ロックマンDASHショートストーリー 4
「居住区戦線異常無し」
居住区のゲートが開かれたことで、中のリーバード達も長い眠りから覚めて活性を高めだした。
とはいってもやはり、実際に侵入者が現れるまでは皆ぴくりともしない。
大型戦略リーバード「ガイニー・トーレン」は、三つに別れた箱状の腹部を後ろに並べてたたずむ。
その角ばった巨体は相変わらず周りの建物と大差なかった。
腹の中には、たくさんのレッドホロッコ達が蜂の巣さながらに敷き詰められている。
さらにその間のわずかな隙間に、シャルクルス達が脚を突っ込んで立っていた。
動きはなくても、三つの空間のどれでも絶えず電磁波が飛び交っている。来たる侵入者に備えている者が、整理した記録を他の者に分け与えているのだ。
中央の区画はしばらく前から、最も出口側のシャルクルスが放つ信号だけに満たされていた。
その内容は、戦場を駆け、爪を振るい、敵を倒す彼の姿。ガイニー・トーレンに搭載される以前に彼が敵を破壊してきた記録である。
ホロッコ達に、侵入者が現れたときの参考にさせようというつもりだ。
百戦練磨の彼の戦闘記録はなかなかに膨大であり、彼がこなしてきた状況は非常に様々だった。
当然、伝えるにはかなりの時間がかかる。
そして彼らも結局は生き物だ。
二時間もたった頃、一体のホロッコが扉際で短いパルスを発した。
特に意味のない信号だが、隣のホロッコが応える。
そこに鋭い喝が直送。
二体はすぐにシャルクルスに集中した。
この区画内にいる他のシャルクルス達は、仲間の様子を見守りながら一言も発しない。
彼らがよく理解していたのはむしろホロッコ達のほうの意識だった。
構造も機能も異なるホロッコに、シャルクルスの経験が役に立つか疑わしいと分かっていたからだ。
だがあえて止めることはせず、説教好きのシャルクルスはその後も自らの戦歴を謳い続けた。
演説は終わり再びの沈黙。
「無駄口」を叩いたホロッコが、また隣のホロッコに呼びかけた。隣も応える。
(どんな侵入者が来るのだろうか)
お喋りのホロッコが問いかける。
(非常に長い間閉じられていた居住区に来るのだから、見たこともないような敵だろう)
相方の推測。
(だとするとあのシャルクルスの記録は役に立つだろうか)
お喋りがさらに問いかけると、
(はなはだ疑問である)
と即答が返った。
(不必要な活動は控えるように!)
強く割って入ったのは先程のシャルクルスだ。
(侵入者がいつ現れるかは不明である。また現在利用できる動力は限られている。)
(侵入者に備えるための意見交換である)
お喋りは平然と答えた。
シャルクルスは反論できず、
(必要最低限にするように)
と指示した。
しばし間を置いて、お喋りなホロッコがまた信号を発する。今度はずっと弱い。
続く話題は、引き続きあのシャルクルスのことだった。
(彼は記録をそのまま送信した)
隣もその意をくみ同調する。
(要約して伝えるべきだ。そうすれば理解しやすいし時間もかからなかった。彼は要領が良くない)
(そんな調子では、あの記録の内容もやはり参考にならないのではないか)
すると相手は、ここに搭載される前の記録を伝えてきた。
映像を確認すると、映っていたのは激しい戦闘の跡を残す瓦礫の山。
砂塵の中から、あの説教好きのシャルクルスの威容が現れる。
向かう先には、圧倒される標的の最後の一体。ヒト型で、弱々しく片膝をついている。
ここまでは先程受け取ったものの大半と変わりない。
彼は右の肘を畳み、爪を構えた。
標的の背中に向かって一気に踏み出す。
最後の一撃を加えんと、鋭い爪を突き出したとき。
彼の真下から乾いた音が上がった。
つま先の瓦礫を支点に、勢いのついた胴体が思い切り躍り出す。
結局、彼は最後の標的を仕留めることができた。
強烈なボディプレスによって。
こんな記録は先程は伝えられなかった。
なんと間の抜けた姿か。こういった失敗を全て隠して「演説」していたのか。
お喋りは体を小刻みに振動させるが、こらえ切れはしない。
結局、大きなパルスがあふれ出した。
不真面目な信号が空間内にけたたましく響き渡る。
それを別の激しいパルスが中断した。
あのシャルクルスの一喝だ。
続けてシャルクルスは強く警告した。
(いつ侵入者が現れるかもわからないときに限りある動力を無駄な活動に費やすな。一切活動せず待機せよ!)
強い電磁波がお喋りの頭を加熱せんばかりだった。
しかし信号波にさらされている間、お喋りは気付いてしまった。
彼の爪の一本に欠けた跡がある。
しかも先端や内側ではなく外側、付け根近くの縁だ。
何かにぶつけないとこうはならない。
転んだときに違いない。
そう思うともうとても我慢できず、お喋りは再び頭をのけ反らせて甲高いパルスを発した。
直後、それ以上の衝撃が走る。
とうとう爪の一撃が頭に振り下ろされたのだ。
なおもお喋りはパルスを止めない。
さらにもう一方の腕も伸び、哀れなお喋りホロッコは強引に引き上げられた。
狭い箱の中に動揺が走る。今やここは電磁波の嵐だ。
ホロッコは短い足をばたばたさせるが、もし腕があったら振り回さず腹を抱えていただろう。
転んで欠けた爪を目の前に見せつけられているのだから。
(ff深く……h……はん……反nss省す……rるっ。t態d……度o、を、a……改めee……る……)
反省の旨を伝えようにも、歪んだノイズがシャルクルスを逆上させるばかりだった。
ホロッコの体がシャルクルスの頭上に掲げられる。
(過度な制裁を中止せよ)
(これ以上は任務遂行に差し障る)
他のシャルクルスの制止ももはや届かない。
(これはイレギュラーだ、破壊する!)
ホロッコが扉に叩きつけられる、まさにその瞬間。
突然その扉が開いた。
シャルクルスはお喋りホロッコを持ったまま、足元のホロッコ達ごと飛び出す。
後ろの区間はとっくに侵入者に破壊されている。
そのことに気付いたときにはすでに遅い。
一瞬見えた侵入者から閃光が放たれ、全てをかき消す。
やはり、彼の経験が役に立つ相手ではなかったようだ。