寒冷化が起こったことにより、デスマトフォカ類は餌生物や上陸可能な陸地の確保、体温調節に大きな影響を受けて絶滅したようだ。現在もキタオットセイなどは海水温や流氷の広がる範囲などの年ごとの変化に大きな影響を受けながら生活している。

第二十一話
[ラフス・ククラトゥス(モーリシャスドードー) Raphus cucullatus]
学名の意味:カッコウに似ていて縫い目のあるもの
時代と地域:17世紀までのモーリシャス島
成体の全高:1m
分類:ハト目 ハト科 ドードー亜科
 一部の鳥類を除く恐竜が絶滅して以来、二次的に飛行能力を捨てた鳥が様々なグループの鳥類から現れてきた。モーリシャスドードーとロドリゲスドードーは、オオハシバトに近縁な飛ばなくなったハトの一種である。
 飛行能力は鳥類の特に目立つ特徴だが、体の構造に多くの制約を設ける原因にもなる。そのため、特に飛ぶ必要のない場合、飛行能力を捨てる鳥類も多い。ドードーも捕食者のいないマスカリン諸島に生息することで、陸上で大型化するという進化を遂げた。マスカリン諸島には他にも様々な飛ばない鳥が生息していた。
 特に断りなくドードーと言った場合モーリシャスドードーを指すことが多い。大きなクチバシと頭、がっしりとした胴体や後肢を持つ大型の鳥であった。
 灰色の羽毛に被われた、俯いたシチメンチョウのような姿で有名であり、体重20kgにも達する異様に太った鳥であったとされてきた。しかし今では、これは捕獲された後運動不足、栄養過多となった個体の姿であると考えられている。
 化石として残された骨格の検証により、健康なドードーは体重10kgを超える程度で、首を上げ体を起こした、他の鳥と変わらない姿勢を保っていたことが分かった。
 翼である前肢はすっかり退化していた。ダチョウと違って飛ぶ以外のことにも使わなかったようだが、生息時に残された絵画から翼は胴体の羽毛に埋もれることなくはっきりと見分けられたことが分かる。胸骨はそれほど小さくはなかった。
 丸い頭は顔面だけ羽毛がなく、フードを被っているように見えた。
 クチバシはとても大きかった。途中まで太く真っ直ぐで、先端近くが丸く膨らんで鉤状に曲がっていた。角質の層はこの膨らんだ部分だけを覆っていた。
 何を食べていたのか明確な記録はないが、近縁であるオオハシバトの食性から、地上に落ちた果実や種子を中心に食べていたと考えられる。かなり固いものでも食べられたかもしれない。
 モーリシャス島に生えているタンバラコク(カリヴァリア)という樹木の種子は一旦ドードーに食べられて分厚い皮をある程度消化されないと発芽しないと言われてきたが、近年では否定されている。
 16世紀にヒトがモーリシャス島に移住するようになると、ヒトを恐れず威嚇するドードーは害鳥として駆除され、またイヌやネコ、ブタなどの家畜、物流に紛れ込んだネズミによりドードーの卵や雛が捕食され、ドードーは絶滅に追いやられた。
 その間に残されたドードーの自然史的な記録は少なく、ただ一体の全身の剥製さえ保存状態の悪さから廃棄された。生息当時に保存された標本としては肉の残った頭部と足があるが、当時のものよりも2005年から2006年にかけてサトウキビ畑で発掘された骨のほうが充実しているようだ。

[シノルニトサウルス・ミレニイ Sinornithosaurus millenii]
学名の意味:千年紀の節目に中国で見つかった鳥のようなトカゲ
時代と地域:白亜紀前期(約1億2500万年前)の中国
成体の全長:1m
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア マニラプトラ エウマニラプトラ ドロマエオサウルス科
 ドロマエオサウルス類は最も鳥に近いとされている肉食恐竜のグループである。シノルニトサウルスはその中でも比較的小型で、全身に羽毛があったことが化石に残った痕跡から確認されている。
 細長い四肢とコンパクトな胴体を持ち、肩関節は真横を向いていて鳥のように羽ばたくことができた。生前は風切羽の生えた翼になっていたようだ。滑空や飛行ができるほど大きな翼ではなかったが、同種へのディスプレイや立体的な移動の補助などに使われたとされる。羽毛に残ったメラノソーム(メラニン色素の粒)の顕微鏡観察から、茶色や黒の模様があったと考えられている。
 吻部も比較的細長かった。歯は大きく、上顎の最も大きい数本の歯には側面に溝があった。またそのすぐ上の骨にくぼみが見られたことから、くぼみには毒腺が収まっていて、噛み付いた獲物に歯の溝を通じて毒液を注ぎ込んだのだという説が唱えられた。現在はヤマカガシなど一部の毒ヘビがこうした毒牙を持つ。
 しかし現在では毒腺の収まるくぼみがあるという説は疑問視されている。また歯の大きさも、歯が歯槽からはみ出して実際より大きく見えている可能性がある。
 どちらにしろ小動物や昆虫を主に捕らえて食べたようだ。

[フォルスラコス・ロンギッシムス Phorusrhacos longissimus]
学名の意味:ぼろ布をまとったとても長いもの
時代と地域:中新世中期(約1500万年前)の南米(アルゼンチン)
成体の全高:2.5m
分類:ノガンモドキ目 フォルスラコス科
 飛ばない鳥はドードーのように離島に現れたものばかりではなく、例えば現在のダチョウやエミューのように、大陸の環境にも非常に大型の飛ばない鳥がたびたび現れていた。その中でもフォルスラコスの仲間やガストルニス(ディアトリマ)の仲間など、狭義にはフォルスラコス類だけを「恐鳥類(テラーバード)」と呼ぶ。
 フォルスラコスはこうした飛ばない大型鳥類の中でも特に背が高く、しかし身軽な体形をしていた肉食の鳥類だった。
 2.5mに達する高さの大半は細長い首と後肢で占められていた。後肢の筋肉は発達していて走行に適していた。また足には鉤爪があった。翼である前肢はごく小さく、胸骨の竜骨突起はなくなっていた。
 頭部は胴体とあまり変わらない大きさで、クチバシは上下に幅広く先端が鉤状に曲がっていた。近縁のアンダルガロルニスの解析によると、上下・前後方向の力に対する強度はあったものの、幅が狭く、また関節の柔軟性を欠くため、横方向の強度はなかった。
 つまり獲物の肉を切り裂く力はあったが、暴れる獲物を噛みしめて押さえつけたり振り回したりすると自分が怪我をする危険があった。
 よって大きな動物との格闘は避け、自分よりずっと小さな獲物に駆け寄って後肢で押さえつけ、上のクチバシを振り下ろすことで仕留めたと考えられている。
 フォルスラコス類は約40万年前にティタニスが絶滅するまで生存していた。

第二十二話
[ワイテイア・ウォドワルディ Whiteia woodwardi]
 現生の大部分の魚類が含まれる硬骨魚類は、さらにその中の大部分が含まれる条鰭類と、シーラカンスや肺魚が含まれる肉鰭類に分かれる。条鰭類は扇のような鰭が胴体から直接生えているが、肉鰭類の胸鰭や腹鰭には筋肉の付いた柄がある。これは四肢動物の四肢の起源となったと考えられている。
 シーラカンス類(もしくは総鰭類)は肉鰭類の中でも、以下のような特徴を持つ。
 骨化した脊椎を持たず弾力のある脊柱しかないこと。
 頭蓋骨が前後に分かれ可動する関節で繋がっていること。
 そして、大部分は背鰭が3つ、尻鰭が2つあり、それぞれ一番後ろの1つが尾部に寄って尾鰭のようになっていて、本当の尾鰭はごく小さいことである。
 肉鰭類や、条鰭類の中でも原始的なものは、鰾(うきぶくろ)を肺として使い空気呼吸ができるものが多い。硬骨魚類は元々浅く水位の変化が激しい環境に適応するに当たって肺を獲得し、その環境から離れた条鰭類が肺を鰾に変化させたと考えられている。
 シーラカンス類も化石種は肺を持っていたが、表面が石灰化した固いシリンダーになっていたため化石に残っている。
 ワイテイアは三畳紀のマダガスカル近海に生息した、15cm程度の小型のシーラカンスだった。吻部はやや細長く、胴体は背が高かった。

[ミグアシャイア・ブレアウイ Miguashaia bureaui]
 デボン紀の三角州で堆積したカナダの地層から発掘された、40cmほどのごく原始的なシーラカンスである。シーラカンスの中にはこのように淡水に生息するものもいた。
 多くのシーラカンスと異なり尾部の鰭が上下非対称で、下側である尻鰭が大きく、尾が上向きに曲がっていた。頭部は丸く、前方の部分が短かった。

[ホロプテリギウス・ヌドゥス Holopterygius nudus]
 デボン紀の北米の礁に生息していた10cm程度のシーラカンスである。
 こちらも後の多くのシーラカンス類と尾部の形態が違って、ウナギのような長い尾を持っていた。発見されてから長らくシーラカンス類と気付かれなかった。

[アレニプテルス・モンタヌス Allenypterus montanus]
 ハドロネクトル、カリドスクトルとともに、モンタナ州のベア・ガルチ石灰岩層という、石炭紀中期の河口または湾で堆積した細かい泥の層から発見された。
 全長は20cmほどで、胴体の前半は丸く盛り上がり、後半は傾斜して先細りになっていた。尾部の鰭は低く後半身全体に沿っていた。

[ハドロネクトル・ドンバイルディ Hadronector donbairdi]
 15cmほどのシーラカンス。胴体は縦に幅広く、胸鰭と腹鰭はやや小さかった。

[カリドスクトル・ポプロスム Caridosuctor populosum]
 20cmほどのシーラカンス。現在の渓流魚のような、やや細長い流線形の体型をしていた。尾部の鰭は大きかった。

[エウステノプテロン・フォールディ Eusthenopteron foordi]
 シーラカンスが淡水、海水のいずれにも放散していく一方、肺魚に近縁な肉鰭類の中から両生類に進化していくものが現れた。
 エウステノプテロンは20cmほどから1m以上になる、デボン紀の北米およびヨーロッパに生息した魚類である。胴体は円筒形をしていて胸鰭以外の鰭が後半身に寄っていた。
 平たい頭部、しっかりした四肢のような胸鰭と腹鰭、シーラカンスと違って骨化した丈夫な脊椎は両生類に似ていた。

[コエラカントゥス・グラヌラトゥス Coelacanthus granulatus]
 ペルム紀のヨーロッパの浅い海に生息していた90cmほどのシーラカンスで、細長い体型をしていた。
 世界で初めて発見されたシーラカンス類である。コエラカントゥスを英語読みするとシーラカンススとなる。

[レベラトリクス・ディヴァリケルカ Rebellatrix divaricerca]
 三畳紀のカナダ近海に生息していた推定90cmのシーラカンス。
 尾部の鰭が現生の回遊魚のように三日月形になっていた。また鰭の生えている尾はシーラカンスとしては細く締まっていた。これは高速で遊泳する魚の特徴だが、脊柱が骨化していなかったはずのレベラトリクスがどれだけ速く泳げたか、またレベラトリクスに限らず様々な鰭の形をしたシーラカンス類がそれぞれどのように泳いだか明らかにはなっていない。

[ウンディナ・ペニンキラタ Undina penicillata]
 ジュラ紀のドイツの浅い海に生息したシーラカンス。体全体が楕円形で額だけ直線的だった。現生のシーラカンスであるラティメリアに特に近いものの一つである。

[アクセルロディクティス・アラリペンシス Axelrodicthys araripensis]
 ジュラ紀後期から白亜紀前期になるとラティメリアに近いものの中から河川に生息するマウソニア類が現れた。
 アクセルロディクティスもその一つで、白亜紀前期のブラジルの河川に生息した、40cmから1.5mになる大型のシーラカンスである。吻部が細い以外は現生のシーラカンスであるラティメリアによく似ている。化石には肺が特にはっきりと残っていることが多い。

[マウソニア・ラヴォカティ Mawsonia lavocati]
 白亜紀前期のアフリカの川に生息した、おそらくは史上最大のシーラカンスである。1mを超える頭骨の化石しか発見されていないが、全長は3.8mになると推定されている。
 同属のマウソニア・ブラジリエンシスは全身の化石が発見されているが、アクセルロディクティスに似ていたようだ。

[ラティメリア・メナドエンシス Latimeria menadoensis]
 現生のシーラカンスの一つで、インドネシア沖の深海に生息している。アフリカ東沖に生息するラティメリア・カルムナエのほうが先に発見された。2種の間に遺伝子だけでなく形態にも差があるか研究が進められている。
 逆立ちのような姿勢を取ることが多く、尾部の鰭は動かさない。肺は脂の詰まった鰾に変化している。

第二十三話
[ガストニア・ブルゲイ Gastonia burgei]
学名の意味:ロバート・ガストン氏とドン・バージ氏のもの
時代と地域:白亜紀前期(約1億3000万年前)の北米(ユタ州)
成体の全長:4〜6m
分類:鳥盤目 装盾亜目 曲竜下目 ノドサウルス科ポラカントゥス亜科またはポラカントゥス科
 鎧竜と呼ばれる、胴体を鎧で覆われた4足歩行の植物食恐竜の一種である。
 鎧竜は尾にハンマーのような骨の塊があるアンキロサウルス類と骨の塊がないノドサウルス類の2つ、またはノドサウルス類からポラカントゥス類を分けて3つに分けられる。
 ガストニアはポラカントゥス類の中でも骨格の形態が詳しく分かっている。
 胴体は幅広く、背中と尾には骨でできた棘や楕円の板(皮骨板)がいくつも並んでいた。腰には骨片が集まってできた一枚の大きな骨の板が、骨盤に重なるように乗っていた。
 棘は背中に2列と、首から両脇腹にかけて1列ずつ並んでいた。いずれも三角形の板状で、背中の棘は多少厚みがあったが脇腹の棘はとても薄かった。鎧竜の皮骨板は敵からの防御のために発達したとされているが、脇腹の薄い棘は物理的な防御というより視覚的な威嚇のためのものだったのかもしれない。
 四肢は短く、あまり走行に適していなかった。
 頭部は穴が小さく丈夫になっていたが、同じ鎧竜のエウオプロケファルスなどと違って皮骨板と一体化してはいなかった。眼窩の下と後上方にも小さい棘があった。また関節の向きから、頭部を少し下向きに保っていたようだ。
 口の前方はクチバシで、先端がやや幅広く、中央がへこんでいた。地表の植物をあまり選ばずに食べたと考えられる。
 口の奥の方には小さな木の葉形の歯が生えていた。鎧竜は歯が少し磨耗していて、顎の関節が食物を咀嚼するのに多少適していたことから、クチバシで刈り取った植物を丸呑みではなく多少咀嚼して飲み込んだようだ。
 発掘された地層の様子から、氾濫原(洪水で水没することのある、河川近辺の平地)に生息していたと思われる。鎧竜は半水性だったと言われることもある。同じ地層から小型肉食恐竜のデイノニクスと、中型肉食恐竜のユタラプトル、最大級の肉食恐竜であるアクロカントサウルスも見付かっている。

第二十四話
[コティロリンクス・ロメリ Cotylorhynchus romeri]
学名の意味:アルフレッド・ローマー氏の壺状の口先
時代と地域:ペルム紀前期(約2億9千万年前)の北米
成体の全長:3.5m以上
分類:単弓綱 盤竜目 カセアサウルス亜目 カセア科
 単弓類は哺乳類型爬虫類とも呼ばれていた、両生類と哺乳類の中間に当たるグループである。ペルム紀に特に繁栄していた。
 そのうち特に哺乳類に近い獣弓類を除くものをかつては盤竜類としてひとまとめにしていた。カセア科も盤竜類に含まれていた。
 コティロリンクスはカセア科の中でも詳しく分かっていて、カセア科の特徴をよく備えていた。また、ペルム紀の陸上動物の中で最大のものの一つである。
 胴体は大きく、太い円柱状だった。長い肋骨で大きな容積が確保されていた。
 対照的に平たい三角形の頭部は20cmほどと、全長の数十分の一しかなかった。細かい歯が生えていて、特に上顎の歯が多かった。顎はしっかりとしていた。また吻部の先端には大きな鼻孔が突き出していた。
 四肢は太く短かった。前肢と肩帯は頑丈に発達していて、手は大きく広がっていた。尾は細長く、全長の半分を占めていた。
 巨体によって捕食者を退けながらごくゆっくりと歩き、植物を噛み砕いて腹部の長い消化管で消化したと考えられる。前肢や鼻は、地中の餌を匂いで察知して穴を掘って得るのに用いたのかもしれない。

[ディプロカウルス・マグニコルニス Diplocaulus magnicornis]
学名の意味:大きな角状の2つの覆いがあるもの
時代と地域:ペルム紀前期(約2億9千万年前)の北米
成体の全長:1m
分類:両生綱 空椎亜綱 ネクトリド目 ケラテルペトン科
 ペルム紀には現在のオオサンショウウオと同等以上の大型両生類も繁栄していた。ディプロカウルスもその一つである。
 ブーメランのような形状をした、左右後方に突き出た扁平な頭部でよく知られている。大部分は角のようなもので、頭部の中央に目や下顎が集まっていた。
 幼体から成体までの化石により、頭部から突き出した部分が成長とともに発達していったことが分かっている。視覚的なアピール、泳ぐときの舵取り、聴覚の増強などの役割が考えられるが、何に使われていたのかは不明である。
 四肢は小さくて弱々しく、陸上を歩くことはなくほとんど水中で過ごしたと考えられている。

