Lv100第十七話
「ケリュネイアの鹿 -乃理亜と1番から1462番(大幅に欠番あり)-」
登場古生物解説(別窓)
 私が物心付く前には、両親は肉牛を止めてパラサウロロフスを飼い始めていた。十五年前のことだ。
 そのときは補助金だとかを考えてのことで、うちの牧場が研究者だけでなく一般の見学者まで受け入れることになるとは思っていなかったそうだ。
 土がむき出しの農道の先に駐車場がある。広場は時計塔の付いたゲストハウスや屋台に囲まれている。多くのお客様を迎えるためのものだ。
 門の代わりに植えられたモクレンは六分咲きになった。
 午前十一時、予定の時刻ぴったりに、町の博物館から見学ツアーのバスが着いた。
 今やうちは教育的価値さえ認められた公共施設なのである。
 博物館のキャラクターがあしらわれたバスの前扉から、すらりとした爽やかな青年が降り立った。何年か前からうちのパラサウロロフスを研究している鈴鹿さんだ。
 続いて見学者のかたが十数人、当然のことながら親子連れが目立つ。あとはカップルが数組と初老の夫婦。詳しそうなのは小学生の男の子くらいだ。熱心な人は直接来るからか。
 鈴鹿さんは私の正面に見学者さん達を並べた。
「ようこそ、かべ恐竜牧場にお越しっく」
 噛んだ。
「……お越しくださいました。本日皆様のご案内をいたします、鴨部乃理亜(かべ・のりあ)と申します」
「乃理亜さんは牧場を経営している鴨部さんの娘さんで、小さな頃からずっとお手伝いをしているので私より詳しいですよ。ツアーガイドは初挑戦ですが、牧場の案内自体には慣れていますのでご安心ください」
 鈴鹿さんがフォローしてくれてなんとなく拍手が起こり、私は一礼で応えた。
「では、最初は……、恐竜料理のバイキングからですね。こちらの建物に食堂があります」
 扉を大きく押し開け、時計塔の下のホールに入った。
 天窓から光の差し込む青白い空間に、華奢な骨格が一体浮き立っている。子供のパラサウロロフスの骨格標本だ。
 腰は人の頭と同じくらいの高さがあるが、背中は深くかがむように曲がって、肩と頭は低く、草を食む姿勢をしている。幅の狭い胴体と板のような尾を細い四肢で支えている。
 トサカは大人ほど長くないが、流麗な顔面のラインを形作っている。
「これは、この牧場で育てられたパラサウロロフスの骨格です」
「博物館のより小さいね」
 男の子が言った。博物館に納められているのは高さと全長で倍になる大人の骨格であり、見学ツアーでこの骨格に驚く人はまずいない。
「この大きさになったらお肉として出荷することになっていますから。あんまり大きくなりすぎると世話をしきれませんし、柔らかくて美味しいうちに出荷するんです。それと、こういう骨格標本もここの重要な生産物で、全国の博物館に出荷しています」
「なんかえげつないなあ」
 丸っこい初老の男性が、隣の部屋の食堂に目を向けながら苦笑した。かといって何も置かないとこのホールは寂しいし、どうしたものかな。
 ともかく食堂へ見学者さん達を通した。ちょうどバイキングの料理が出されたところだ。
「この牧場で育てたパラサウロロフスのお肉を、部位ごとにぴったりの料理法でお出ししています」
 つまり、ほほ肉のワイン煮、肩ロースの一口ステーキ、スペアリブのロースト、もも肉のカツ、背骨の腱から出汁を取ったスープ、もつと根菜の煮込み、等。
 全員席を確保して並び始めたところで、ほほ肉のワイン煮だけは私が直接配る。
「ほほ肉は貴重な部位ですので、この機会にお一人様お一つずつどうぞ」
「パラサウロロフスは植物をよく噛んで食べるので、ほほ肉に当たる筋肉が発達してるんですよ」
 鈴鹿さんの補足。
 こちらの列をよそに、私からほほ肉を受け取らず野菜料理のコーナーに向かうカップルが一組いた。
