ロックマンDASHショートストーリー 1
「なんでも言ってね」
 フラッター号の船内、無線機の前。
 今日もディグアウトに出ているロックからの通信を、ロールは椅子に座って待機していた。今回のディグアウトは、慣れたルートを往復して少しずつディフレクターを稼ぐだけなので、ロールからの細かいサポートは必要でない。ロックから声がかかったときだけ対処すればよかった。
 ロールは無線機から目を離し、左手の薬指にはめた指輪を上機嫌で見つめていた。ロックが前回のディグアウトで見つけ、ロールのためにと持ち帰った指輪である。
 ロックが帰ってきたら肩を揉んであげよう。夕飯は、あんまり材料はないけど、できるだけロックの好物を作ってあげよう。装備のメンテも完璧にやっておいちゃおうかな。鼻歌まじりに幸せな想像を巡らす。
「ロールちゃん、そろそろ戻るよ!」
「あっ、う、うん、わかった!」
 前触れなくロックから声がかかり、慌てて応えるロール。傍らでデータが、無い肩を呆れた様子ですくめていた。

 フラッター号の乗降口が開き、ロックが入ってくる。ロールはそのすぐのところで出迎えていた。
「お帰りなさい、ロック!今日は疲れてない?肩揉んであげよっか?してほしいことがあったら何でも言ってね!」
 とびきりの笑顔ででちやほやとロックにかまうロールだったが、
「ん、うん……、」
 ロックはあいまいな返事を返して、ふらふらとリビングに直行。右手のバキュームアームも外さないままにソファーにどっかりと身を預け、ふーっと長いため息をついた。
(……、疲れてるんだから、仕方ないよね……)
 そうは思ってもロックの態度が素っ気なく感じられ、ロールは眉根を寄せて少しうつむいた。
 すると、ロックの座るソファーの方から、ぽふぽふと音が聞こえてきた。ロールが顔を上げると、ロックの右手がロックの右隣のソファーに置かれていた。座れ、ということだろうか。
 ロールが促されるままにソファーに座ると、ソファーを少しずらす音が聞こえた。ロックの上半身がおもむろにロールの方に倒れ込み、ロックの後頭部がロールの胸の直前を通過して、
 ロックは二つのソファーに寝そべる姿勢になった。頭は、ロールの膝の上にしっかりと乗っていた。
「……、……!?」
 驚き、慌て、照れ。それらがわらわらと集まってぶつかり合い、ロールは声も出せなかった。
「ごめん、何でも言ってって言ったから……」
「……、「言って」ないじゃない……!」
 頬を真っ赤に染めながらようやく出せた声は、困ったような抗議の声だった。
「う、うん……本当にごめんね、でも、改めてロールちゃんにしてほしいことって、これしかなくってさ……」
 いつになく大胆な行動に出たロックの声も、さすがに緊張しているのかどことなく固い。
「……これしか、って?」
 そこでロールも落ち着いてロックの話を聞けるようになってきた。ロックの頭は向こう向きにロールの膝に乗ったままである。
「家事は交代だけどけっこうロールちゃんに任せてて、ディグアウトのサポートに、装備のメンテや武器の開発までやってもらっててさ……、
いつも通りでもロールちゃんはとっても頑張ってるよ。すごく感謝してる。いつもありがとう」
 ロックの優しい声が染みたロールの胸中に、じわりと嬉しさが広がった。表情は緩み、右手が自然とロックの頭に乗った。
「あ、でも武器の改造費を、もうちょっとだけ抑えてくれたら嬉しいかな……なんてね」
 冗談めかして付け加えたロック。ロールが答えるのに少し間が開いた。
「……、いいよ?今度からもっと安くしてあげよっか」
「え、いいの!?」
 少し嬉しそうに驚くロック。だが、部屋の隅にいるデータにはロールの怪しげな笑みが見えていた。
「実はね、改造費を二分の一、ううん、三分の一にだってできるの。今まで黙っててごめんね。
でも、武器の改造で一番費用がかかるところって、どこだと思う?」
「……?、なんだろう」
「小型化。強力な武器を安全性を保ったまま小型化したり、武器を大きくせずにパワーアップするのって、すごく大変でお金がかかっちゃうの。
だからね、改造費を削ると、武器がすごく大きくなっちゃって……、本当に三分の一の費用で作ると、ボーン一家の小型戦車の砲塔みたいになっちゃうんだけど……」
「……」
 右手に装備したままのバキュームアームが、ロックの手首にずしりと重く感じられた。
「あ、でもロックなら、そのくらいでも意外とへっちゃらかも」
「すいませんでした」
 たまらずロックから詫びが入った。ふふっ、と笑みをこぼしながら、ロールはロックの頭をソファーの肘掛に置き直して立ち上がった。
「さてと、夕飯の支度しなくっちゃ。後でメンテしておくから、装備は外して作業場に置いておいてね」
 キッチンに向かうロールの後ろ姿を眺めながら、ソファーに置き去りにされたロックの口から、
「ロールちゃんには、かなわないなあ……」
大変心のこもった呟きが漏れた。
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