[エダフォサウルス・ボアネルゲス Edaphosaurus boanerges]
学名の意味:大声で宣教する舗道のトカゲ
時代と地域:ペルム紀前期(約2億7千万年前)の北米
成体の全長:2.5m
分類:単弓綱 盤竜目 真盤竜亜目 エダフォサウルス科
 いくつかの単弓類は棘突起(背筋の骨)が長く伸びていた。棘突起の間は皮膚で埋まり、背鰭のような帆になっていたようだ。
 エダフォサウルスは背中に帆を持った、四足歩行で植物食の単弓類だった。棘突起は長く伸びているだけでなく、真横向きのごく短い枝がいくつも生えていた。
 帆は日光や風を受けて体温を調節するのに使われたという説が最も有力である。他にも視覚的アピールもしくは外敵への威嚇などの説がある。
 四肢は短く、歩くのは遅かったようだ。頭部は小さかったが顎は丈夫だった。尾は太く発達していた。

[ディメトロドン・テウトニス Dimetrodon teutonis]
学名の意味:テウトネス族の2種類の長さがある歯
時代と地域:ペルム紀前期(約2億8千万年前)のヨーロッパ(ドイツ)
成体の全長:約70cm
分類:単弓綱 盤竜目 真盤竜亜目 スフェナコドン科
 ディメトロドンも帆のある単弓類で、エダフォサウルスと違い肉食性だった。帆には横枝はなく、エダフォサウルスの帆と比べて縦長だった。
 ディメトロドン属には多くの種が含まれ、大きさや帆の形に違いがあった。リンバトゥス種のように全長2m近いものが有名だが、テウトニス種は全長数十cm程度と推定される、最も小さなディメトロドンだった。テウトニス種は唯一北米以外から発見されたディメトロドンでもある。
 テウトニス種自体は脊椎や棘突起しか見つかっていないが、ディメトロドン属の他の種は詳しく分かっている。
 頭部は大きく発達していた。横から見ると頭部はほぼ楕円形で、上顎の凹みに下顎の出っ張りが噛み合うようになっていた。
 歯は鋭く、また上顎に1対特に長い牙があった。歯の縁にはステーキナイフのような鋸歯があり、効率的に肉を切ることができた。
 四肢はエダフォサウルスと比べると長く、若干身軽な体型だった。

[コエルロサウラヴス・ジェケリ Coelurosauravus jaekeli]
学名の意味:オットー・イェーケル氏の中空の尾を持つトカゲの叔父
時代と地域:ペルム紀前期(約2億6千万年前)のヨーロッパ(ドイツ、イギリス)
成体の全長:60cm
分類:爬虫綱 双弓亜綱 目不明 ウェイゲルティサウルス科
 コエルロサウラヴスは最も早く空中に進出した爬虫類である。
 全体的な姿は樹上性の身軽なトカゲによく似ていたが、脇腹に片側20本以上の非常に細長い骨の束のある化石が発見されている。この骨は扇子の小骨のように、薄い皮膜でできた翼を支えていた。
 現生のトビトカゲのように、木から木へ滑空して移動していたようだ。
 頭部は吻が尖っていて、後頭部に棘の生えた小さなフリルがあった。歯は非常に細かかった。

[スミニア・ゲトマノヴィ Suminia getmanovi]
学名の意味:D.L.スーミン氏とS.N.ゲトマノフ氏のもの
時代と地域:ペルム紀前期(約2億6千万年前)のロシア
成体の全長:約30cm
分類:単弓綱 獣弓目 ヴェニュコヴィア科
 スミニアは最も初期の獣弓類だったが、多くの獣弓類と違って樹上性だったと考えられている。
 四肢や指は長く、また親指が独立して動き、木の枝などをつかむことができた。胴体は柔軟で、尾は細長かった。
 頭部は全体的に丸みを帯びていて、吻部は短かった。眼窩は大きく、やや前を向いていた。
 大きな三角形の歯が生えていた。前方の歯が特に大きく、口から歯がはみ出すように復元されることが多いが、歯の先端が噛み合わさるため歯がむき出しでは口が密閉できないと思われる。木の葉などをかじり取って食べていたと考えられる。

[ゲロバトラクス・ホットニ Gerobatrachus hottoni]
学名の意味:ニコラス・ホットン氏の長老のカエル
時代と地域:ペルム紀前期(約2億9千万年前)の北米
成体の全長:約10cm
分類:両生綱 迷歯亜綱 分椎目 アンフィバムス科
 現生の両生類のうちカエルの仲間である無尾類とイモリやサンショウウオの仲間である有尾類はお互いに近縁で、ゲロバトラクスは両者の共通の祖先にとても近いと考えられている。
 頭部はカエルに似て、扁平な半円形をしていて大きな眼窩や発達した耳があった。
 胴体はカエルと有尾類の中間の長さだった。四肢は有尾類に似た構造で、カエルのように飛び跳ねるのではなく有尾類のように歩くのに向いていた。尾は短くて尾鰭にはなっておらず、あまり泳がなかったようだ。

第二十五話
[アウカサウルス・ガリドイ Aucasaurus garridoi]
学名の意味:アルベルト・ガリド氏がアウカ・マウェヴォで発見したトカゲ
時代と地域:白亜紀後期(約8300万年前)の南米(アルゼンチン)
成体の全長:4〜5m
分類:竜盤目 獣脚類 ケラトサウリア アベリサウルス科 カルノタウルス族
 アウカサウルスは原始的な肉食恐竜であるケラトサウルス類の中から特殊化した、アベリサウルス類の一種である。かなり保存状態の良い化石が1体発見されている。
 2足歩行で大きな頭部と長い尾を持つ全体の姿は多くの肉食恐竜と変わらなかったが、前肢が非常に小さいという大きな特徴があった。単に小さいだけではなく前腕部が特に短くて肘と手首がほぼ一体化していた。肩甲骨は発達していた。
 また手に4本の指があったように描かれることが多いが、実際には中手骨(手の甲の骨)は4本あったものの指は人差し指と中指しか発見されておらず、それらも非常に短かった。
 尾にも大きな特徴があった。尾の前半部分は尾肋骨(横突起)が上向きに反り返り、また前後に幅広く互いに関節していた。恐竜の尾は後肢を後ろに蹴るための筋肉の土台となっていたが、アウカサウルスや近縁のカルノタウルスではその筋肉が特に発達していたと考えられる。つまりこれらの恐竜は走行、特に短距離の突進に適応していたとされる。
 吻部はカルノタウルスほどではないが肉食恐竜としては短く、歯は鋭いが小さいほうだった。小型の獲物を捕らえたと思われる。また、すぐ近くから竜脚類の巣および卵の化石が発見されたことから、竜脚類の卵や幼体を主食としていたのではないかとも言われている。

[ボニタサウラ・サルガドイ Bonitasaura salgadoi]
学名の意味:レオナルド・サルガド氏がラ・ボニタの丘で発見したトカゲ
時代と地域:白亜紀後期(約8300万年前)の南米(アルゼンチン)
成体の全長:8m
分類:竜盤目 竜脚形類 真竜脚類 マクロナリア ティタノサウルス上科 ネメグトサウルス科
 竜脚類は首の長い大型植物食恐竜のグループだが、ボニタサウラはその中ではかなり小型で首も比較的短かった。
 口先に大きな特徴があり、左右に大きく広がっていて、縁が鋭かった。生きていたときは角質に覆われクチバシ状になっていたと考えられている。地表の植物をあまり選ばずに刈り取るように食べたと考えられる。

第二十六話
[ペリスフィンクテス・ボウエニ Perisphinctes boweni]
学名の意味:周りをきつく縛られたエドムンド・ジョン・ボーウェン氏のもの
時代と地域:ジュラ紀後期(約1億6000万年前)のヨーロッパ、アフリカ近海
成体の直径:10〜30cm
分類:軟体動物門 頭足綱 アンモナイト類 アンモナイト目 ペリスフィンクテス科
 アンモナイトはオウムガイと同じく殻のある頭足類(イカやタコの仲間)で、デボン紀から白亜紀末にかけて繁栄していた。
 殻の内部はいくつもの部屋に仕切られ、一番外側の最も大きな部屋(住房)に軟体部が収まっていた。他の部屋を気室といって浮力を得るための空洞になっていた。これもオウムガイと同じだが、殻の細部の構造が異なる。
 ペリスフィンクテスは化石が一般にも多く流通していて手に入りやすいアンモナイトである。
 巻きはややきつく、殻口は角を丸めた正方形に近い形をしている。肋(放射状の凹凸)は細かく並んでいて、二又に分かれるものもある。
 特に多く流通しているのは数cm程度のものだが、成熟したものは直径10cm程度のものと20cmになるものがある。これは雌雄の違いと考えられる。

[ダクティリオセラス・コムネ Dactylioceras commune]
学名の意味:一般的な指の角
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億8000万年前)の北米、ユーラシア近海
成体の直径:5〜10cm
分類:軟体動物門 頭足綱 アンモナイト類 アンモナイト目 ダクティリオセラス科
 ペリスフィンクテス以上に巻きがきつく、肋が細かいアンモナイトである。殻口は丸い形をしている。
 こちらも一般に多く流通していて、多数が密集して発掘されることがよくある。

[パラエオパグルス・ヴァンデネンゲリ Palaeopagurus vandenengeli]
学名の意味:アード・ファン・デン・エンゲル博士の太古のホンヤドカリ
時代と地域:白亜紀前期(約1億3000万年前)のヨーロッパ(イングランド)近海
成体の直径:4cm(アンモナイトの殻に入った状態の化石全体)
分類:節足動物門 甲殻亜門 軟甲綱 十脚目 抱卵亜目 異尾下目 ヤドカリ上科 ホンヤドカリ科
 殻に入ったままの化石が見つかっている最も古いヤドカリである。
 貝の殻ではなく、シンビルスキテスという小型のアンモナイトの殻に入った状態の化石が知られている。平たい鋏脚で殻口をぴったりと閉じていて、片方の鋏脚のほうが大きい。

第二十七話
[アンキオルニス・ハクスレイ Anchiornis huxleyi]
学名の意味: トマス・H・ハクスリーの鳥に近いもの
時代と地域:ジュラ紀後期(約1億6000万年前)の中国
成体の全長:35cm以上
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア マニラプトラ エウマニラプトラ トロオドン科
 恐竜の中でも最も鳥類の祖先に近い形態をしているとされる種類。アルカエオプテリクス(始祖鳥)より前の時代の地層から発見されていて、鳥類とそれ以外の恐竜の関係を知る上で重要視される。
 頭と胴体は鳥類のようにコンパクトで、口には小さく尖った歯が並んでいた。昆虫や小動物を食べたと考えられる。
 四肢は細長く、二足歩行性ではあるが前肢も後肢と同等の長さだった。これは鳥類の翼となった前肢に通じる特徴である。
 近縁のトロオドン科やドロマエオサウルス科の恐竜と違い、後肢の第一指の鉤爪は大きくなかった。獲物を後肢で押さえつけることはなかったのかもしれない。また後肢が長いのに反して足が小さく、足指にまで羽毛が生えていた。走るより飛び跳ねることや木登りに適していたようだ。
 全身に非常に保存状態の良い羽毛の痕跡が見つかっている。特に、前肢だけでなく後肢にも翼状の羽毛が生えていた。ドロマエオサウルス科のミクロラプトルなども前肢と後肢の両方が翼になっていて、鳥類の祖先もそうだったと思われる。
 翼はアルカエオプテリクスの翼と比べてもさらにやや短く、揚力を発生させる効率の低いものであった。
 風切羽は現在の鳥類と違って前後対称で、羽一枚ずつの効率も低かった。また羽軸が細いため強度が低く、羽を多数重ねることで補っていた。しかしこれは、羽ばたきの途中に翼を上げるとき、空気を逃がして下向きの力が発生するのを避けるという仕組みがアンキオルニスの翼にはないことを示す。現在の鳥類の風切羽は2枚ずつだけ重なっているため、この仕組みが働く。
 よって、アンキオルニスの飛行能力はごく限られたもので、ジャンプの補助やごく短い滑空だけができたと考えられる。
 前肢は左右に伸ばせるが後肢はそれができないため、後肢の翼をどのように使っていたかはよく分かっていない。成熟すると後肢の翼はなくなるという説もある。
 羽毛の痕跡を顕微鏡観察することでメラノソーム(メラニン色素の粒)が発見され、全身の羽毛の色が判明している。
 ほぼ全身がフェオメラニンを持つ黒い羽毛に覆われ、翼にはメラニン色素のない白い帯があった。また頭頂から後頭部に生えた冠羽はユーメラニンを持ち赤褐色をしていた。

第二十八話
[ファコプス・ラナ Phacops rana]
学名の意味:カエルのようなレンズの目
時代と地域:デボン紀(約4億年前)の北アフリカ(モロッコ)沿岸等
成体の全長:5〜10cm
分類:節足動物門 三葉虫形類 三葉虫綱 ファコプス目 ファコプス科
 三葉虫は古生代に特有の海性の節足動物である。一見ダンゴムシなどに似ているが、体が中央の盛り上がった部分と左右の平たい部分の3つに分かれていることから三葉虫という。また前後方向にも、頭部、胸部、尾部の3つの部分からなる。殻は貝殻と同じ炭酸カルシウムでできていて、非常に硬くまた化石に残りやすい。
 ファコプスは代表的な三葉虫の一つであり、三葉虫としてはおおむね標準的な体型をしていた。
 三葉虫の体のうち化石に残るのはほぼ背面の殻のみだが、ファコプスは殻がやや厚く丸みを帯びていた。大半の三葉虫は体をがま口のように二つ折りにして身を守ることができ、ファコプスがこの姿勢を取るとダンゴムシのように球に近い形になった。
 また頭部中央の頭鞍という部分や、複眼が丸く膨らんでいたのも外見上の特徴である。
 複眼の構造自体も他の三葉虫と違い、一つひとつの個眼が大きかった。これは深海や夜間など暗い環境に適応したためかもしれない。
 三葉虫の複眼のレンズは殻と同じ炭酸カルシウムからできているが、純粋な炭酸カルシウムの結晶でレンズを作ると光の屈折により焦点が合わない。ファコプスの分厚いレンズの裏側はカルシウムがマグネシウムに置き換わっていて、屈折率の違いを利用して焦点が合わさるようになっていた。三葉虫は特に早く視覚を備えた動物であり、ファコプスに限らず多くの三葉虫にとって視覚は重要な感覚だったと考えられている。
 ファコプスに近縁なバランデオプスという三葉虫の、ほとんど鉱物が浸透しておらず生前の色が保存されているとされる化石が発見されている。その化石の殻は暗い赤色、複眼は薄い緑色をしている。ファコプスもそのような色だったかもしれない。また生前の斑点模様が残った三葉虫の化石も見つかっている。
 化石はかなり手に入れやすいほうで、2000円程度から手に入る。

[ディクラヌルス・モンストロースス Dicranurus monstrosus]
学名の意味:怪物じみた二又の尾
時代と地域:デボン紀(約4億年前)の北アフリカ(モロッコ)沿岸等
成体の全長:5cm(棘を除く)
分類:節足動物門 三葉虫形類 三葉虫綱 リカス目 オドントプレウラ科
 第二話参照。

第二十九話
[ヴェロキラプトル・モンゴリエンシス Velociraptor mongoliensis]
学名の意味:モンゴルで生まれた敏捷な強盗
時代と地域:白亜紀後期(約7500万年前)のモンゴル
成体の全長:1.8m
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア マニラプトラ エウマニラプトラ ドロマエオサウルス科
 ドロマエオサウルス類は最も鳥に近いとされている肉食恐竜のグループである。ヴェロキラプトルはその中でも特に研究が進んでいる。
 コンパクトな胴体以外ほっそりと細長く出来ていた。
 頭部、特に吻部はドロマエオサウルス類の中では細長く、鋭く曲がった歯が並んでいた。脳は恐竜としては発達していた。
 眼窩は大きく、また強膜輪という眼球の中にあるリング状の骨は内径が大きかった。よって眼球と瞳孔が大きく、暗くても物が見えたと考えられている。
 前肢は長く、鉤爪が発達していた。また肩の関節は鳥が羽ばたくように、手首の関節は翼を畳むように動かすことができた。
 腕の骨には鳥類に見られるような、羽毛の軸の土台と考えられる出っ張りがあった。
 このように前肢には鳥の翼との共通点が見られるが、ヴェロキラプトル自身に飛行能力があったわけではなく、関節は獲物を捕まえることに、羽毛は保温やディスプレイに使われていたと考えられる。
 後肢も長かったが小型獣脚類としてはそれほどではなく、特に中足骨は短かった。あまり高速で走ることはなかったのかもしれない。
 足の第二指の鉤爪は非常に発達していて、地面に付かないよう持ち上げることができた。以前はこの爪は大型の獲物を切り裂くためのものと考えられていたが、内側が刃状になっていないことから、現在では小さな獲物を突き刺したり押さえつけたりするためのものと考えられることが多い。
 肋骨の途中に鳥類のように前後の肋骨をつなげる鉤状突起があり、胴体が曲がらないようになっていた。また骨盤も鳥類のように恥骨が後方に向いていた。
 尾は特に細長く、骨化した腱が何本も並行に走っていた。根元でしか上下に曲がらなかったようだ。
 ヴェロキラプトルが発掘されるモンゴルのジャドフタ層は砂漠の砂が風の作用で堆積してできた地層で、動物がその場で生き埋めにされたため非常に保存状態の良い化石が多い。ヴェロキラプトルも腹部に翼竜の骨が収まった化石や、植物食恐竜のプロトケラトプスと戦うような姿勢を取った化石が知られている。
 ジャドフタ層からはヴェロキラプトルの他にプロトケラトプスなどヴェロキラプトルと同じくらいの大きさの恐竜が多く見付かっているが、ピナコサウルスなど大型の恐竜の他、トカゲや哺乳類などの小動物も発掘されている。
 以前はこうした中型のドロマエオサウルス類は集団で大型の獲物を襲ったと考えられていたが、現在では鉤爪の働きが見直されたこともあって、小型の獲物を単独で捕らえたり翼竜などの死体をあさったと考えられることも多くなってきた。