 色々な理由で恐竜肉が食べられない人がいるものだ。どこの聖典でも造物主は人間に恐竜を与えていないし、どこの国や地方でも恐竜料理の伝統はない。もちろん野菜でもない。
 とはいえ心理的な抵抗なく食べられる人にとってはパラサウロロフスの肉は食べやすいものだ。
「さっぱりしてるね、鶏肉みたい」
「並んでるやつ一個ずつ食っちゃおうか」
 そうしてもらおうと思ってどれも一個の大きさを小さくしてある。
 早々に食べ終えてグッズの売店を覗く人もいた。私は白髪の婦人に声をかけてみた。
「お食事はお楽しみいただけましたか?」
「ええ、お肉もお野菜もとっても美味しかったわ。この革は恐竜の革?」
 パラサウロロフスの革を使った財布やキーケースの店だ。革は濃淡のある青灰色で、丸く細やかな鱗で覆われている。それに抜けた歯のストラップや、背筋の大きな鱗をそのまま使った爪やすりなど。
「鰐革みたいに重々しくないのがいいわね」
「ありがとうございます」
 余裕のある時間配分だったが、むしろ早めの出発を望む声が多かったので食堂を引き上げた。
 ゲストハウスの前には大型のトラクターが、屋根付きの荷台を曳いて待機していた。
「この遊覧車で、まずは繁殖用の大人のオスを見に行きます」
「博物館にあった骨格より少し大きい個体ですよ」
 ついに実物が見られるとあって、乗り込む見学者さん達の目も輝いてきた。
 トラクターは歩くより速い程度でゲストハウスを離れ、竜舎の裏を通り、林の中の道へと進んでいく。
 ほどなくして向こうに林の途切れ目が見え、そこから距離を置いてトラクターが止まった。
 私は荷台の壁にかけてあった長いラッパを手に取った。
「それなに?」
「これでパラサウロロフスを呼ぶんですよ」
 見学者を荷台から下ろしてその場に留め、私はよく注意した。
「この先にいるのは、最初からここで飼われているオスの「一番」です。パラサウロロフスは基本的には大人しい恐竜ですが、大人のオスは警戒心が強くて敏感です。驚かすとものすごい大声を出しますから、くれぐれも驚かさないようにお願いします。このラッパで私達が近付くのをそっと知らせながら見に行きますからね」
 私の後に鈴鹿さんと見学者が続き、林の向こうの柵に近付いた。
 ブウウ、ブウウ、と、ラッパで低い音を鳴らす。カップルがまだ喋っているし、不安が残る。
 木のない窪地が見えると、広い脇腹がそこにあった。
 鮮やかな朱色のトサカが屹立する。背の高い胴体と縦に幅のある真っ直ぐな尾が、力強い後肢で水平に支えられている。
 奥の方にいてくれればよかったのに、一番は二十メートルもないところにいたのだ。
 しかも見学者さん達の匂いでこちらを気にしている。その眼光は草食動物というより野獣というべきものだ。
 ちょっと不味いと思った直後。
「きゃー!」
 すぐ後ろから嬌声が聞こえてきた。
 そしてそれはすぐにかき消された。
「ボオオオオオオオオオオオオオオオオ!ボオオオオオオオオオオオオオオオオ!ボオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 柵をきしませる凄まじい音圧。他のパラサウロロフスに聞こえてしまう。
 私は見学者さん達に気を配ることも忘れてラッパを鳴らした。
 プププウ、プププウ。危険が去ったと確認できたことを伝える鳴き方だ。
 ラッパを吹きながら私は自分の言い方が不適当であったと反省した。叫んだ女性にとって、ああいう嬌声は驚くようなものではなく普通のものなのだ。私は「声を出すな」と具体的に言うべきだった。
 なんとか一番がラッパを聞き届けて黙ったとき、見学者さん達はほとんど、一番が見えるところまで近付いていた。