第三十話
[ステノプテリギウス・クアドリスキッスス Stenopterygius quadriscissus]
学名の意味:4つに割れた細い鰭
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億8000万年前)のヨーロッパ
成体の全長:3m
分類:爬虫綱 魚竜目 トゥノサウリア ステノプテリギウス科
 魚竜類は、三畳紀から白亜紀中期にかけて現れた遊泳性の爬虫類である。流線型の胴体、鰭状の四肢と尾、細長い吻部を持っていた。
 なかでもステノプテリギウスのような派生的なものはイルカによく似ていると言われる。ただし尾鰭は魚のように縦に生えていて、後肢も鰭になっていた。
 ステノプテリギウスはドイツのホルツマーデンにあるポシドニア頁岩という地層を代表する比較的小型の魚竜である。
 細長い吻部にはよく尖った小さな歯が隙間なく並んでいた。
 眼窩が非常に大きく、視覚が発達していた。こうした魚竜の場合は眼球を支える強膜輪という骨により眼球の情報が詳しく得られ、それによると深く暗い海でも物を見ることができたと考えられている。ステノプテリギウスの強膜輪は直径が10cmはあった。
 胴体は流線型で前半部分が太く丸みを帯びていた。骨格は多孔質で随所に凹みや溝があり、多くの遊泳性の動物と同様に軽量化されていた。
 四肢は全ての骨が集まり、細長い楕円形の鰭になっていた。指の骨が細かく分かれてタイル状に組み合わさっていて、鰭の面に凹凸はなかったようだ。
 尾の骨格は長く続き、途中で下向きに曲がっていた。この曲がった部分は三日月型の尾鰭の下半分を支え、尾の骨格の周りには筋肉がたっぷりと付いていた。また背中には骨のない背鰭もあった。
 こうした軟組織の輪郭に関する情報は輪郭の痕跡まで残った化石により判明した。ポシドニア頁岩が堆積した当時の沖合いの海底は酸素が乏しかったため生物がほとんど住まず、流れもなかったため、一度沈んだ生物の死体はそのまま食べられたり動かされたりせず安置され、欠けることなく堆積物に埋まって化石化した。
 ステノプテリギウスはイルカのように高速で泳ぎ、イカに似た頭足類や小さな魚を捕らえて食べていたようだ。
 小さな子供が胎内に複数収まった化石が発見されていることから、卵ではなく子供を一度に複数出産したと考えられている。
 他の魚竜の歯に含まれる酸素同位体の分析から、魚竜は温血性であったと考えられている。また軟組織の痕跡から黒い色素が見つかり、生前は黒い色をしていて太陽光で効率的に体を温められたとも言われる。
 ポシドニア頁岩からは他に大型の魚竜も発掘されていて、カジキのような槍状の吻部を持つユーリノサウルスは6m、他の魚竜や首長竜を捕食したとされるテムノドントサウルスは9mに達した。

[ハルポセラス・ファルキフェルム Harpoceras falciferum]
学名の意味:鎌を持ったハープの角
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億8000万年前)のヨーロッパ
成体の直径:30cm
分類:軟体動物門 頭足綱 アンモナイト類 アンモナイト目 ヒルドセラス科
 ポシドニア頁岩からはアンモナイトもよく発掘されていて、平面状につぶれてはいるもののとても保存状態が良く、顎器が残っている場合もある。
 標準的な姿のアンモナイトであるハルポセラスの場合もよく保存されている化石が多く、殻口に突起がある個体もよく見つかっている。突起があるのはオスかもしれない。

[ダペディウム・フォリドトゥム Dapedium pholidotum]
学名の意味:センザンコウのようなもの(属名の由来不明)
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億8000万年前)のヨーロッパ
成体の全長:50cm
分類:硬骨魚綱 条鰭亜綱 セミオノトゥス目 セミオノトゥス科
 ダペディウムはタイによく似た姿の魚だったが、鱗はガノイン鱗と呼ばれるエナメル質でできた分厚いものだった。同じくガノイン鱗を持つガーパイクなどに近い、やや原始的な硬骨魚類とされる。
 口先の尖った歯と奥の方の丸い歯の二種類の歯を持ち、タイと同様甲殻類などを捕まえて噛み砕いたと考えられている。

[フラグモテウティス・コノカウダ Phragmoteuthis conocauda]
学名の意味:円錐形の端を持つ仕切りのイカ
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億8000万年前)のヨーロッパ
成体の全長:20cm
分類:軟体動物門 頭足綱 ベレムノイド類 フラグモテウティス目 フラグモテウティス科
 ベレムノイド類はイカによく似た頭足類だったが、イカと違って10本の腕は全て同じ長さをしていて、吸盤ではなく爪の列があった。このような頭足類の爪はステノプテリギウスを始めとする魚竜の腹部から多数見つかることもある。
 フラグモテウティスは全身の痕跡がよく残った化石が見つかっていて、現在のヤリイカに似た姿をしていた。墨袋も発見されている。

[ステネオサウルス・ボレンシス Steneosaurus bollensis]
学名の意味:バートボルで発見された幅の狭いトカゲ
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億8000万年前)のヨーロッパ
成体の全長:3〜5m
分類:爬虫綱 双弓亜綱 主竜上目 ワニ目 中新鰐類 タラットスクス類 テレオサウルス科
 タラットスクス類は海での遊泳に適応したワニの仲間である。メトリオリンクス科のものは装甲を失い四肢と尾が完全に鰭になるなど完全に海性になっていたが、テレオサウルス科のものは装甲があるなど現在のワニに近い体型だった。
 ステネオサウルスは体全体が細長く、また尾の付け根の筋肉が発達して、体をくねらせて泳ぐのに適した体型をしていた。前肢は退化していて、歩くのには不向きだった。
 吻部は特に細長かった。口を素早く閉じて小さな魚などを捕食したようだ。
 成体しか見つかっていないことから、幼いうちはもっぱら沿岸で暮らし、成長してから沖合いに泳ぎ出たと考えられている。

[パキコルムス・ボレンシス Pachycormus bollensis]
学名の意味:バートボルで発見された太い切株
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億8000万年前)のヨーロッパ
成体の全長:1m
分類:硬骨魚綱 条鰭亜綱 真骨類 パキコルムス目 パキコルムス科
 パキコルムス類は中生代に繁栄した魚類のグループである。ガノイン鱗を持たない硬骨魚類の中では原始的とされるが、他の魚との類縁関係はよく分かっていない。カジキに似たプロトスフィラエナのような捕食性のものと、リードシクティスのような大型の濾過食性のものを含んでいたが、パキコルムスはそのどちらにも特殊化していなかった。
 紡錘形の胴体やV字型の尾鰭など、マグロやブリに似ていて高速遊泳に適した体型をしていた。胸鰭が長いのが特徴だった。歯は小さく、小さな生き物を捕食したと思われる。

[セイロクリヌス・サブアングラリス Seirocrinus subangularis]
学名の意味:丸まりかかった角のあるセイル山のユリ
時代と地域:ジュラ紀中期(約1億8000万年前)のヨーロッパ(ドイツ、イギリス)、北米(カナダ)、東アジア(日本)
成体の高さ:最大18m以上
分類:棘皮動物門 有柄類 ウミユリ綱 関節類 ゴカクウミユリ目 ゴカクウミユリ科
 ポシドニア頁岩を代表するウミユリで、茎の長さが18mにもなる(それも途中で切れている)化石が見つかっている、史上最大の棘皮動物である。多くは1〜2mほどだった。
 セイロクリヌスの腕は古生代のウミユリと違って根元から細かく枝分かれしていて、腕と羽枝が非常に密集していた。
 大型のウミユリであるにもかかわらず茎の直径は3cm程度しかなかった。また茎の根元は流木に取り付いていた。流木の片面をびっしりと覆うように付着した化石も見つかっている。
 このことからセイロクリヌスは他のウミユリのように自力で体を支えて海底に立っていたのではなく、海面に浮いた流木から垂れ下がって漂流生活を送っていたという説がある。
 しかし成体しか見つかっていないことから、浮いた流木に付着して成長したのではなく、成長してから海底を移動し、沈んだ木に辿り着いて付着したのではないかという反論もある。ゴカクウミユリ類の成体は茎を根元から切り離して海底を這うことはできるが、海面に向かって泳ぐことはできない。

第三十一話
[オリクトドロメウス・キュビクラリス Oryctodromeus cubicularis]
学名の意味:寝室を掘ったり走ったりするもの
時代と地域:白亜紀後期(約9500万年前)の北米(モンタナ州、アイダホ州)
成体の全長:2m
分類:鳥盤目 角脚類 鳥脚類 テスケロサウルス科 オロドロメウス亜科
 鳥脚類は特に繁栄した植物食恐竜のグループである。派生的なものは大型で、特殊な歯の仕組みを発達させていたが(第十七話・パラサウロロフス参照)、基盤的なものは小型で、単純な歯を持っていた。オリクトドロメウスもそのうちの一つである。
 常に二足歩行を行い、後肢は比較的長くて走行に適していた。尾も横突起が上を向いていて後肢を動かす筋肉の付着するスペースが大きかった。
 前肢は短いが、太く丈夫な骨で構成されていた。また肩甲骨も太く、筋肉の付着する突起が発達していた。頭部には短く丈夫なクチバシを持っていた。クチバシの部分にも小さな歯があった。
 オリクトドロメウスは産状も特に注目されている。オリクトドロメウスの最初の化石は、巣穴と思われる痕跡の中から発見された。
 泥岩でできた周囲の地層に対して、巣穴は砂岩で埋められて形が残っていた。
 長さ2m、入り口の幅70cm、奥の部分の直径30cmほどで、途中で2回直角に曲がり、一番奥が入り口より高い位置に保たれた部屋になっていた。
 この巣穴の痕跡から、成体1頭とそれより小さい個体2頭のオリクトドロメウスが発見された。
 またオリクトドロメウスとは無関係な小さな生き物の作った巣穴も、この巣穴から枝分かれしていた。
 巣穴の幅が成体の大きさに合っていることから、このオリクトドロメウスは子育てのために自力で巣穴を掘ったようだ。これは恐竜が巣穴を掘ったという初めての証拠である。穴を掘るときには丈夫な前肢とクチバシを使ったと思われる。
 巣穴が砂岩で埋まっているのは洪水によるものと考えられている。
 オリクトドロメウスはあまり固くない植物を食べ、捕食者からは脚力を生かして逃げ延びたと考えられる。近縁とされるオロドロメウスやゼフィロサウルスなどもクチバシや前肢にオリクトドロメウスと同じ特徴を持ち、巣穴を掘ったかもしれない。

第三十二話
[アラリペリベルラ・マルティンスネトイ Araripelibellula martinsnetoi]
 クラト層はブラジルのセアラ州にある、白亜紀前期(約1億800万年前)の地層である。淡水の環境で堆積したと考えられ、昆虫、植物、魚類、翼竜などの非常に保存状態の良い化石が多数発掘される。
 トンボはジュラ紀にはすでに現生のトンボによく似た姿をしていた。クラト層でも多くのトンボが発掘されるが、現生の赤トンボやシオカラトンボを含むトンボ科に近縁なトンボは少なかった。アラリペリベルラはトンボ科に近縁なアラリペリベルラ科に属するトンボである。翅長17.4mmとやや小柄で、幅広い翅を持っていた。

[アラリペゴンフス・アンドレネリ Araripegomphus andreneli]
 クラト層からはサナエトンボに近縁なトンボのほうが多く発掘されているようだ。
 アラリペゴンフスも基盤的なサナエトンボ類であるアラリペゴンフス科に属するトンボである。翅開長50〜60mmとアラリペリベルラよりやや大きかった。
 前翅、後翅とも前縁に沿ってベッコウトンボに似た模様があったことが分かっている。これはクラト層の不均翅類(狭義のトンボ類)としては初めて見付かった翅の色である。

[エオタニプテリクス・パラドクサ Eotanypteryx paradoxa]
 基盤的なムカシヤンマ類であるクレタペタルラ科に属する。翅開長99mmと大型だった。

[クレスモダ・ネオトロピカ Chresmoda neotropica]
 一見アメンボのような細長い胴体と肢を持つ昆虫だが、アメンボと同じ半翅類(カメムシやセミの仲間)ではなく直翅類(バッタやコオロギの仲間)に近いと言われている。
 生態自体は水面に浮いて他の昆虫などを食べるというアメンボに似たものだったと考えられている。アメンボと比べて触角が太く前肢が長い。
 より大型の種も他の地層から発見されているが、クラト層のクレスモダ・ネオトロピカは全長3cm程度だった。

[プルリカルペラティア・ペルタタ Pluricarpellatia peltata]
 クラト層の植物の2〜3割は被子植物(目立つ花の咲く植物)に占められていて、被子植物が多様性を増していく様子を表している。
 プルリカルペラティアは現生のジュンサイと同じくスイレンに近縁なハゴロモモ科の植物で、幅数cmほどのゆがんだ楕円形の葉や扇状の実を持つ水生植物だった。花の咲く植物としてはこの他にモクレンの仲間なども発掘されている。

[ルッフォルディア・ゴエッペルティ Ruffordia goeppertii]
 クラト層からは種類は少ないがシダの化石も多数発掘されている(クラト層の植物種の6割は裸子植物である)。ルッフォルディアはフサシダ科に属し、特に多く産出するシダである。洪水で流されることもあるほど水際に生えていたようだ。

[ユーアルキスティグマ・アトロフィウム Euarchistigma atrophium]
 タウマトネウラ科に属する、翅長35mmのイトトンボである。翅には先端近くを除いて色が付いていたことが分かっている。

[クラトステノフレビア・スクウィッケルティ Cratostenophlebia schwickerti]
 イトトンボ類を均翅類、狭義のトンボ類を不均翅類というが、不均翅類に近いが不均翅類には含まれないものを便宜上「均不均翅類」といい、現生ではムカシトンボがこれに当たる。
 クラトステノフレビアは最も不均翅類に近い均不均翅類であるステノフレビア科に属する。翅開長135mmとかなり大型のトンボで、翅、腹部とも細長かった。

[パウキフレビア・ノヴァオリンデンセ Pauciphlebia novaolindense]
 サナエトンボ科の姉妹群であるプロテロゴンフス科に属する、翅長19.6mmとやや小柄なトンボである。左右の目が接していた。翅の形は丸みを帯びていた。

[パラコルドゥラゴンフス・アベランス Paracordulagomphus aberrans]
 こちらもプロテロゴンフス科に属する翅長29.5mmのトンボである。頭部はトンボ科のトンボのように丸かったが、目の間は近いものの接していなかった。全体的にやや細長い体型をしていた。オスとメス両方の化石が見付かり、生殖器の形状が確認されている。

第三十三話
[コエロフィシス・バウリ Coelophysis bauri]
学名の意味:ジョージ・バウアー氏の中空の形をしたもの
時代と地域:三畳紀後期(約2億年前)の北米(ニューメキシコ州)
成体の全長:3m
分類:竜盤目 獣脚類 コエロフィシス科
 恐竜は三畳紀に現れ始めたが、当初は小型のものばかりであった。コエロフィシスは三畳紀の恐竜の中でも化石が特に多く発見され、詳しく分かっている。
 後に現れる他の獣脚類(いわゆる肉食恐竜)と同様、体を水平にして後肢だけで二足歩行した。
 首と尾がとても細長い点は独特の体型であった。また吻部も細長く、頭骨全体が軽くできていた。視覚が発達していたが暗いときはよく見えなかったようだ。
 大型肉食恐竜の歯をそのまま小さくしたような、切り裂くことに適したナイフ状の歯が生えていた。
 前肢は短く、機能する3本の指と痕跡的な第4指があった。叉骨(左右の鎖骨がつながったもの)があり、これは後の鳥類に通じる特徴である。
 後肢は走行に適していたが、首と尾が長いため相対的に後肢の短い、姿勢の低い恐竜に見える。
 ゴーストランチという土地で、幼体から成体まで含んだ数百ものコエロフィシスの化石が折り重なるように発見されている。これは洪水によるもののようだが、生きていたとき群れで暮らしていたのか別々に暮らしていたのかはよく分かっていない。
 ゴーストランチで発見されたコエロフィシスには非常に保存状態の良いものが含まれ、中には胃の中に収まった動物が一緒に化石化したものもある。これは長らく幼体のコエロフィシスを共食いしたものだと考えられていたが、後にヘスペロスクスという種類と思われるワニに近い動物だと判明した。
 発見された化石が非常に多いため、大きくがっしりしたものと小さくほっそりしたものの2通りがいたことも分かっている。これは性別による違いではないかと言われる。ほっそりしたもののほうが骨盤の柔軟性が高く産卵に適することからメスなのではないかとも言われている。体型の違いは成熟する前からあった。
 雨期と乾季のある氾濫原に住み、小さな爬虫類などを視覚で探しては素早くくわえ取って食べたと考えられる。

第三十四話
[クリダステス・リオドントゥス Clidastes liodontus]
学名の意味:閉じた脊椎と滑らかな歯を持つもの
時代と地域:白亜紀後期(約8500万年前)の北米(アラバマ州、カンザス州、テキサス州)
成体の全長:2〜4m
分類:爬虫綱 双弓亜綱 有鱗目 オオトカゲ上科 モササウルス科 モササウルス亜科
 モササウルス類は、白亜紀の中頃に海洋に適応したトカゲの仲間である。オオトカゲやヘビと近縁とされる。
 頭部から胴体にかけては細長く滑らかな円筒形で、三角形の尖った吻部を持っていた。四肢と尾は鰭になっていて、特に尾鰭は近年の発見によりサメの尾鰭を上下逆にしたような発達したものであったことが分かった。
 クリダステスは最も小型のモササウルス類のひとつで、やや原始的だが典型的なモササウルス類の特徴を備えていた。
 顎は細長く、途中に関節があり幅を左右に広げることができた。また顎関節は丈夫ではないが自在に動かせるようになっていた。歯はやや細長く尖り、後ろ向きに曲がっていた。口の縁だけでなく口蓋部分にも歯があった。
 多くのモササウルス類について指摘されているように、ワニのように獲物を噛みしめるというよりは、獲物を吸い込み、ヘビのように逃さず丸呑みにしたようだ。これに対してグロビデンスやプログナトドンは噛み砕くことに適応していたと考えられている。
 眼窩の形態から、モササウルス類としては比較的暗いときでもものが見えたようだ。
 四肢の鰭は短く丸みを帯びていた。尾は胴体より短かった。
 クリダステスは主にカンザス州を中心とした北米大陸の内陸部で発掘されている。白亜紀後期には北米大陸西部を南北に貫く水路のような浅い海「ウェスタン・インテリア・シーウェイ」があり、クリダステスはこの海の亜潮間帯に生息していた。
 クリダステスの餌となったのは魚や、アンモナイトやイカなどの軟体動物だったと思われる。
 沖合の地層から60cmほどの幼体の化石が発掘されている。クリダステスがごく幼いうちから浅瀬ではなく沖合に生息していたことになり、さらに陸で卵を産んだのではなく水中で子供を産んだことも示唆される。またモササウルス類の祖先とされるアイギアロサウルス類のカルソサウルスの胎内に4頭の胎児が含まれた化石が見付かっている。
 モササウルス類でも魚竜の場合(第三十話参照)と同様、皮膚の黒い色素が発見されたり、歯に含まれる酸素同位体から温血性であったことが示されたりしている。

[プラセンチセラス・メエキ Placenticeras meeki]
学名の意味:フィールディング・ブラッドフォード・ミーク氏のパンケーキ状の角
時代と地域:白亜紀後期(約8500万年前)の北米、ヨーロッパ
成体の直径:約60cm
分類:軟体動物門 頭足綱 アンモナイト類 アンモナイト目 プラセンチセラス科
 扁平で巻きがきつく、比較的平滑な殻を持つアンモナイトである。アンモナイトの中では遊泳に適していたようだ。
 殻が虹色に変化した状態で発掘されることがあり、アンモライトという宝石として扱われる。
 殻の表面に丸い穴が複数空いているものもあり、これがモササウルス類の歯の大きさや間隔と一致することからプラセンチセラスがモササウルス類に捕食された証拠であるとされる。
 しかしモササウルス類の口の形と合わない並び方をしている穴が多く、単純にモササウルス類が噛み付いて空いた穴ではないようだ。またそうした穴の少なくとも一部はカサガイという貝が住み着いた跡であることが分かっている。

[ペリスフィンクテス・ボウエニ Perisphinctes boweni]
第二十六話参照。

第三十五話
[パキリノサウルス・ラクスタイ Pachyrhinosaurus lakustai]
学名の意味:アル・ラクスタ氏の厚い鼻のトカゲ
時代と地域:白亜紀後期(約7300万年前)の北米(アルバータ州)
成体の全長:5〜8m
分類:鳥盤目 周頭飾類 角竜類 ケラトプシア ケラトプス科 セントロサウルス亜科
 頭部にフリルと角、尖ったクチバシのある四足歩行の植物食恐竜である角竜の一種。北米大陸の西側からはケラトプス科に属する派生的な角竜類が多数発掘されていて、8000万年前から白亜紀の終わる6600万年前にかけて時代・地域により様々な種が入れ替わっていたことが分かっている。
 全般的な体型などについては第十九話のカスモサウルスを参照。
 パキリノサウルスはケラトプス類のなかでも鼻孔が大きくて吻部が高く、フリルが丸みを帯びているセントロサウルス類に含まれる。パキリノサウルスはセントロサウルス類では最も大きく、最も特殊化していた。
 最大の特徴は、鼻孔や眼窩の上という他のケラトプス類では角が生えている部分に、角ではなく分厚い骨のパッドがあることだった。
 大きなパッドが吻部の上面全体を覆い、小さなパッドが左右の眼窩の上にあった。このパッドは角が変化したものであると考えられている。
 サイの角が骨の土台の上に角質の角が生えたものであることから、パキリノサウルスのパッドも角質でできた角の土台であるとされることがある。しかし骨組織はサイの角の土台より、ジャコウウシの頭頂部にある平たい角の根元に似ていることから、パキリノサウルスのパッドも生きていたときは分厚く平たい角質で覆われていたと考えられる。
 特殊化した形態ではあるが、パキリノサウルスのパッドも他のケラトプス類の角と同様の用途が考えられている。つまり、ぶつけ合うことで同種の他の個体と闘争したり、前に向けて突進し捕食者を撃退したりするのに用いられたと思われる。
 またフリルから生えた角も特徴的で、フリルの上の縁からは左右に向かって曲がった角が生えていた。ラクスタイ種ではフリルの中心から1〜3本の角が生えていた。
 アルバータ州のパイプストーンクリークという発掘地では、ラクスタイ種の非常に大規模なボーンベッド(化石の集まった層)が発見されている。またパキリノサウルス属の他の種でも異なった地域・少しずれた年代のボーンベッドが発見されている。
 これらのボーンベッドはパキリノサウルスが群れで移動しているときに水害などにあってできたものだと考えられる。このことから、パキリノサウルスは大きな群れを作って暮らしていたとされる。
 トナカイのように群れでアルバータ州とアラスカの間を渡ると考えられていたが、詳しい研究の結果あまり長距離の移動はしなかったようだ。

[ケラトサウルス・ナシコルニス Ceratosaurus nasicornis]
第一話参照。

[エウロパサウルス・ホルゲリ Europasaurus holgeri]
第十三話参照。

[ファヤンゴサウルス・タイバイイ Huayangosaurus taibaii]
第十五話参照。

[ガストニア・ブルゲイ Gastonia burgei]
第二十三話参照。

[アウカサウルス・ガリドイ Aucasaurus garridoi]
第二十五話参照。

[パラサウロロフス・ワルケリ Parasaurolophus walkeri]
第十七話参照。

[ストルティオミムス・アルトゥス Struthiomimus altus]
学名の意味:高いダチョウもどき
時代と地域:白亜紀後期(約7000万年前)の北米
成体の全長:4m
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア マニラプトル形類 オルニトミムス科
 歯のないクチバシや長い後肢からダチョウ恐竜と呼ばれるオルニトミムス類に属し、比較的大型の典型的なオルニトミムス類であった。
 ダチョウに匹敵する速さで走り、知能や視力も高かったと考えられている。
 前肢の指は3本とも同じ長さで、爪は長く、ものを掴むよりはナマケモノのように引っかけるのに適していた。木の枝を引き寄せて葉を食べたと思われる。
 近縁のオルニトミムスでは、全身から羽毛の痕跡が発見され、特に成体のみ前肢に翼状の羽毛があったことが分かっている。翼は求愛のディスプレイや卵の保温に使われたと考えられる。

[ステゴケラス・ヴァリドゥム Stegoceras varidum]
第五話参照。

[ゴルゴサウルス・リブラトゥス Gorgosaurus libratus]
学名の意味:平衡のとれたすさまじいトカゲ
時代と地域:白亜紀後期(約7600万年前)の北米
成体の全長:9m
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア ティラノサウルス科
 ジュラ紀までに現れていた他の大型肉食恐竜とは別の系統から大型化したティラノサウルス類の一種である。
 頭部は大きくて吻部の先端まで背が高く、胴体はコンパクトだった。
 前肢はごく短く指は2本に減少していた。これに対して後肢は長く発達していて、走行に適していた。中足骨は中心の1本が左右の2本から挟まれるように一体化していて、衝撃を吸収する構造になっていたとされる。
 ゴルゴサウルスはティラノサウルス類としてはほっそりとした体型だった。ただし成長しきるとそれまでよりはがっしりとした体型になったようだ。
 後頭部はティラノサウルスやアルバートサウルスなどと違って幅が狭く、その分顎の筋肉が少なかった。歯は比較的薄く鋭かった。
 また眼窩も前向きにならないため立体視の能力は低かったとされる。眼窩の前上方には小さな角状の突起があった。
 原始的なティラノサウルス類から羽毛の痕跡が発見されている。特にユティランヌスというゴルゴサウルスと同等の大きさになる種類からも羽毛が見付かっていることから、ゴルゴサウルスにも羽毛があったかもしれない。

[カスモサウルス・ベッリ Chasmosaurus belli]
第十九話参照。

[ガリミムス・ブラトゥス Gallimimus bullatus]
第三話参照。

第三十六話
[サンタナケリス・ガフネイイ Santanachelys gaffneyi]
 ウミガメ類は白亜紀に現れ、現在まで生き残っているウミガメ科、オサガメ科、白亜紀末に絶滅したプロトステガ科の3つに分かれる。サンタナケリスはプロトステガ科に属する、現在発見されている中で特に原始的なウミガメのひとつである。
 白亜紀前期(約1億1000万年前)の地層であるブラジルのサンタナ層から非常に保存状態の良い化石が発掘された。甲長15cmほど、全長20cmほどのごく小型のウミガメである。幼体ではなくすでに亜成体の段階に達していたようだ。
 流線型の甲羅や鰭状の前肢といった、すでにある程度遊泳に適応した特徴を持っていた。しかし前肢の鰭は他のウミガメと比べると小さく、また第1指(親指)と第2指(人差し指)の関節には曲げられる構造が残っていた。
 眼窩は他のウミガメと同様非常に大きかった。これは現生のウミガメでも眼窩に収まっている、海水から過剰に摂取した塩分を涙のようにして排出する器官がすでに発達していたことを示す。よってサンタナケリスの場合遊泳能力より海水への適応のほうが先に進んでいたと考えられる。
 しばらくサンタナケリスは知られている中で最古のウミガメであり続けたが、現在はサンタナケリスより1000万年古いデスマトケリス・パディライが発見されている。こちらは全長が2mある大型のウミガメである。

[プロガノケリス・クエンステッディ Proganochelys quenstedti]
 完全な甲羅を持つカメとしては最古のもののひとつである。ドイツの三畳紀後期(約2億1000万年前)の地層から発掘された。
 甲長50cm、全長1mに達する大型のカメであった。全体の体形は現生のリクガメによく似ていたが、頭部から首にかけてと四肢が棘状の装甲で覆われていた、首や四肢を甲羅に収める仕組みはなかった。また甲羅の前後の縁にも短い棘があった。長い尾にも棘が並んでいた上先端が固くなっていて棍棒状になっていた。
 頭骨の細かい特徴は後のカメと比べて原始的であった。また咬筋の付着部分の上まですっぽりと骨で覆われていて、頭骨自体は頑丈だったが重く、また噛む力は後のカメほど強くなかった。現生のリクガメのように噛み合わせ部分に凹凸があり、また口蓋にやすりのような細かい歯があったため、植物を摘み取ってすり潰して食べたと考えられる。
 プロガノケリスより古い部分的な甲羅のみの化石も見付かっている。また、背甲のないカメであるとされるオドントケリスや完全に甲羅のないカメであるとされるパッポケリスなど、より原始的なカメも発見されつつある。

[アラリペミス・バレトイ Araripemys barretoi]
 プロガノケリスのような首を甲羅に収める仕組みのないカメの後に、首を横向きに曲げて畳む「曲頸類」と首を縦に曲げて引っ込める「潜頸類」が現れた。曲頸類はウミガメやリクガメなど大半のカメを含むのに対して、曲頸類は南半球に固有なグループであり、全て淡水性である。
 アラリペミスはサンタナケリスと同じくサンタナ層から発見された甲長25cmの典型的な曲頸類である。首は甲羅と同じ長さに達し、首を後ろに引く筋肉が発達していた。また四肢の指が長く発達し、大きな鰭を持っていた。現在の曲頸類と同様、淡水に生息し、素早く首を動かして魚を捕えて食べたと考えられる。甲羅は丸く、首の付け根の部分がへこんでいた。

[カッパケリス・オオクライ Kappachelys okurai]
 曲頸類にはリクガメ、ウミガメ、イシガメ、スッポンなど多くのカメが含まれる。カッパケリスはスッポン科とスッポンモドキ科を含むスッポン上科の中でも知られている最古のものである。
 白亜紀前期(約1億3000万年前)の地層である石川県白山市の手取層群から甲羅を構成する骨の一部が発掘された。表面には鱗板の痕跡はなく、スッポン上科特有の虫食い状の凹凸があった。縁板(甲羅の一番外側の骨)があった点はスッポン科よりスッポンモドキ科のものに似ていた。甲長15cm程度とされる。

[アノマロケリス・アングラタ Anomalochelys angulata]
 白亜紀後期(約9500万年前)の地層である北海道の蝦夷層群から発見された。カッパケリスと同様スッポン上科に属していたが、鱗板の痕跡があり、また現生のスッポン上科と異なりリクガメのような体形をした陸生のカメだった。
 甲長70cmの甲羅は楕円形で、両肩の部分が棘状に前に向かって突き出していた。近縁で全身が見つかっているナンシュンケリスと同様、頭が大きく甲羅に引込められないため棘で防御していたと考えられている。

[シネミス・ガメラ Sinemys gamera]
 シネミス類は基盤的な潜頸類で、現在のヌマガメのような体形と生態だったと考えられている。シネミス・ガメラは内モンゴル自治区の白亜紀前期の地層から甲羅の一部と頭骨が発見された。
 発見された甲羅の部分は右後方と、前方の一部である。最大で甲長20cmとみられる甲羅の全体はほぼ六角形をしていて、わずかに下向きに膨らんだ形状になっていて薄く軽かった。最大の特徴は、後方左右から尖った翼状の突起が斜め後ろに向かって突き出していたことである。遊泳時に横と上下の傾きを抑えて体を安定させ、効率よく泳ぐのに用いられたと考えられている。
 頭部は平たく、眼窩が上向きに開いていた。

[モンゴロケリス・エフレモヴィ Mongolochelys efremovi]
 モンゴルの白亜紀後期(約7000万年前)の地層から発掘される、甲長80cmほどの大型のカメである。潜頸類に含まれるという説と、プロガノケリスのような潜頸類にも曲頸類にも含まれない原始的なカメの生き残りであるという説がある。
 甲羅は前後に長く後方が幅広かった。甲羅が平たい点は水性であることを示しているように見えるが、四肢の指は短く、水かきはあまり発達していなかった。

[オカディア・ニッポニカまたはマウレミス・ニッポニカ(ニホンハナガメ)Ocadia nipponica or Mauremys nipponica]
 現在中国南部、台湾、ベトナムなどに生息しているハナガメにごく近縁なカメで、千葉や神奈川の更新世(約20万年前)の地層から発掘されている。
 甲羅の後方がやや幅広いことなど現在のハナガメによく似ていて、同様にほぼ水性だったと考えられている。甲長33cmと、現在のハナガメ(甲長最大27cm)よりやや大きかった。また、甲羅には年輪がほとんどなかった。口の咬合面は現在のハナガメと比べて幅広かった。
 現在のハナガメが亜熱帯地域に生息していて冬眠を行わないのに対して、ニホンハナガメは冷涼な気候に生息する植物とともに発掘されている。当時は現在と比べて寒暖の差が激しく、ニホンハナガメは現在のハナガメと違って冬眠を行ったのではないかとも言われている。

[メイオラニア・プラティケプス Meiolania platyceps]
 モンゴロケリスと近縁で、潜頸類に含まれるという説と原始的なカメの生き残りであるという説があるが、オーストラリアのロード・ハウ島に暁新世(約2000万年前)から2000年前まで生き残っていた。侵入してきた人類に捕食されて絶滅したようだ。
 ゾウガメに似た丸い甲羅としっかりした四肢を持った陸生のカメで、全長2.5mに達した。頭部には一対の太く後ろ向きの角があり、尾は鞘状の骨で覆われた上に多数の棘が並んでいた。頭を甲羅に引込めることはできなかったようだ。甲羅を構成する骨は数mmの厚さしかなかった。これはゾウガメと同様であり、生きていたときは分厚い鱗板で覆われていたようだ。

[ストゥペンデミス・ゲオグラフィクス Stupendemys geographicus]
 最大で甲長3m以上、全長4mに達したとされる史上最大の曲頸類である。ベネズエラの中新世末(約550万年前)の地層から発掘されている。
 比較的扁平で楕円形の甲羅を持ち、現在のナンベイヨコクビガメ属に近縁とされる。現在のヨコクビガメとそれほど変わらない体形をしていたと思われる。
 現在の曲頸類が全て淡水性なこと、巨大な体を持っていたことから、ほとんどの時間を水中で過ごしていたと考えられている。しかし甲羅の前縁に上向きにめくれた部分があって水の抵抗が大きいため、それほど速く泳ぐことはできなかっただろう。現在の大型のカメがそうであるように植物を多く食べたと考えられている。
 特別に成長が速かったということはなく、成長しきるには60〜110年かかったともいわれる。