 一様に目を丸くしてはいたが、ごく小さな子供を除いては特に怯えてもいなかったようだ。
「いやあ、恐竜って感じしたなあ」
 初老の男性が笑っている。
 鈴鹿さんは見学者さん達のそばではなく私の横から現れた。一番が叫びだしたとき率先して見に来たに違いない。
「博物館でご説明したとおり、すごい大声だったでしょう。群れの仲間に注意を促すための警報ですね。あそこまで大声を出すのは普通オスだけなのです。それで、野生ではオスが肉食恐竜を見付けたときに叫び声を上げ、メスや子供に危険を知らせて逃がしていたようです」
 鈴鹿さんは嬉々として説明し始めたが、その続きはトーンが落ちた。
「なので、他のパラサウロロフスが今のを聞いていたら、落ち着きを失っているかもしれませんね。こちらに近付いてくれなかったり……」
 叫んだ本人らしき女性はしおらしくなっていた。
「ごめんなさい」
「何してんだよおめー」
 彼氏らしき男性がなじった。
「ああ、お気になさらず。心強い味方がついてますから!」
 そう言って鈴鹿さんは手をこちらに向けた。
「乃理亜さんのラッパを聞けばパラサウロロフス達も安心して近寄ってきてくれますよ」
「あ、まあ、一番もすぐ鳴き止みましたし今回は大丈夫かと」
 また拍手が起こりそうになったが鈴鹿さんが抑えた。
 再びトラクターの荷台に乗り込み、来た道を戻って反対に向かう。
「ガイドって、なかなか上手くいかないですね」
 私は見学者に聞こえないよう、そっと隣の鈴鹿さんに言った。
「その場ごとに少しの人に案内するのは簡単なのに」
「あれ、僕は割と上手くいってるなと思ってましたよ?」
 鈴鹿さんは飄々としている。
「さっき一番さんが吠えたのは……、博物館のツアーにああいう感じのかたが来ると思わなくて。こちらにも責任があります」
 鈴鹿さんは上着のポケットからICレコーダーを取り出し、いたずらっぽく笑った。
「館内の説明で実際の鳴き声を聞かせておくべきですね」
「録音してたんですか……」
 全く流石と言うほかない。
 トラクターは林を抜けて明るい農道に出た。両脇には菜の花やムスカリ、それに少しだけど梅も咲いている。桜には少し早い。
 花の向こうに見える野菜畑などを解説しながら進んだ。バイキングで出したのも大部分ここの野菜だ。
 そうして途中にある倉庫の前で一旦止まり、小さなバケツを一人一つずつ積み込んだ。
「これから、子供のパラサウロロフスに餌をあげます。上のほうに固いものを積んでありますから、この順番のままにしておいてください」
「どんぐり!」
「大きくなったパラサウロロフスは固い木の実も食べられるんですよ」
「イベリコ竜だ」
 誰かが笑った。どんぐりで恐竜を育てる実験があったはずだけどどうなっただろうか。確かあれはプシッタコサウルスだったが。
 トラクターはやがて、丘ばかりがひたすら連なる放牧地に出た。
 薄く霧がかかる草原はまだ緑が薄く、ごくまばらな木々は裸同然だ。そこかしこに一番よりずっと小さなパラサウロロフスの姿がある。
「この牧場の敷地の大半は、子供のパラサウロロフスのための放牧地です。五百頭のパラサウロロフスを育てています」
 驚きの声が起こる。
「あ、ほら。そこにも集まっていますよ」
 木立から離れた日向に、十数頭の群れができていた。幸い、落ち着いた様子であった。
 背中の高さが人間の背丈ほどにもなる出荷間近の五歳児が、緩やかに輪を作り、手を地面について食べられる草を探していた。
 内側にもっと小さな子供がいて、柴犬のように小さな当歳児の姿もあった。小さい子供ほど肌が黒っぽい。また、トサカがはっきりしてくる二歳以上になるとオスのトサカは一番のように赤くなっていくが、小さな子供やメスのトサカは黄色っぽい。