第三十七話
[トヨタマヒメイア・マチカネンシス(マチカネワニ) Toyotamaphimeia machikanensis]
学名の意味:待兼山で発見されたワニの化身の女神
時代と地域:後期更新世(約40万年前)の日本(大阪)
成体の全長:7〜8m
分類:爬虫綱 双弓亜綱 主竜上目 ワニ形類 新鰐類 ワニ目 正鰐類 クロコダイル科もしくはガビアル科 トミストマ亜科
 マチカネワニは大阪にある待兼山で、大阪大学豊中キャンパスを建設中に発見された大型のワニである。これにより日本にもワニが生息していたことが明らかになった。
 現生のワニの中ではマレーガビアルというマレーシアに生息するワニに近縁で、ともにトミストマ亜科に含まれる。ただしトミストマ亜科自体がクロコダイル科とガビアル科どちらに含まれるか意見が分かれている。
 尾の大半を除く全身が発見されていて、体型や細部がよく分かっている。発見された個体は頭骨だけで1m、尾を除いた全身が330cmあるとても大型の個体だった。
 ワニとして特に目立つ特徴は、吻部が細長く、頭部全体が長い二等辺三角形をしていることだった。長い吻部は水中で閉じたり振り回したりするときにかかる水の抵抗が小さく、魚を主食とするワニの特徴である。これは近縁のマレーガビアルとも共通している。
 ただし歯は陸上哺乳類も多く食べるワニのように太く、大きさが一定でなかった。上顎骨に生えている歯のうち前から7番目、12番目、13番目の歯が特に太い。さらに噛む力も強かったようだ。
 よってマチカネワニは魚と陸上の哺乳類どちらも獲物にできたと考えられる。
 ワニの背中に並ぶ装甲を鱗板、その中にある骨を鱗板骨という。多くのワニはこの鱗板骨に稜という突起があり、棘状の突起の芯になっているが、マチカネワニの鱗板骨には稜はなかった。正方形でなく長方形であることや、6列ではなく4列に並んでいたこともマチカネワニの鱗板骨の特徴だった。
 ワニはトカゲなどと比べると体を持ち上げて歩くことができるが、現生のマレーガビアルはワニの中では這いつくばった姿勢で、水中への適応度が高い。マチカネワニのようなトミストマ亜科のワニは海沿いに分布を広げたと考えられ、海を渡ることができるほど遊泳能力が高かったのかもしれない。
 発見されたマチカネワニの化石は、下顎の3分の1が欠け、後肢と鱗板骨にも怪我の痕が残っていた。ワニは同種同士で争ってこうした怪我を負いながらも生きながらえることがよくあり、マチカネワニも別の個体と闘争を行っていたようだ。
 植物花粉の化石から、マチカネワニが生息していた環境は現在の大阪と同程度の気温だったことが分かっている。他のワニが熱帯あるいは亜熱帯に生息するのに対して、マチカネワニはワニとしてはかなり冷涼な気候に生息していたことになる。またマチカネワニが暮らしていたのは河口近くのやや淀んだ環境だったようだ。

[プロトスクス・リカルドソニ Protosuchus richardsoni]
学名の意味:ヒューバート・リチャードソン氏の始めのワニ
時代と地域:ジュラ紀前期(約2億年前)の北米(アリゾナ州)
成体の全長:1m
分類:爬虫綱 双弓亜綱 主竜上目 ワニ形類 プロトスクス科
 現生のワニ目を含むワニ形類は三畳紀に現れ、恐竜とともに中生代の主に陸上で繁栄した。プロトスクス類はごく初期に現れたワニ形類だったが、白亜紀まで生存していた。
 プロトスクスはごく初期のワニ形類の特徴をよく備えていた。現生のワニと違って這うような低い姿勢ではなく、前から見て四肢を地面に垂直に保ち(直立歩行)、効率よく歩行することができた。水にはあまり入らず、もっぱら陸上で生活していたようだ。
 吻部はやや短く、また高さがあった。後頭部の幅も広く、噛む力は強かったようだ。鱗板は2列並んでいた。

[シモスクス・クラルキ Simosuchus clarki]
学名の意味:ジェームズ・M・クラーク氏のしし鼻のワニ
時代と地域:白亜紀後期(約7000万年前)のマダガスカル
成体の全長:約70cm
分類:爬虫綱 双弓亜綱 主竜上目 ワニ形類 中正鰐類 ノトスクス類
 中正鰐類は中生代に多様化し、特にノトスクス類は陸上の生態系で多様なニッチを占めた。中でもシモスクスは、植物食に適応したワニである。
 吻部はとても短くて幅広く、全体的に箱状の頭部をしていた。幅広い口先にはカエデの葉のような形をした歯が生えていて、これで植物を切り刻んで食べたようだ。

[ゴニオフォリスの一種 Goniopholis sp.]
学名の意味:角張った鱗
時代と地域:ジュラ紀後期から白亜紀前期(約1億5000万年〜約1億4000万年前)のヨーロッパ、北米
成体の全長:3m
分類:爬虫綱 双弓亜綱 主竜上目 ワニ形類 新鰐類 ゴニオフォリス科
 ジュラ紀にはすでに現生のワニに近縁なワニから、半水生のものが現れていた。
 ゴニオフォリスはワニ目には含まれないものの、現生のワニと非常によく似た姿をしていて、生活もまた現生のワニと同様であったと考えられている。
 現生のワニとの違いの一つは、内鼻孔の位置である。顔面の外に開いた鼻の穴を外鼻孔というが、そこからつながって口の内側に開く穴を内鼻孔という。哺乳類や現生のワニでは内鼻孔が喉の奥にあるため食物が口にあっても呼吸ができるが、ワニ以外の爬虫類では内鼻孔が口腔にあるため食事と呼吸が同時にできない。ゴニオフォリスの場合は現生のワニと比べると内鼻孔がやや前方にあった。
 脊椎の間接面などにも現生のワニと違いがあった。

第三十八話
[デスモスチルス・ジャポニクス Desmostylus japonicus]
学名の意味:日本の束ねた柱
時代と地域:前期中新世(約1700万年前)の北太平洋西側沿岸(日本の島根県以北、サハリン)
成体の全長:2〜3m
分類:アフリカ獣類 束柱目 デスモスチルス科
 束柱類は円柱を束ねたような形の臼歯を基に名付けられた、現在は絶滅している水生もしくは半水生の大型哺乳類である。デスモスチルスは束柱類を代表する属とされるが、束柱類の中でもっとも後に現れた。
 カバに近い大きさがあり、胴体と四肢のスタイルやバランスも一見カバに似ていたが、四肢の関節を中心に難解な特徴が多く、比較すべき他の動物もいないため、長い間復元像が定まっていなかった。
 80年代以降、他の動物に似せるアプローチではなく筋肉の付き方や関節の可動範囲などを検討するアプローチにより姿勢が推定されるようになってきている。
 現在主流となっている復元像は二通りである。
 「犬塚復元」では、前肢をワニのように左右に這いつくばらせ、波打ち際で波に倒されないよう踏ん張って暮らしていたと考える。
 「甲能(こうの)復元」では、前肢を水かきとして真下に伸ばし、もっぱら遊泳していたと考える。
 いずれの復元像でも、後肢はカエルのように左右に引き縮めるようになっている。
 以前はカバのように陸上を歩くとされていたが、復元像の確立とともに水生傾向が強かったとみられるようになり、さらに近年の骨組織の検討では遊泳性の動物のような密度の低い骨を持っていたことが分かったため、ほとんど陸に上がらなかったとも言われるようになってきている。胴体の骨は密度が低かったが顎の骨は密度が高く、セイウチのように頭を下にして潜水するのに適していたとも言われる。
 頭部はカバのような大きなものではなく、鰭脚類のような流線型だった。眼窩や鼻孔が上寄りであることも水生傾向を示している。しかし吻部の先端は平たく、牙は前を向いていた。デスモスチルスは吻部の幅が狭く、近縁のパレオパラドキシアは吻部の幅が広かった。口先にはセイウチと同じような感覚毛があったとされる。
 前述のとおり円柱を束ねたような形の臼歯があり、近縁のゾウやジュゴンと同じく、下からではなく後ろから新しい歯が生えてきた。この臼歯の用途も長らく不明で、何を食べていたのか分からなかった。顕微鏡による微細な傷の観察が行われた結果でもあまり食性が絞り込まれず、少なくとも固いものを噛み割っていたのではなかった。
 臼歯と筋肉の向きや位置の検討が行われた結果、食物をすりつぶすことよりただ単に噛みしめることに向いていたことが分かった。噛みしめると顎がしっかり固定され、口先には隙間ができ、食物を吸い込むことが容易になる。また同位体を用いた分析の結果、デスモスチルスは汽水で得られるものを食べていたことが分かった。
 以上のことにより、デスモスチルスは汽水の水底に向かって潜り、砂の中にいる無脊椎動物を吸い込んで食べていたのではないかと言われている。
 束柱類は北太平洋沿岸で化石が発見されている。デスモスチルスの頭骨は岐阜県の瑞浪市で、全身骨格はサハリンで初めて発見されている。また北海道を中心に日本各地から束柱類の化石が発見されていて、これにより日本は戦前から束柱類の研究が進んでいる。
 中新世は全体的には温暖な時期で、デスモスチルスの頭骨が発見された岐阜県の瑞浪層群でいえばほぼ亜熱帯の気候であったが、デスモスチルスが発掘された層が堆積した時期には北からの海流が流れ込んで温帯気候となっていた。デスモスチルス属は主に北太平洋の北部に生息していて、岐阜県へは海流の南下に乗じて北から分布を広げてきたようだ。

第三十九話
[パラエオロクソドン・ナウマンニ(ナウマンゾウ) Palaeoloxodon naumanni]
学名の意味:ハインリッヒ・エドムント・ナウマン氏の太古の菱形の歯
時代と地域:後期更新世(約43万年前〜1万5000年前)の日本、中国
成体の肩高:2〜3m
分類:アフリカ獣類 長鼻目 ゾウ科
 現生の長鼻類(ゾウの仲間)はアジアゾウ、サバンナゾウ、マルミミゾウのみだが、長鼻類は新生代を通じて多様化し、数万年前までもっと多く生存していた。
 日本列島にも長鼻類が数回にわたって進出していて、ナウマンゾウはその中でも特に後になってから日本全国に広まった、日本を代表する長鼻類である。約43万年前、当時アジア大陸とつながっていた九州を通じて日本に到達したと考えられている。
 ナウマンゾウは基本的には現生のゾウとよく似たゾウであった。
 頭部に大きな特徴が集まっていた。頭骨は前方から見ても側方から見ても角張った形をしていて、顔面が垂直に近い角度をしていた(ただし生きていたときには顔面は鼻の土台となっていた)。額の頂部には鉢巻きかベレー帽を思わせる突起があった。
 現生のアジアゾウでは体に対する脳の大きさを示す指標であるEQは2を超えるが、ナウマンゾウと同じパラエオロクソドン属のパラエオロクソドン・アンティクウスではサバンナゾウをやや下回る1.2であった(現在、脳の大きさは必ずしも知能を反映しないとされる)。
 牙は発達していた。特にオスの牙は大きく、またメスの牙は並行で細いのに対して、オスの牙はより太く、ハの字に開き、前方に向かってねじれるように曲がっていた。
 ゾウ科に属する長鼻類の臼歯は上下左右1〜2個ずつだけで、非常に大きく発達している。種によって咬合面の凹凸に違いがあり、ナウマンゾウの歯はアジアゾウのような細かい段差が並行に走っているものとサバンナゾウのような大きな菱形が並んでいるものの中間であった。タケ類を好むアジアゾウと比べると柔らかいものを好んだのかもしれない。
 体型は現生のゾウとほぼ変わらなかったと考えられている。肩が少し盛り上がっていた。オスはメスと比べて肩高が50cm以上上回っていたようだ。とはいえ全身が揃った状態の化石が発見されていないので、それほど正確にプロポーションが判明しているとはいえない。
 沖縄県から北海道の主に南西部まで、日本全国から非常に多くの化石が発掘されている。大半は低地で発見されているが、標高1000m以上の地点から発見されたこともあり、山地で生活することもできたようだ。
 発掘された地層の植物化石から、主に針葉樹と落葉広葉樹が混ざった森林(針広混合林)に生息したとされている。ナウマンゾウ生息当時はいわゆる氷河期であったが、寒冷な地域の草原に生息していたケナガマンモスと比べると温暖な環境を好んだようだ。熱帯に生息する現生のゾウと比べて体毛が長く放熱するための耳が小さかったと考える場合と、アジアゾウとそれほど違いはなかったと考える場合がある。北海道ではケナガマンモスも北方から進出し、気候の変化によって両者の生息地域が変動していた。
 日本列島に渡ってきたヒトと接触し、捕食対象となったようだ。ヒトの手が加わったと考えられる状態のナウマンゾウの化石も発見されている。

第四十話
[シノメガケロス・ヤベイ(ヤベオオツノジカ) Sinomegaceros yabei]
学名の意味:矢部長克氏の中国の角
時代と地域:後期更新世(約30万年前〜1万5000年前)の日本
成体の肩高:1.7m
分類:鯨偶蹄目 反芻亜目 シカ科 シカ亜科 シカ族
 オオツノジカは、人類(ホモ属)が繁栄し始めたのと同時期にユーラシアに現れた大型のシカのグループである。現生のダマジカに近縁とされる。名前のとおり角が非常に発達しており、また角の形態も多様化していた。
 シノメガケロス属のオオツノジカがアジアに現れ、当時日本と陸続きになっていたためナウマンゾウとともに日本に進出してヤベオオツノジカに進化したとされる。日本の各地から化石が発見されていて、ニホンジカやその近縁種と生息地域・年代が重なるものの、ニホンジカと直接の類縁関係はない。
 ヤベオオツノジカは島嶼性であるにも関わらずユーラシア大陸のオオツノジカとさほど変わらない大きさで、大型のウマやヘラジカに匹敵した。骨組織の観察から、多くの島嶼性の動物と違って大陸性のオオツノジカと同じくらい早く成長したことが分かっている。
 角はギガンテウスオオツノジカ(メガロケロス・ギガンテウス)ほど大きくはなかった。ギガンテウスオオツノジカの角が左右に大きく広がっているのに対して、ヤベオオツノジカの角は前後に長かった。基部の上に伸びる枝と、一旦後方に伸びてから立ち上がる枝に分かれ、それぞれの枝の先はヒトの手のような平たい形になっていた。
 角の重量を支えるため、首の筋肉の基部である肩の棘突起が発達していた。四肢は長く丈夫で、走行に適していた。
 生息年代としては氷河時代であったが、ナウマンゾウやニホンザルといった南方から日本に渡ってきた動物とともに産出することから、寒帯気候というよりは温帯気候に適応していたと考えられる。また完全な森林より開けた環境に生息していたようだ。
 最終氷期が特に寒冷な気候になり生存が難しかったことと、ヒトによる狩猟の影響で絶滅したとされる。ナウマンゾウの牙とヤベオオツノジカの角の先が対になって並べられた状態で発見されたことなどもあり、ヒトの狩猟の対象になっていたことは確実視されている。
 ヤベオオツノジカの化石は1797年に群馬県で初めて発見され、その3年後には大型のシカの一種であることが確認された。発掘が記録され、さらに同定された化石としては日本最古のものである。現在もこの化石は蛇宮神社の委託のもと富岡市立美術博物館で展示されていて、またレプリカは群馬県立自然史博物館でも見ることができる。

第四十一話
[メガロニクス・ジェッフェルソニイ(ジェファーソンズグランドスロース) Megalonyx jeffersonii]
学名の意味:トマス・ジェファーソン氏の大きな爪
時代と地域:更新世(約78万年前〜約1万2000年前)の北米
成体の全長:約3m
分類:異節上目 有毛目 メガロニクス科(フタユビナマケモノ科) メガロニクス亜科
 現在ナマケモノは中南米の熱帯雨林に生息し、樹上で生活しているが、1万年ほど前までは地上性のものが南北両アメリカ大陸に多数生息していた。これを地上性ナマケモノ、または現生のナマケモノと比べ非常に大型であったことからオオナマケモノと呼ぶ。
 地上性ナマケモノは立ち上がって木の葉を食べるもの、穴を掘って地下茎などを食べるもの、半水生のものなど多様化していたが、メガロニクスはその中でも立ち上がって木の葉を食べる典型的な地上性ナマケモノであったとされる。
 また地上性ナマケモノは単一のグループに属するのではなくいくつかのグループに分かれていたが、メガロニクスは現生のフタユビナマケモノに近縁なグループに含まれるとされる。
 メガロニクスは全長約3mと中型の地上性ナマケモノであった。メガテリウムやエレモテリウムなど、最も大きな地上性ナマケモノは全長6mになった。
 頭部は現生のナマケモノ同様丸みを帯びた形で、吻部は短かった。歯は植物をすり潰すというより細かく噛み切るのに向いた尖った形状をしていた。首は短く頑丈な造りだった。
 前肢は長く発達していた。上から引き下げるような動きに適していたとされる。
 手も大きく、名前の由来となった末節骨(爪の芯となる指先の骨)は長い鉤爪になっていた。ただし、末節骨の根元の大部分が骨でできた鞘で覆われていた。生きていたときはこの鞘の上に皮膚や角質が被さり、爪がそれほど長いようには見えなかっただろう。
 4足で歩くときは手の甲を地面に付けたと考えられている。親指は小さく、ものを掴むのではなく爪で引っかけたようだ。
 胴体や骨盤は幅広く、植物を消化する長い腸が収まっていた。
 後肢は短く、とても頑丈だった。足が平たく、かかとを地面につけて歩いたようだ。素早い移動には全く適していなかった。尾も同様に短く頑丈なことから、カンガルーのように後肢と尾だけで立って過ごすことが多かったと考えられている。
 もっぱら森林に生息し、高い枝を爪で引っかけて引き下げたり、木に力をかけて上体を起こしたりして木の葉を食べたとされる。ただし広範囲で発見されていることから、必ずしも森林でだけ暮らしていたのではないようだ。
 洞窟で発見されることも多く、気温の変化を避けたり安全に出産したりするのに洞窟を利用していたようだ。
 こうした地上性ナマケモノは約1万年前に絶滅したが、これにはヒトがアメリカ大陸に進出し地上性ナマケモノを捕食したことが深く関わっているとされる。

[ノスロニクス・ムクキンレイイ Nothronychus mckinleyi]
学名の意味:ボブ・マッキンリー氏の農場で見付かったナマケモノのようにゆっくりとした爪
時代と地域:白亜紀後期(約9000万年前)の北米
成体の全長:約4m
分類:竜盤目 獣脚類 コエルロサウリア マニラプトラ テリジノサウルス科
 ノスロニクスは北米で発見された数少ないテリジノサウルス類である。テリジノサウルス類は主にアジアに生息していた、地上性ナマケモノに収斂進化したとされる恐竜である。
 系統の異なる生き物が同じような生活に適応した結果同じような形質を獲得することを収斂進化という。特に明確な例に、高速遊泳に適応した結果いずれも流線型の体と三日月型の尾鰭を獲得したサメ、マグロ、魚竜、鯨類がある。
 ノスロニクスのようなテリジノサウルス類はメガロニクスのような地上性ナマケモノに似た特徴を多く持っていた。前肢は長く爪が発達していた。胴体は半分直立し、大きく幅広かった。後肢は短く、走行より体重を支えるのに適していた。歯は植物を噛み切るのに適していた。
 テリジノサウルス類も地上性ナマケモノと同様、体を起こして枝や幹をつかみ、高いところの木の葉を食べ、時間をかけて消化していたようだ。
 ただし地上性ナマケモノとの違いとして、頭が小さく首は細長かった。吻部の先端は歯のないクチバシになっていた。前肢は長いといってもメガロニクスほどではなかった。またおそらく常に2足歩行で、尾を地面に付けることはなかった。
 植物食に適した特徴を備えているものの、テリジノサウルス類は従来いずれも肉食であったと考えられていた獣脚類に属している。
 テリジノサウルス類はクマやパンダのように肉食から雑食、さらに植物食に変化したことになる。このように肉食から植物食に適応したとされる獣脚類には他にオルニトミムス類とオヴィラプトル類がいる。
 ノスロニクスの独特な点としては、肩にあたる椎骨の棘突起がやや長く、肩が少し盛り上がっていたようだ。
 テリジノサウルスと比べると爪が深く曲がっていて、形状の比較からノスロニクスは枝をつかむより土を掘ることに適応していたのではないかという指摘もある。
 テリジノサウルス類は様々な恐竜に似た特徴を併せ持っていた上、特に早く発見されたテリジノサウルス類であるテリジノサウルスが爪しか発見されなかったため、獣脚類と判明するまで数十年かかった。
 アラシャサウルスやベイピャオサウルスなどの発見により1990年代頃からテリジノサウルス類の体型や系統上の位置が判明し始めた。特にベイピャオサウルスには原始的な羽毛の痕跡が発見され、テリジノサウルス類にも他の鳥類に近い獣脚類のように羽毛があったことが分かった。
 現在でもテリジノサウルス類の多くは断片的な化石しか知られていないが、ノスロニクスはムクキンレイイ種とグラッファミ種を合わせればほぼ全身が発見されている。

第四十二話
[ペイトイア・ナトルスティ(ラッガニア・カンブリア) Peytoia nathorsti(Laggania cambria)]
学名の意味:アルフレッド・ガブリエル・ナトホルスト博士のペイト氷河のもの(ウェールズとラガン駅のもの)
時代と地域:カンブリア紀中期(約5億800万年前)の北米(カナダ)
成体の全長:約20cm(最大60cm?)
分類:側節足動物 歩脚動物門 恐蟹綱 放射歯目 フルディア科
 ペイトイアは、ラッガニアという名前で知られることの多い、アノマロカリスの近縁種である。
 アノマロカリス類(上記の分類では恐蟹綱)は断片的な化石が多く、似た生き物が生き残っておらず、さらに特異な体型をしていたため、全体像を把握するのが非常に難しかった。アノマロカリスの付属肢の化石が発見されたのは1892年、近縁種の口と胴体が発見されたのは1911年のことであったが、これらの間に関係があると分かり始めたのは1979年、同じ動物の体の一部であるとされたのは1985年、完全に全身が把握されたのは発見から100年経った1990年代になってからであった。
 1911年に発見されていたアノマロカリス類の口と胴体の化石は、口がクラゲの一種「ペイトイア」、胴体がナマコの一種「ラッガニア」として同じ論文の中で名付けられていた。1978年にはサイモン・コンウェイ・モリスにより「ラッガニア」の口器とされたものが「ペイトイア」であり、「ラッガニア」は「ペイトイア」と海綿の一種コラリオが組み合わさったものであると考えられた。このときモリスはペイトイアを有効名として残した。
 1985年にはハリー・ウィッティントンとデレク・E・G・ブリッグスによりペイトイアとアノマロカリスの全身化石が発見され、これらの全体像が明らかになっていったものの、ペイトイアは一旦アノマロカリス属に含まれた。その後の形態の比較により、ペイトイアはアノマロカリスとは別属として分類されるようになった。
 ペイトイアはアノマロカリスと比べると、頭部が大きく、また胴体と頭部の間にくびれがなく全体が平たい楕円形をしていた。
 複眼は頭部のかなり後方にあった。頭部の1対の大きな付属肢は、先端を除いて長いブラシ状の棘が生えていた。複眼が前寄りでなく、付属肢が大きいものを捕獲するより小さいものを濾し取ることに向いていたことから、アノマロカリスのような頂点捕食者ではなく、濾過食性なのではないかとも言われている。
 体側に鰭はあるが尾鰭はなかった。また歩脚はなかったようだ。常に海底から浮かんだ状態を保ち、ゆっくりと泳いでいたようだ。
 こうしたアノマロカリス類がいくつか発見され、またその他の近縁なものとも比較された結果、アノマロカリス類が節足動物にごく近縁であることは判明したものの、それほどきちんと分類上の位置が定まったとはまだいえない。上記の分類は一つの案である。

[キルトスピリファー・ヴェルネウイリ Cyrtospirifer verneuili]
学名の意味:フィリップ・エデュアルド・ポールティエ・ド・ヴェルヌイユ氏の湾曲したスピリファー(スピリファーは他のスピリファー目の腕足動物。意味は「螺旋を運ぶ者」)
時代と地域:デボン紀後期(約3億8000万年前)の世界各地
成体の全長:約6cm
分類:腕足動物門 リンコネラ綱 スピリファー目 キルトスピリファー科
 腕足動物については第十八話のスカチネラ参照。
 キルトスピリファーはスピリファー類の代表的なものの一つである。
 スピリファー類は古生代の中頃に繁栄した腕足動物のグループである。翼形と呼ばれる、左右に翼を広げたような殻を特徴とする。このことから石燕という古名を持つ。
 キルトスピリファーはスピリファー類の中でも翼状の部分が特に長く発達し、イチョウの葉に似た左右に長い扇形をしていた。殻の中央部分は片方で膨らみ、もう片方では凹んでいる。殻の先端で凹凸が噛み合う部分をサルカスという。2枚の殻はわずかなすき間を開けていた。
 新潟大学の椎野勇太氏は、キルトスピリファーを含めた腕足動物の殻に関する流体的な実験と解析を行っている。
 この研究により、スピリファー類の場合は周囲の流れがサルカスの開口部から流入し、翼状部の中で触手冠(バネ状のフィルター)を取り巻く渦となりつつ外側に向かい、翼状部の開口部から流出することが分かった。
 どちらからの流れでも内部に取り込めるが、流速に関わらず適度に弱い安定した渦を内部に作り出せる向きは決まっていた。また秒速1cmというごく弱い流れでも内部に渦を作ることができた。
 キルトスピリファーはこのような殻の機能を利用して、海底の砂の上に立って水流から餌を濾し取っていた。古生代の中頃には陸上で森林が広がり有機物の産生量が増したため、河川から海に栄養豊富な水が流入し、受動的に餌を捕えるスピリファー類の繁栄を促したのではないかとも言われている。

[プテロトリゴニア・オガワイ Pterotrigonia (Ptilotrigonia) ogawai]
学名の意味:小川氏の羽状のトリゴニア(トリゴニアは他の三角貝目の一種。意味は「三角形のもの」)
時代と地域:白亜紀後期(約9800万年前)の東アジア
成体の全長:約3cm
分類:軟体動物門 斧足綱 古異歯亜綱 三角貝目 メガトリゴニア上科 メガトリゴニア科 プテロトリゴニア亜科
 プテロトリゴニアは中生代に栄えた三角貝という海生の二枚貝の一種である。中生代末にほぼ絶滅したが、現在もオーストラリア沿岸にシンサンカクガイ属(ネオトリゴニア)が7種生息している。
 三角貝(トリゴニア)という名前は代表的な属であるトリゴニアの殻が三角形のシルエットをしていることにちなむ。頂点が蝶番で、一方は平らな面、もう一方は丸い円錐状になっていた。
 三角貝は現生のアサリやハマグリのように砂に埋もれて生活していたが、そのような系統的に新しい貝と違って、水を出し入れするための水管を持たなかった。
 そのため、殻を全て砂で隠したまま水管だけを砂の上に出すことができず、殻の端を露出せざるを得なかったようだ。このことが捕食者から逃れる上で不利になったために衰退したのだと言われる。
 プテロトリゴニアは小型の三角貝で、トリゴニアにおける円錐状の面が膨らみ、さらに端が出っ張って羽状のシルエットになっていた。表面には肋と呼ばれる筋状の出っ張りが並び、さらに肋の上に突起が並んでいた。河口から少しだけ離れたところに生息していたようだ。
 熊本県の御所浦では、アサリやハマグリに近縁な水管を持つ二枚貝であるゴショライアと共に発見されていて、三角貝から水管のある二枚貝への移り変わりの時代を示している。

[シュードフィリップシア・クズエンシス Pseudophillipsia (Pseudophillipsia) kuzuensis]
学名の意味:葛生産のフィリップシアもどき(フィリップシアは他のフィリップシア科の一種。意味は「ジョン・フィリップス王立学会特別研究員のもの」)
時代と地域:ペルム紀後期(約2億7000万年前)の東アジア
成体の全長:約2cm
分類:節足動物門 三葉虫形類 三葉虫綱 プロエトゥス目 フィリップシア科
 三葉虫は全体としてはほぼ古生代を通じて繁栄していたが、三葉虫の中のそれぞれのグループは段階的に絶滅していった。カンブリア紀中期にはレドリキナ目、オルドビス紀末にはプティコパリア目、シルル紀末にはアサフス目というように絶滅し、デボン紀末には当時生息していた5つの目のうちプロエトゥス目しか残らなかった。
 プロエトゥス目は三葉虫の中でもオーソドックスな形態をした小型の三葉虫である。石炭紀とペルム紀を通じてプロエトゥス目の三葉虫も次第に数を減らしていき、ペルム紀末に完全に絶滅した。
 国内では三葉虫の発見例は海外と比べればごく少なく、また多くは断片的だが、発見されているのは絶滅間際の三葉虫であるため、三葉虫の絶滅に関連する情報が含まれているとみられる。
 シュードフィリップシアは国内で発見される最後の三葉虫のひとつである。小判型の全身、大きな頭部と複眼など、三葉虫の基本的な体型を保っていた。国内での発見例はいずれも石灰岩の地層であり、炭酸カルシウムが豊富に得られる環境に生息していたようだ。

[ストロマトライト Stromatolite]
名前の意味:縞状の岩石
 ストロマトライトは特定の古生物に付けられた名前ではなく、微生物、特にシアノバクテリアの働きによって作られる層状の構造を持つ堆積岩のことである。生物の形態または生活の痕跡が地層中に残されたものを化石というため、全く岩石にしか見えないストロマトライトも地層中から発見されれば化石の範疇に含まれることになる。
 ストロマトライトを形成するシアノバクテリアは、古くは藍藻と呼ばれた、光合成を行う細菌である。植物よりはるかに古い起源をもち(しかし最古の光合成生物ではないようだ)、植物の細胞内にある葉緑体はシアノバクテリアが植物の祖先と共生するようになってできたものであると言われる。現在シアノバクテリアは温泉の中や氷河の上のような極限的な環境でも見られるが、池や水槽に現れることもあり、決して珍しい存在ではない。
 シアノバクテリアがストロマトライトを形成する過程は以下のとおりである。
 シアノバクテリアは水底で光合成を行いながら増殖し、粘りのある層状のコロニーとなってあたりを覆う。そこに微細な堆積物が少しずつ降り積もると、堆積物の粒はシアノバクテリアの層に取り込まれ、固定される。
 さらにシアノバクテリアが層の上に向かって増殖すると堆積物の粒は層の中に埋まり、再び堆積物が層の上に降り積もる。
 シアノバクテリアの活動は光のある日中に限られるため、堆積物を層に取り込む過程は日周的に進む。これを繰り返し、さらに堆積物が石灰化することによって、シアノバクテリアのコロニーは薄い層状の石灰岩からなる塊に変わる。これがストロマトライトである(なおこの過程にはシアノバクテリア以外の細菌も関わっているようだ)。
 全体の形状は有名な丸いものだけでなく円錐状や枝状など様々だが、シアノバクテリアの種ではなく環境に左右されると考えられている。
 形成過程が進行するには、浅くて日光が充分にあり、炭酸塩を含む堆積物が少しずつ流れ込む水底が必要である。さらに、砂をかき混ぜるような動物がいないことも必須になる。ストロマトライトが形成される過程はごくゆっくりとしか進まず、シアノバクテリアのコロニーが形成される時点で動物に壊されたり食べられたりする可能性が高いからである。
 そのため、ストロマトライトはまだ多細胞生物がいない20億年以上前には地球上に現れたが、複雑な体制を備えた動物が多様化したカンブリア紀に入ると激減した。
 しかしその間、ストロマトライトは世界各地の浅い海に多数形成され、シアノバクテリアの大規模な光合成が行われた。これにより海水中および大気中の酸素濃度が飛躍的に上昇し、多くの生き物が酸素の酸化作用による淘汰圧を受けたことが、現在のように多細胞の体を持ち酸素を呼吸する生き物の多様化を促したとされる。
 カンブリア紀以降もストロマトライトは全くなくなったわけではなく、現在までにわたって化石が発見されている上、オーストラリア西海岸には現生のストロマトライトがわずかに生息している。この現生ストロマトライトの発見により、形成される原因や過程など多くのことが解明されたが、現生と化石の違いなどの課題も生まれた。
 シアノバクテリアを実験室で培養してストロマトライトを形成させる実験が行われており、すでに層状の膨らんだ構造を形成させる段階まで進んでいる。

第四十三話
[シンフィソプス・スバルマトゥス Symphysops subarmatus]
 シンフィソプスはオルドビス紀(約4億5000万年前)の北アフリカ(モロッコ)の海に生息していた遊泳性三葉虫である。
 三葉虫の多くは海底を歩くか、海底の砂に潜って生活していたが、中には遊泳性と考えられるものもいた。
 特に、
 シンフィソプスやキクロピゲを含むキクロピゲ科、
 カロリニテスやオピペウテレッラを含むテレフィナ科、
 レモプレウリデスやヒポディクラノトゥスを含むレモプレウリデス科、
 これら3つのグループは大きな複眼と身軽な体型により高度に遊泳に適応し、オルドビス紀に繁栄していた。
 三葉虫(Trilobite)という名前は体が左右に3つの区画に分かれることから名付けられ、体の中央部分を中軸、脇腹の部分を肋と呼ぶ。胴体や肢を動かす筋肉は中軸にだけ収まっている。
 底性の三葉虫は肋が幅広く全体に楕円形だが、遊泳性の三葉虫は肋が退化していた。
 複眼の構造を検証した結果から、シンフィソプスのようなキクロピゲ科の三葉虫は暗い深海に生息していたと考えられている。
 一般的な三葉虫の頭部に見られる頬という部分が退化し、丸く膨らんだ頭部中央(頭鞍)を挟むように複眼が発達していた。
 尾部が丸く幅広い形で、鰭として役立ったかもしれない。
 シンフィソプスは全長4cm前後とキクロピゲなどと比べて大きかった。頭部の先端は正面に向かって角状にとがっていた。また、シンフィソプスの左右の複眼は角状の部分の下でつながっていた。

[キクロピゲ・レディヴィヴァ Cyclopyge rediviva]
 第十六話参照。

[パラバランディア・ボヘミカ Parabarrandia bohemica]
 紹介する順番が前後するが、キクロピゲ科、テレフィナ科、レモプレウリデス科という3つの遊泳性三葉虫のグループの他にも比較的遊泳能力が高かったとされる三葉虫がいた。
 オルドビス紀(約4億6000万年前)のチェコ、ポルトガル、スペインに生息していたパラバランディアは、ニレウス科の中から遊泳に適応したもののひとつであった。
 3つの代表的なグループに含まれる遊泳性三葉虫は数cm程度であったのに比べて、パラバランディアは全長約12cmとかなり大型だった。しかし肋が退化し複眼が発達しているという遊泳への適応が見られた。
 さらにパラバランディアの頭部は前方に楕円を描いて突き出し、全体の輪郭は滑らかだった。三葉虫の権威であるリチャード・フォーティが模型による流水実験を行ったところ、パラバランディアの体型は水の流れを乱さない、抵抗の少ないものであったという。
 パラバランディアはキクロピゲ科のものとともに外洋で堆積した地層から発見されている。

[カロリニテス・ゲナキナカ・ゲナキナカ Carolinites genacinaca genacinaca]
 カロリニテスはオルドビス紀(約4億7000万年前)のオーストラリア北部、 北米西部、北極圏、シベリア西部、中国南西部の地層から発見される、テレフィナ科に属する遊泳性三葉虫である。
 複眼の構造からキクロピゲ科が深海に生息していたとされる一方、テレフィナ科はより浅く、光が多く届く深さに生息していたと考えられている。
 複眼は頬に乗るようにして発達し、上下方向も含めて広い視野を確保していた。複眼の後方から棘が生えていた。
 頭鞍は小さかった。尾部は細く、鰭の役目はなかった。
 テレフィナ科の化石は複数種が混ざった状態で密集して発見されるが、ほとんどは部分化石で、状態の良いものはまれである。体のつくりが華奢だったためかもしれない。
 カロリニテスの化石は世界中に散らばって発掘されているように見えるが、オルドビス紀から現在までの大陸移動をさかのぼって当時の大陸分布に当てはめると、発掘地点は低緯度の熱帯地域に集まる。このことからカロリニテスは温暖な海洋の表層に分布を広げていたとされる。
 比較的重い背中を下にして、鰓の付いた肢を波打たせ、現生の小型甲殻類のように泳いだと考えられている。現在のオキアミのように、外洋でプランクトンを食べ、自らはより大型の動物の餌になっていたようだ。

[オピペウテレッラ・インコンニヴス Opipeuterella inconnivus]
 オピペウテレッラもテレフィナ科の代表的な三葉虫である。オルドビス紀(約4億7000万年前)のオーストラリア、アイルランド、ノルウェー、ネヴァダの地層から発見されている。
 オピペウターOpipeuterという名でよく知られているが、その属名は現生のトカゲに先に付けられていたことが分かったため変更された。
 カロリニテスと比べ少し華奢で、複眼が前後に大きく発達していた。尾部に後ろ向きの棘があった。