 観察するのに丁度いい。トラクターはそこで止まった。
「さあ、近くで見てみましょう」
 私はラッパと木の枝を手に荷台を降り、鈴鹿さんと見学者さん達が後に続いた。
 ラッパを吹く前から子供のパラサウロロフス達はこちらに振り向き始め、手を浮かせて二本足で近付いてくるものもいた。
 私も柵を開け、ラッパを吹きながら近寄った。ポーン、ポーンと、低く繰り返す音で、大人のメスの真似をして。
 振り返ると見学者さん達が入り口に留まっているので、そちらにもラッパを吹いた。笑って入ってくる。
 怖くないよ、とお子さんに声をかけているのが聞こえる。
 確かに五歳児でもさほど威圧感はない。パラサウロロフスは正面から見るとかなりほっそりとした動物である。それに、子供の動物らしく、未完成なあどけない顔つきをしている。トサカが顔より短い。
 先頭になっていた大きなメスの五歳児が私と向き合った。
 背筋に沿って一列に並んだ大きな鱗のうち四つに、前から順に茶、黒、赤、青のペイントが施されている。千二十六番という番号が付いた個体だ。
 油断して噛まれる人が出る前に、木の枝を見学者さん達に見せた。
 そして枝を差し向けられると千二十六番は迷わず幅広のクチバシでくわえ、ばりばりとかじっていった。
「このように、大きなものは固い木の枝でも食べてしまいます」
「噛まれたら大変だよ」
 母親がお子さんに注意した。
「はい。口以外の部分に触ってください。それから、バケツの中の餌は大きなパラサウロロフスに先に食べさせて、底のほうの麦や柔らかい野菜は小さな子供にあげてください」
「わっ、もう来てる!」
 説明しているうちに私達は五歳児に囲まれていた。
「もうあげていいの?」
「はい、どうぞ」
 バケツを差し出すとすぐにクチバシを突っ込み、がりがりと音を立ててどんぐりをくわえ取っていく。
 どんぐりを充分頬張ると、五歳児達は退いてそれをゆっくり噛み砕き始めた。
「わ、ご飯食べるみたいに普通に食べてる」
 固い殻をものともしない顎の力に見学者さん達が驚いている間にも、今度は四歳児や三歳児が首を突っ込んできて乾燥トウモロコシや麦をかき込む。
 すっかりパラサウロロフス達のペースで餌やりが進み、見学者さん達はただ笑いながらバケツを向けるしかなかった。
 しかも餌と関係なく近付いてくるものもいる。
「ちょっ、頭突きしてきた!」
「マーキングされてる!」
 お腹の空いていなさそうなパラサウロロフスが、見学者さん達の脚や背中にトサカを押し付けている。
「あっ、トサカが痒いのでこすりつけてくることがあるんですよ。言い遅れてすみません」
「トサカはどんどん長く成長していきますからね、皮膚の代謝も早いんです。普通は仲間同士で行います」
 鈴鹿さんは餌を持たず、外側から解説していた。
 三歳児や四歳児も餌を口に溜め込んで噛みしめ始めた。残った小さな子供には、ニンジンを手渡ししたりビール粕を掬って与えることができる。
 パラサウロロフス達はリラックスしきっていて、脇腹に抱きつくなどされてもちょっと押し返す程度で済ましていた。五歳児になるとウシより大きく見える生き物だが、人間も他のパラサウロロフスも同じと感じるように育っていて何も反発することがない。
 餌が尽きても触れ合いは続き、広々とした放牧地に和やかな時間が流れた。
 といっても私と鈴鹿さんは、見学者さん達やパラサウロロフスの様子に加えて時計にも気を配っていないといけなかった。
「皆さん、もうそろそろ最後の見学ポイントに向かうお時間ですよー!」
「今度は卵を産ませるための大きなメスを見に行きますよー!」
「はーい!」
 出発を渋る小さなお子さんもいたが、再び全員トラクターの荷台に乗り込んだ。