[レモプレウリデス・ナヌス Remopleurides nanus]
 レモプレウリデスはオルドビス紀(約4億6000万年前)の主にロシアの地層から発見されている、レモプレウリデス科の代表的な三葉虫である。
 キクロピゲ科やテレフィナ科はもっぱら水中に浮かび上がっていたと考えられているが、レモプレウリデス科は高く浮かぶことなく海底近くで泳ぐことに適した特徴が見られる。
 前述2グループと同様に肋が退化しているが、体全体の幅はやや広く、流線型ではあるがそれほど軽くはなかった。
 また複眼は前後に長く、上から見るとCの字型をしている。これは水平方向にのみ大きな視野を確保する形態である。
 レモプレウリデスの複眼の構造の検証から、海底の地平線が最も鮮明に見えたことが分かったという。これは地平線の傾きから自らの体の傾きを知り、体の水平を保つためではないかと言われている。また、やや明るく、見通しの利く水質の海に暮らしていたことにもなる。
 後述のヒポディクラノトゥスは後方の肋と尾部が広がり、安定のための鰭のような面を形成していたが、レモプレウリデスにはそのような特徴はなく、尾部は小さかった。尾部の前から後上方に向かって棘が生えていて、これにより安定を保っていたと言われる。

[ヒポディクラノトゥス・ストリアトゥルス Hypodicranotus striatulus]
 第十六話参照。レモプレウリデスと同じくレモプレウリデス科の遊泳性三葉虫である。
 新潟大学の椎野勇太氏の解析により、ヒポディクラノトゥスは海底から浮かび上がる遊泳能力はあったが、海底面から自身の体の厚さの半分の高さだけ浮かんだときが最も安定した揚力を得て遊泳できたことが示されている。

[ダルマニテス・リムルルス Dalmanites limulurus]
 オルドビス紀末に大量絶滅が起こり、三葉虫も大幅に数を減らした。シルル紀以降にも三葉虫は繁栄していたがオルドビス紀以前の多様性に匹敵することはなかった。
 ダルマニテスはシルル紀(約4億年前)の主に北米(ニューヨーク)に生息していた、全長6cm前後の三葉虫である。平たく装飾のない姿をしていて、頭部と尾部の先端がとがっていた。複眼は小さかったが、やや盛り上がっていた。

[フグミレリア・ランケオラタ Hughmilleria lanceolata]
 ウミサソリはオルドビス紀にはすでに現れていたが、シルル紀になると多様化した。
 フグミレリアはシルル紀(約4億年前)の北半球(北米、イギリス)に生息していた、全長約15cmの小型のウミサソリである。
 プテリゴトゥス(第十四話参照)とやや近縁で、発達した鋏脚や遊泳脚などが共通していたが、鋏脚は頭部の先から覗く程度の小さなものだった。鋏は特殊化しておらず、プテリゴトゥスと比べるとより雑食傾向が強かったとも言われている。また複眼も小さかった。
 頭胸部から胴体はなめらかな楕円形をしていた。尾剣は平たく、鰭の役割もあったかもしれない。汽水から淡水に生息していた。

[ハルペス・ペラディアトゥス Harpes perradiatus]
 デボン紀になると三葉虫の形態が多様化した。特にモロッコからは非常に様々な形態の三葉虫化石が知られ、ハルペスもそうしたもののひとつで、約3億9000万年前に生息し全長は5cmほどであった。
 ハルペスをはじめとするハルペス目の三葉虫は発達した頭部が特徴であった。頭部の本体は高く盛り上がり、頭部の縁が真後ろ以外の体の周囲全体を馬蹄形に取り囲むように広がって、底のないサンダルのような形態になっていた。
 この頭部の縁には表裏に無数の小さな孔が開いていた。定説としては、この孔を通して縁の裏から表へ水を濾過することで海底の有機物を食べたとされている。
 しかし、特に保存状態が良く精巧にクリーニングされた化石であっても、孔が貫通しているかどうかは確認できないようだ。また、非常に小さな孔が縁の面に間隔を空けて並んでいるので、貫通していたとしても水がスムーズに流れることはないかもしれない。

第四十四話
[プロトモニミア・カサイ-ナカジホンギイ(ハボロハナカセキ) Protomonimia kasai-nakajhongii]
学名の意味:アマチュア化石採集家の葛西氏、中島氏、二本木氏によって発見された祖先のモニミア(モニミアはクスノキ目モニミア科の植物の属名。モニミアの属名はギリシャ・マケドニア地方の、紀元前1世紀にいた人物モニメにちなむ)
時代と地域:白亜紀後期(約8500万年前)の東アジア(北海道)
成体の高さ:不明(花托の直径3cm)
分類:被子植物門 基盤的被子植物 モクレン亜綱 モクレン目(?)
 被子植物は従来、基盤的な単子葉植物と派生的な双子葉植物に大別されると考えられてきたが、近年の分子系統解析により、双子葉植物の一部、スイレン目・クスノキ目・モクレン目などは単子葉植物よりさらに基盤的であると判明した(これらを除く双子葉植物を真正双子葉植物という)。
 基盤的被子植物は花の構造に原始的な特徴を多く残している。特にモクレン目・モクレン科の花は、身近に栽培されていることや花が大きいことから、原始的な特徴を観察しやすい花として取り上げられることが多い。
 基盤的被子植物の化石は白亜紀前期の地層からも知られているが、起源はさらにさかのぼると考えられている。
 ハボロハナカセキは、北海道の羽幌町で発掘された、基盤的被子植物の花の化石である。
 この化石は花から実に成熟しつつある段階だったと考えられている。3cmほどの花柄の先端に平たくくぼんだ皿状の花托があり、その上に多数の雌しべが密集して生え、ドーム状になった状態で化石化していた。雄しべや花びらは残っていなかった。
 原標本は切断され内部の構造が確認されている。
 雌しべは袋果と呼ばれる果実になっていて、一本一本が二つ折りになった葉のような単純な構造をしていた。この構造を二つ折れ心皮という。中には15個前後の胚珠(成熟すると種子になる部分)が一列に並んでいた。
 このような雌しべが二つ折れ心皮の合わせ目を内側に向け、5列の螺旋をなして花托の上に隙間なく並んでいた。
 花を構成する一つひとつの器官は葉から変化してできたものであり、葉は茎から螺旋状に並んで生えることから、花が螺旋構造をしていることは、花としては原始的な特徴であると考えられている。
 こうした原始的な螺旋構造を、スイレン目やモクレン目などに属する現生の基盤的被子植物の花も備えている。これらの花は強い芳香を発するものが多い。
 ハボロハナカセキは当初クスノキ目モニミア科に近縁と考えられていた。プロトモニミアという属名はこれに由来する。
 その後の研究によりむしろモクレン目に近縁とされるようになったが、モクレン目やその中のモクレン科に含まれるのかどうかははっきりしていない。よく似た特徴を持つヒダカハナカセキ(ヒダカントゥス)も同様である。ただしハボロハナカセキよりやや古い時代のアルカエアントゥスはモクレン科に含まれると考えられている。
 以前はモクレン科の花が大きいことは原始的な特徴と考えられていたが、モクレン科と思われる直径2mm程度の果実の化石が、バージニア州の約1億年前の地層から発見されている。またモクレン目より基盤的なコショウ目の花は小型である。モクレン科も含め初期の被子植物の花は小さかったようだ。

第四十五話
[アマルガサウルス・カザウイ Amargasaurus cazaui]
学名の意味:ルイス・カザウ氏の案内によりラ・アマルガ累層で発見されたトカゲ
時代と地域:白亜紀前期(約1億2500万年前)の南米(アルゼンチン)
成体の全長:約10m
分類:竜盤目 竜脚形類 真竜脚類 新竜脚類 ディプロドクス上科 ディクラエオサウルス科
 竜脚類は長い首と尾を持つ四足歩行の植物食恐竜のグループである。全長10mを大幅に超えるものが多く、一部の種が全長30mを超えたことは確実とされる。
 しかしアマルガサウルスなどディクラエオサウルス科に属するものは、竜脚類としてはやや小型で首も短かった。また頸椎や胴椎の棘突起が長く発達していた。
 アマルガサウルス自身も全長は約10m程度で首は胴体と同じくらいの長さだったが、頸椎の棘突起が二又に分かれ、非常に長く発達していたのが特徴である。
 アマルガサウルスの頸椎の棘突起は根元でUの字に分かれ、2本の枝が数cm程度の間隔で平行を保ったまま後ろに傾いて伸びていた。首の中央に当たる第7・第8頸椎のものが最も長く、頸椎の棘突起を除いた部分の2倍以上、65cmに達した。環椎(第1頸椎)には棘突起がなく、首の最初の棘突起である軸椎(第2頸椎)の棘突起だけは分岐していなかった。胴椎の棘突起も長く、頸椎の棘突起が作る輪郭から続いていた。
 生きていた時にこの棘突起の周りにどのような組織があったかは意見が分かれている。
 左右の棘突起の間に別々に膜が張って2枚の帆になっていたという説、棘突起の断面が丸く先細りになっていたことから棘であったという説、左右の棘突起全体が軟組織に包まれ1つの帆になっていたという説などがある。
 2007年、スイスのバーゼル自然史博物館に所属するシュヴァルツ、フレイ、メイヤーが発表した論文によると、ディプロドクス科とディクラエオサウルス科の頸椎をワニや鳥類と比較したところ、頸椎の空洞、分岐した棘突起の間、頸肋骨が作る空間の大部分は気嚢によって占められ、その周囲を筋肉や靭帯が取り巻いていたという。内部が空洞で軽くなった首を靭帯で上面から引っ張り、筋肉で動かしていたようだ。
 気嚢は鳥類のものと同じく呼吸を補助するため、長い首により肺や気道の中の換気が悪くなるのを補うことができた。
 そしてこの検討の中で、アマルガサウルスの棘突起の下側3分の1は気嚢の支えで、上側3分の2は角質に覆われた棘であったとされている。外観としては1つの低く分厚い帆(または単なる背中側の盛り上がり)から対になった棘が生えていたことになる。
 この検討結果も広く支持されているというわけではなく、どのような姿であったかを示す有力な証拠は見つかっていない。
 棘突起を帆として考えると体温調節、棘として考えると捕食者やライバルに対する武器、どちらであったとしてもそれらに加えて視覚的ディスプレイとして機能したと考えられる。
 頸椎以外には後頭部、胴椎、前肢、仙椎、骨盤と後肢が発見されているが、最初に見付かったこのほぼ全身の化石以外は発見されていない。頭骨等は主にディクラエオサウルスを参考に復元されている。
 アマルガサウルスの化石が発見されたのはアルゼンチン・ネウケン州のラ・アマルガ累層である。当時は網状河川や湖のある平原で、その前の時代と比べて乾燥しつつあったが水場はあり、おおむね温暖な気候だったようだ。アマルガサウルスはこのような環境の中であまり高くない植物を食べていたと考えられる。

[ディプロドクス・カルネギイ Diplodocus carnegii]
学名の意味:アンドリュー・カーネギー氏の支援により発掘・復元された2本の梁
時代と地域:ジュラ紀後期(約1億5000万年前)の北米(ニューメキシコ、ワイオミング)
成体の全長:約26m
分類:竜盤目 竜脚形類 真竜脚類 新竜脚類 ディプロドクス上科 ディプロドクス科
 竜脚類の中でもジュラ紀後期の北米に生息していた大型種は、古くから知られていて研究が進んでいる。ディプロドクスを始めとするディプロドクス科の恐竜はその中でも、尾が非常に長く、前半身がやや低かった。
 ディプロドクスは全長ではかなり大きくなったが、細長い体形をしていて、体重ではそれほど大きくはなかったようだ。
 8m近い首は、棘突起が二股に分岐するなど基本的な構造はアマルガサウルスと共通していたが、棘突起が長く発達するような装飾的な特徴はなかった。ただし背中にほぼ正三角形をした角質の棘があった痕跡が1例のみ知られている。
 従来は首を高くもたげて高い木の葉を食べたと考えられていたが、現在では首を上向きに曲げた姿勢はニュートラルなものではないと考えられている。むしろ首を上だけでなく下や左右など広い範囲に動かすことで、巨体を維持するための多くの食料を体をあまり動かすことなく集めていたようだ。
 首の柔軟性がどれほどであったかは、頸椎の間の軟骨がどれだけ厚かったか、また頸椎の周りの軟組織がどれだけ関節の動きを妨げたかによる。恐竜の関節は哺乳類と違って軟骨によって形状が左右されていたようなので推定は難しい。
 後肢と尾だけで立ち上がって非常に高い木まで口を届かせたという説もあったが、現在はあまり支持されていない。
 細長い頭部はやや下に向いていた。口の先は幼体では幅が狭く、成体では幅が広かった。幼体のうちは早く成長するために栄養価の高い植物を選んで食べていたのではないかとも言われる。細長い歯が口先にだけ櫛のように生えていた。植物をよく噛みこなすというより葉を引きむしったり噛み切ったりしていたようだ。
 尾は非常に長く、全長の半分かそれ以上を占めた。先端の尾椎は非常に細く単純な形をしていた。尾の振り方によっては先端の速度が音速に達し、とても大きな音を立てたため捕食者に対する威嚇に役立ったという説もある。
 ディプロドクスの発見されているモリソン層は基本的には乾燥した氾濫原であったと考えられている。ディプロドクスは群れを成して、背の低い植物を中心に食べて生活していたようだ。セイスモサウルスという属だとされていた全長30m以上に達する恐竜は、属の独自の特徴が否定され、ディプロドクス・ハロルムと分類されている。

第四十六話
[タペヤラ・ウェルンホフェリ Tapejara wellnhoferi]
 タペヤラは、ブラジル・サンタナ州のアラリペ盆地にある白亜紀前期(約1億年前)の地層であるサンタナ層群のうち、上部のサンタナ層(ロムアルド部層)から発見された、翼長1.6m程の比較的小型の翼竜である。
 尾の短い翼竜の仲間であるプテロダクティルス類の中でも、短く背の高い、歯のないクチバシを持つタペヤラ類に属する。このクチバシの形状は大半の翼竜が持つ細長いクチバシとは異なっている。また上クチバシにへこみ、下クチバシに膨らみがあって噛み合うようになっていること、口蓋に突起があることも特徴である。
 またクチバシの上下の先端近くには薄い板状のトサカがあり、後頭部には後方に向かう角状の張り出しがあった。シノプテルスのような原始的なタペヤラ類にはトサカはなかった。
 タペヤラとごく近縁でサンタナ層群下部のクラト層から発見されているトゥパンダクティルス(タペヤラ・インペラトルとしても知られる)やイングリディアでは、上のトサカの前縁から後上方に向かって柱状の突起が伸び、この柱と後頭部の張り出しの間に、角質でできた大きな三角形の板ができていた。タペヤラにもこうした板があった可能性も指摘されている。
 またカイウアヤラというタペヤラ類の翼竜では様々な成長段階にあった化石がまとめて発見されていて、それによると幼体ではトサカがなかったのが、成長に伴ってトサカが発達したということが分かった。またクチバシの曲がり方も成長に伴って強まった。
 クチバシの側面には大きな楕円形の鼻孔があった。眼窩はその後ろに小さく開いていたが、強膜輪(眼球を補強する穴あき円盤状の骨)の検証によると明るいときでも暗いときでもよくものを見ることができたとされる。
 上腕骨以外長く発達した前肢および第4指、コンパクトな胴体、発達した胸骨など、羽ばたいて飛行することに適した特徴は他の翼竜と同じであった。
 しかしオルニトケイルス類やプテラノドン類のような極端に長時間飛行に適応したものと違って、胴椎は完全に癒合したノタリウムを形成せず、後肢は前肢の肩関節から第1〜3指末節骨(爪)までと同等の長さがあった。また骨盤や後足も体の割に大きかった。爪は全て全体が弧を描くフック状の形をしていた。
 翼竜の多くは魚食性・昆虫食性・腐肉食性というように動物性タンパク質を主食としていたと考えられているが、タペヤラの場合は果実や種子をつまんで噛み割るのに適したクチバシの形状や、木の枝を掴んで渡るのに適した四肢の形態から、樹上で果実や種子を食べていたという説も有力視されている。直接的な証拠はないものの、タペヤラ類の多様化と被子植物の多様化の時期が符合するなど、これを支持する間接的な証拠は多い。

[カラモプレウルス・キリンドリクス Calamopleurus cylindricus]
 ロムアルド部層からは体の立体的な形状や軟組織の構造までもが保存された、非常に保存状態の良い魚類の化石が多数発掘されている。魚の死体が外洋との連絡に乏しい入り江に沈殿した後、数時間程度にして素早くリン酸塩化したと考えられている。化石の中にはこのようにして短期間のうちに化石化したものもあるようだ。
 カラモプレウルスは中生代に繁栄したアミア目の一種である。現在アミア目は北米にアミア・カルヴァ1種が残るのみである。
 全長は最大で1.2mに達し、背の低い背鰭と、扇形の幅広い尾鰭を持っていた。流線型の頭部には丈夫な顎と太く尖った歯を持っていた。生きたまま丸呑みしようとした獲物に腹部を食い破られた化石が見付かっていることから、活発な捕食者であったと思われる。

[イエマンジャ・パルマ Iemanja palma]
 イエマンジャはピクノドン目に属する、全長30cm程の縦に平たい円盤型の体形をした魚である。大きな鱗と扇形の尾鰭を持っていた。
 ピクノドン目の魚は丸い歯と丈夫な顎を持っていて、固い食べ物を噛み割ることができた。イエマンジャはその中でも口がラジオペンチのように細く突き出ていた。