 放牧地をさらに奥まで進むと次第に高い木が増えていく。プラタナスにメタセコイア。白い花の咲いたモクレンも目立つ。
 その途中に、間を太い棒で繋がれた木々が見えてきた。
「生きた木をそのまま使った、大きな柵です。この向こうに成長しきったメスのパラサウロロフスが六頭、成長途中のが四頭います。国内で見られる最大級の恐竜です」
「向こうの木、なんか変だね」
「キノコみたい」
 柵の向こうの木は高さ数メートルのところまで枝がなく、幹が金網で覆われている。
「ああしておかないと木の皮まで剥がしてしまうので、保護してあります」
 トラクターがエンジンを止めると、すでにあちらから鳴き声を発していた。
 ポォーン、ポォーン、ポォーン。
 薄い霧の向こうから、低く伸びる鳴き声がこだまのように重なる。常に鳴き交わしてお互い離れすぎないようにしているのだ。
 ラッパで応えると鳴き声はこちらに向いた。
 影がうっすら見えてきたが、真っ直ぐ近付いてくる彼女らはやはり縦長でやせているように見える。
「あんまり大きくない?」
 しかし輪郭がはっきりしてきた頃、見学者さん達から嘆息が漏れ始めた。
 腰の高さはゾウと同じか少し高く、隆々とした太ももが出っ張っている。目線の高さに膝がある。長い胴体と尾は縦にも幅広く、一枚の壁のよう。首は太く、口の先から黄色いトサカの頂上まで人の背丈に近い長さがある。
 繁殖のために完全に成熟させたパラサウロロフスのメス六頭と、いずれそうなるであろう四頭が柵の向こうに横並びになった。
 さらに手をついてかがみ、クチバシだけ柵のこちら側に突き出してくる。
「これをお一人一本ずつどうぞ。噛まれないように充分ご注意ください」
 ニンジンを配るとメス達も気付いて鼻息を荒くした。差し出されると次々と勢いよく噛みちぎってしまい、見学者さん達も驚きの声を上げるばかりだ。
「恐竜、だねえ」
 そんな言い方も聞こえてきた。
 私にとっては物心ついたころから一緒に育ってきた普通の動物だが、こうして見学者さんの声を聞くとそれが特別な事なのだと実感する。
「こういう大きいのも食ってみたいよなあ、せっかく恐竜なんだし」
 丸っこい初老の男性がそう言って笑った。奥さんに何を言うのかと腕をはたかれているが、
「実は、大きく育ったものを食べられる場合もありますよ。あちらの丘の上をご覧ください」
 私は、放牧地になっていない芝生の丘を手で指し示した。
 石碑が二つ並んでいるのが木の合間から見える。隠すようなことではない。
「以前繁殖用だった二番と四番が、それぞれ死亡した時に建てたものです。お肉は安全を確かめてから、私達スタッフと、そのときに居合わせた見学者の皆さんと一緒にいただきました」
「博物館にある骨格は、二番さんのものです。解体業者の方と私達学芸員が共同で解体しました。四番さんの骨格は東京にあります」
 初老の男性はばつが悪そうに頭をかいた。
 その後ろで一組のカップルが両手を組んで石碑に祈っていた。最初に野菜だけ食べていたカップルだ。
 他の見学者さんもそれに倣って手を合わせた。
 私も石碑を拝みながら二番と四番の追悼祭を行ったときのことを思い出していた。二回とも正直味わっている場合ではなかったものだ。
「大成功なんじゃないですかね。皆さんパラサウロロフスを気に入ってくれたようですよ」
 鈴鹿さんがそっとささやいた。
「そうですね。ありがとうございます」
 顔を上げると、おやつを食べ終えたメス達が竜舎のほうに帰っていくところだった。
 白いモクレンの花が咲く下を、パラサウロロフス達は霧ににじんで歩き去っていった。
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