[イアンサン・ベウルレニ Iansan beurleni]
 エイ類はサメ類の中からジュラ紀には派生していた。イアンサンはより基盤的なガンギエイ目のサカタザメ科に属する、50cm程のエイである。前後に長い菱形の前半身と、長い尾を持っていた。現生のサカタザメ類のようにサメに似た尾鰭を持っていたようだ。

[アラリペミス・バレトイ Araripemys barretoi]
 第三十六話参照。

[セアラケリス・プラキドイ Cearachelys placidoi]
 アラリペミスと同じ曲頸類という、首を前後ではなく横に曲げることで甲羅の縁に収めるカメの中でも、ボトレミス科というグループに属する、甲羅の長さが30cm程度のカメである。
 現生の曲頸類が淡水に生息しているのに対して、ボトレミス科は主に海で堆積した地層から発見されている。このことに加えて、ボトレミス科の中には前肢の骨がウミガメに近い構造になっていて羽ばたいて泳ぐのに適応していたものが見られる。これにより、ボトレミス科は海での遊泳に適応した曲頸類であると考えられる。

[サンタナケリス・ガフネイイ Santanachelys gaffneyi]
 第三十六話参照。

[ダスティルベ・エロンガトゥス Dastilbe elongatus]
 サンタナ層から、化石が一般にも安価で販売されるほど多数発掘されている、ネズミギス目サバヒー科に属する魚類である。全長は10cm前後とごく小型だったが、体形は現生のサバヒーという魚によく似ていて、長いV字型の尾鰭など遊泳に適していた。

[ラコレピス・ブッカリス Rhacolepis buccalis]
 クロッソグナトゥス目に属する数十cmほどの魚類である。紡錘形の体と大きな口を持ち、現生のカライワシのように胸鰭が下寄りに付いていた。体形が立体的に保存された化石が多数知られる。

[クラドキクルス・ガルドネリ Cladocyclus gardneri]
 イクチオデクテス目という、アロワナにやや近縁な大型の肉食魚類のグループに属している。全長は1.2mにもなるが、イクチオデクテス目の中では小型であった。高さがほとんど一定の長い胴体と、後ろに寄った背鰭や尻鰭、V字型の長く発達した尾鰭を持っていた。ピラニアのように上向きになった口には鋭い円錐形の歯が並び、目は上寄りに付いていた。

[ヴィンクティフェル・コンプトニ Vinctifer comptoni]
 アスピドリンクス目という魚類の典型的な体型を持つ、全長70cmになる魚類である。胴体は長く、吻部の先端が尖って突き出ていた。尾鰭は浅いV字型だった。縦長の厚く大きな鱗が胴体に並んでいた。

[アクセルロディクティス・アラリペンシス Axelrodicthys araripensis]
 第二十二話参照。
 淡水湖で堆積したクラト層からも、汽水の入り江で堆積したサンタナ層からも発掘されている。

[イリタトル・カレンゲリ Irritator challengeri]
 バリオニクス(第七話参照)と同様スピノサウルス科に属する推定全長8m前後の魚食性の恐竜である。体形もバリオニクスとよく似ていたと考えられる。アンガトゥラマと名付けられた同じロムアルド部層から発掘されているスピノサウルス類もイリタトル属にふくまれると考えられている。バリオニクスやスピノサウルスと比べて吻部の幅が狭かったようだ。

[プルリカルペラティア・ペルタタ Pluricarpellatia peltata]
 第三十二話参照。
 サンタナ層群のなかでも下部のクラト層からは特に保存状態の良い植物化石が多数発掘されているが、そのうち6割はグネツム類(グネツム科、マオウ科など)やナンヨウスギを始めとする裸子植物が占めるものの、3割はジュンサイに近縁なプルリカルペラティアを含む多様な被子植物である。

[アンハングエラ・サンタナエ Anhanguera santanae]
 オルニトケイルス類の中でも典型的な姿をした、翼長5m程の翼竜である。タペヤラと同じくロムアルド部層から発見されている。
 クチバシは細長く発達し、円錐形の歯が規則正しく並んでいた。上下の先端には正中線に沿って低いトサカがあった。後頭部の三半規管の向きから、クチバシはやや下向きに保たれていたようだ。
 前肢の翼は上腕骨以外、特に第4指が非常に長かった。上腕骨は太く、筋肉の付着する突起が大きく発達していた。第1〜3指の爪はネコ科のもののように太くスパイク状だった。
 やや近縁なプテラノドンでは指骨に外向きの孔が開いているのが見付かっている。翼竜も鳥類に見られる気嚢と気管を持っていたと考えられるが、この外向きの孔は翼の骨の外にも気嚢があった可能性を示すことから、腕と皮膜の間にできる段差を気嚢により埋めていたという復元の例もある。
 胴体はコンパクトで、胴椎が癒合してノタリウムという一体の骨を形成していた。肩甲骨と鎖骨がノタリウムと胸骨をつなぎ、翼にかかる力を受け止める丈夫なリングとなっていた。羽ばたくための筋肉の基部となる胸骨も発達していた。
 骨盤は小さく、後肢は弱々しかった。後肢の爪はほとんど曲がっていない小さなものだった。
 洋上を長時間飛び続け、水面近くの魚をクチバシと歯ですくい取って食べたと考えられる。魚をすくうとき、トサカによって水を切ることで抵抗を少なくしていたようだ。
 地上では前肢の第1〜3指と後肢で4足歩行をしていたようだ。飛び立つときも前肢の力を主に利用していたとも言われている。
 サンタナ層群からはこの他にもより大型のオルニトケイルス類であるトロペオグナトゥスや、タペヤラ類に近縁だが魚食性と考えられているタラッソドロメウスやトゥプクスアラ、タペヤラにごく近縁だがより大型のトゥパンダクティルスやイングリディアなど、多様な翼竜が発掘されている。

第四十七話
[エウパルケリア・カペンシス Euparkeria capensis
学名の意味:東ケープ州で発見されたウィリアム・キッチン・パーカー氏の良い動物
時代と地域:三畳紀中期(約2億4500万年前)の南アフリカ
成体の全長:60cm〜1m
分類:双弓類 主竜形類 エウパルケリア科
 エウパルケリアは、現在最古の恐竜が確認されている時代より少し前の時代に生息した肉食の爬虫類である。
 細長い体と全長の半分近い尾を持つなど、全体の体型はオオトカゲにやや似ていたが、ワニや恐竜、翼竜などを含む主竜類に近縁であった。
 かつては恐竜や翼竜といった後のほうに現れた主竜類の祖先に当たるものと考えられていたが、現在では主竜類全体に対して基盤的な位置にあるものとされている。
 頭部は大きく、胴体と同じ高さがあった。顎にはナイフ状の歯が生え揃っていた。
 眼窩は丸く大きなもので、さらに強膜輪(眼球を補強する穴あき円盤状の骨)の形態から、暗いときでもものが見えたと考えられる。これはエウパルケリアの発掘された地点が当時南緯65度のところにあり、冬季には長い夜が続いたことと関連しているとされる。
 背筋に沿って皮骨板という鎧のような骨が並んでいた。
 四肢はやや細長く、また後肢のほうが長かった。恐竜の祖先とされていた頃は恐竜と同じく、後肢を真っ直ぐ下におろして二足歩行をしていたと考えられていた。
 実際には恐竜やその近縁種と比べると後肢を真下に伸ばす仕組みはそれほど発達しておらず、二足歩行をするのは走るときだけだったようだ。
 エウパルケリアが発見された南アフリカのカルー盆地は、三畳紀には時折干魃が起こるような氾濫源であった。同じ地層から哺乳類につながる系統のキノグナトゥスなど様々な陸上動物の化石が発掘されている。

第四十八話
[スミロドン・ファタリス Smilodon fatalis
学名の意味:致命的な短剣の歯
時代と地域:後期更新世〜前期完新世(約160万〜1万年前)の北米
成体の全長:約170cm
分類:食肉目 猫型亜目 ネコ科 マカイロドゥス亜科 スミロドン族
 剣歯猫(セイバートゥースドキャット)または剣歯虎(サーベルタイガー)とは、上顎の犬歯がとても長いネコ類のことである。狭義にはネコ科マカイロドゥス亜科を指すが、ニムラヴス科のものや、ネコ類と近縁でない有袋類のティラコスミルスを含むこともある。
 スミロドン・ファタリスは代表的な剣歯猫のひとつである。単に剣歯猫と言った場合スミロドン属のみを指すことも多い。
 ファタリス種は北米に約1万年前まで生息し、渡来してきたヒトと生息期間が重なっていた。より小型のグラキリス種から北米のファタリス種に進化し、またグラキリス種は南米ではさらに大型のポプラトル種に進化したと考えられている。
 全体的には現生の大型ネコ類とよく似ていたが、全長や肩高では同等のライオンと比べ頑丈な体型をしていて、体重では倍になったとも言われる。
 上顎の犬歯は特に長く、20cmほどに達した。全体が円弧を描き、前後に幅広くて左右には薄く、後方の縁が鋭い、刃物のような形状をしていた。さらに刃にはごく細かい鋸歯があった。
 幼体では犬歯は短く、成長にともなって一ヶ月で6mmの早さで伸びた。
 犬歯の歯根部も外に出ている歯冠部と同等の長さがあり、目と鼻の間に歯根が収まる隆起を作っていた。これにより吻部が高く、現生のネコ類と違って眉間に段差のない横顔になっていた。また下顎を120度開くことができたため、長い犬歯があってもものを噛むことができた。
 上顎の犬歯以外の、前歯や下顎の犬歯、臼歯は小さかった。また噛む力は現生の大型ネコ類と比べれば弱かった。
 神経孔という顔面に通じる神経の通る穴が発達していた。また嗅覚や聴覚、運動時の感覚は現生ネコ類と同等だったが、視覚や立体視能力では劣った。
 首はやや長くしなやかだったが、胴体は逆に短く幅広かった。
 前肢や肩甲骨が非常に力強く発達していた。走るより叩いたり押さえつけたりするのに適していた。
 後肢は中足骨(足の甲)が短く、また踵骨が発達していて、前肢同様走るより跳び出すことに適していた。
 尾は短く細かった。
 非常に長い犬歯をどのように用いたかについてはあまり解明されていないが、狩りに使われないディスプレイであったという説や、マンモスのようなとても大きな獲物の分厚い皮を縦に長く切り裂いたという説は、こんにちでは省みられていない。
 バッファローほど、またはより小さい獲物を倒して押さえつけ、頸椎を避けて腹側から喉の気管や血管を切り裂いたという説が現在有力である。このとき下顎や首の力も利用したとも言われ、これを「犬歯剪断咬合(canine shear-bite)」という。
 この方法で狙う位置は、現生ネコ類が背中側から頸椎を噛み砕く場合の反対であり、実現するには前肢の力で獲物を倒して押さえつけることが欠かせない。
 速力に優れないことと合わせて考えると、獲物を追いかけ、追いつき次第噛みつくのではなく、藪などに隠れて獲物に近付き、飛びかかって倒したのではないかとされている。
 このような狩りの方法と合わせて、草原より森林や密林に生息したと考えられている。ただ木に登ることはできなかったようだ。
 現生ネコ類で群れをなすのはライオンのみだが、スミロドンの場合は群れをなしたかどうか意見が分かれている。
 カリフォルニアのランチョ・ラ・ブレア・タールピットというタール(天然アスファルト)の沼から非常に多くのスミロドン・ファタリスとカニス・ディルス(ダイアウルフ)の化石が発見されている。これはスミロドンがタールにはまった獲物の在処を遠吠えで仲間に伝えたところ集まったスミロドンまでタールにはまってしまったという群れの行動の痕跡だとする説と、獲物に誘われてタールに次々とはまるほど知能が低く、よって複雑な群れをなすことはなかったとする説がある。
 犬歯が折れたまま暮らしていたと考えられる個体の化石も発見されていて、これは犬歯を狩りに使わなくても群れの仲間の協力によって餌が得られた個体ではないかと言われている。
 姿の復元について、長い犬歯が口を閉じてもはみ出すように描かれるのが一般的だが、近年ではこれに対して、たとえ長くても現生ネコ類の犬歯と同様口の中に隠れたはずだという異論が出されている。
 この根拠は例えば以下のようなものである。
 現生の哺乳類でむき出しになっている牙は全て、異性や闘争の相手にアピールしたり、土を掘ったり、木の皮をはいだり、敵を撃退したりするのに使う、植物食または雑食の動物、あるいはセイウチの「tusk」である。
 これに対して、肉食動物が獲物にとどめを刺すのに使う「canine」は全て口の中に隠され、表面のエナメル質が保護されている。
 現生のウンピョウも一部の剣歯猫に劣らないほど長い犬歯を持つが、それを口の中に全て隠している。
 スミロドンの頭骨に見られる大きな神経孔は感覚毛(ひげ)だけでなく牙を隠す唇やウィスカーパッドに通じる神経のためでもあったと考えられる。
 フランスのイステュリ洞窟の遺跡から、当時の住民がスミロドンと同じマカイロドゥス亜科に含まれるホモテリウムを見て作成したと思われる彫像が見付かっているが、顎の先端が高くなっているだけで犬歯ははみ出ていない。
 以上のような根拠に基づいて牙を隠したスミロドンのイラストもいくつか発表されているが、正確な復元のためには、唇やウィスカーパッドをどのように動かして牙を隠したりむき出しにしたりするか、筋肉の動きを検討する必要があるだろう。
 また他の剣歯猫では犬歯の先端に沿うように下顎の先端が高くなっているのに対してスミロドンではそうなっていないので、スミロドンの場合だけは剣歯の先端を収める部分が軟組織だけで出来ていたと考えることになる。

第四十九話
[ホモ・ネアンデルターレンシスまたはホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人) Homo neanderthalensis or Homo sapiens neanderthalensis
学名の意味:ネアンデルタール谷で生まれた人間、またはネアンデルタール谷で生まれた賢い人間
時代と地域:後期更新世(約30万年前〜2万年前)のヨーロッパ〜中央アジア
成人の身長:約1.6m
分類:霊長目 直鼻猿亜目 真猿下目 ヒト上科 ヒト科 ヒト亜科 ヒト族
 ネアンデルタール人は、ヒト(ホモ・サピエンスまたはホモ・サピエンス・サピエンス)に最も近縁な種のひとつである。
 ヒト科は主にアフリカで多様化した。ヒト族(ホモ属に加えアウストラロピテクスやサヘラントロプスなどを含む)は東アフリカまたは中央アフリカで最初に現れたという説が主流だが、ヨーロッパが起源だという説も浮上している。
 ネアンデルタール人はヒトより先にアフリカから中東を経てヨーロッパや中央アジアに進出した。ヒトの直接かつ主要な祖先ではないとされる。
 主な特徴はヒトと非常に近いが、顔付きや体型、文化に独自の点が見られる。
 脳容量はヒトを一割近く上回っていた。頭蓋骨は後ろにやや長い形をしていた。
 眉間の隆起が高く、顔面中央部がやや前に出ていた。鼻孔は大きく、鼻が大きかったようだ。また眼窩が大きかった。顎にはおとがい(先端部)の突出がなかった。
 胴体が大きく丸みを帯び、四肢は少し短く丈夫だった。
 遺伝子解析から肌、毛髪ともに色が薄かったことが分かっている。胴体と四肢のバランスとも考え合わせて、アフリカからヨーロッパに北上したことで熱を逃がしにくく日光を透過しやすくなるという、寒さへの適応が進んだとされている。
 数々の遺跡から生活の様子について推定が進められている。
 最も多く見られる遺留品は打製石器である。
 単に石の端を打ち砕くという初歩的なものではなく、まず大きな石の形を整え、その石から割り取った剥片をさらに加工するという方法で様々な形の石器を量産していた。これをルヴァロワ技法という。
 手に持って尖った刃を叩きつけるのに使う大型のハンドアックス、哺乳類の毛皮をなめすのに使うスクレーパー、木の軸と組み合わせて槍にする尖頭器、ナイフ等、用途に合わせた様々な石器が発見されている。
 これらは打製石器としては洗練されていたが、30万年近く続くネアンデルタール人の歴史を通じて、石器の形状や製法が改良されることはなかった。この点からネアンデルタール人は保守的な性質だったと言われている。
 石器と比べて残りづらいためもあり数は少ないが、骨や木で出来た道具も発見されている。元々先端を鋭く削った木製の槍を用いていたのが、後に石器の穂先と組み合わせたようだ。
 明確に飛び道具と分かる猟具や武器は見付かっていない。怪我が非常に多かったことも分かっていて、大型の獲物に対しても接近して捕らえようとしたと考えられている。
 縫い針が見付かっていないことから、衣服は非常に簡素だったと考えられている。
 穴を掘って死体を埋葬した痕跡が発見されている。骨には獲物と同じく肉を削ぎ落とした痕跡があるが、食人習慣の有無や、葬儀をする上での意味付けについては分かっていない。
 レッドオーカー(酸化鉄を含む赤土の顔料)を収めた二枚貝の殻や、鳥の羽で作った装飾品、ワシの爪を集めていた痕跡等も発見された。以前は化粧や装飾に関するものはあまり見付かっていなかったが、これらにより祭事や美術などの抽象的な思考に基づく文化を持っていた可能性が出た。
 大型の獲物の肉を食べた証拠が多く見付かっているが、ウサギのような小型の獲物、魚介類、植物も食べていた。ネアンデルタール人より前の段階ですでに加熱調理を行っていたようだ。
 植物やカビに含まれる痛み止めや抗生物質を利用した痕跡も発見されている。
 後からアフリカを出たヒトに対して、狩猟をはじめとした生活の技術を向上させる能力に劣っていたために絶滅したと考えるのが一般的である。
 ただしヒトが進出してすぐにその地域から姿を消したのではなく、共存していた時期があったようだ。
 さらに慎重な遺伝子解析の積み重ねにより、アフリカ以外のヒトにはネアンデルタール人由来の遺伝子が1〜2%含まれていることが明らかになった。これは中東地域で出会ったヒトとネアンデルタール人が性的に接触したことを表している。

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